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第06話(呪怨との決着)

「……っ」

 襲爪脚(しゅうそうきゃく)による一撃で、落下速度をある程度相殺できたが、それだけでは足りる訳がなく落下の衝撃が襲ってくる。また、それまでに食らっていた爪による刺突のダメージと出血により、俺の意識は一瞬の間、飛んでいたようだ。

 まだ視界は霞んで朦朧としているが、戦いの結末を確認しなければと、まだ土煙の収まらない中、フラフラと落下地点に向かう。


「……あ、侮ったわ……たか、が、ネズミ如き……と」

 身体の中心を(やいば)のような鋭利な岩で貫かれた呪怨(ジュオーン)から大量の血が流れ、真っ赤に染め上げている。


「つ、強かったぜ。呪怨(ジュオーン)……正に、紙一重だっ……た」

「な、何が、紙一重……よ。万に一つも、か、勝ち筋なんて、なかった、だろうに……」

「ふっ……それでも、惚れた女の笑顔の為なら、万に一つでも戦うのが漢ってもんだ」

「ほ、惚れた女の笑顔か……わ、我はそんなのに……負けた……のか」

「ま、そういうこった。呪怨(ジュオーン)、お前の敗因は、俺を、烈火のグレンを相手にしたことだ」

「うははははは。言いよるわ……烈火のグレン、じ、地獄で先に待ってるぞ……」

 呪怨(ジュオーン)の身体から力が抜け、目から生気が消える。


「馬鹿、言ってんじゃ……ねぇ。ゆ、勇者の俺が、地獄に落ちる訳ない……だ……ろ……」

 俺はそう(うそぶく)くと、その場に崩れ落ちる。


「あ、これ、やばい……死ぬわ、俺……」

 そして意識が遠のいていくのだった。



「……様っ!」

「うーん。ダメだっ!フラン姫!!俺、もうこれ以上っ!!」

「グ……レン様っ!!」

「そ、そんな……俺もうイッ……」

「グレン様っ!!」

「ぐはぁっ!」


 容赦ない一撃が俺の頬を襲い、俺は地面をゴロゴロと転がる。


「はっ!」

 そして目に飛び込んでくるのは、なぜか毛を逆立てて、蹴りのポースで固まっている純白で綺麗な毛並みと真紅石(ルビー)の瞳を持つフラン姫。その脇には年老いた従者のジェームズ。

 中腰で俺を心配そうにしていたのは俺の右腕である黒い毛並みのランスロット。その後ろには片目に大きな傷を持つオサムネと、その部下のコジューロー。そしてその背後には、銀色の体毛を持つ巨大で神々しい獣……


「ほえ?」

 あまりの展開に頭がついていかない。確か俺は呪怨(ジュオーン)と闘い勝利を確信したが、滅多刺しにされた傷と、落下の衝撃により、気を失ったはずだが……


「な、何、想像しているのよっ!!心配……心配してたのにっ!!」

真っ赤な目に涙を貯めながらフラン姫が俺に詰め寄ってくる。


「大丈夫ですか?グレン様」

 ランスロットが地面を転がっていた俺に手を差し伸べて、起こしてくれる。


「あぁ、とりあえずは大丈夫なようだ」

 起き上がった俺は、改めて周りを見渡すと、呪怨(ジュオーン)が突き刺さった血塗れの岩と、銀色の体毛を持つ巨大で神々しい獣といった見慣れないものが目に飛び込んでくる。


「んが?!なんだそのでっかいの?!」

「この森にすむ神獣様だそうですよ。神獣様のおかげで我らは助かったようなものです」

「あぁ、マジ、ヤバかったんですぜ、アニキ?」

 俺が吃驚(ビックリ)しているとランスロットとオサムネが次々に口を開く。


 どうやらこういう事だったらしい。


 俺とランスロットが呪怨(ジュオーン)と共に崖下に落ちた時、俺の指示で逃げようとしていたオサムネ、コジューローだったが、予想通り、呪怨(ジュオーン)の部下が逃げた獲物を逃さないように、森を徘徊していたらしい。


 ウルヴァリンは圧倒的強者であり、1体であっても生き延びる事など叶わない相手なのだが、3体も配置されおり、絶体絶命の危機に陥っていた。

 だが、オサムネ、コジューローが自らの小ささと地形を利用した最適なルートを見つけて全速力で駆けることにより、フラン姫、ジェームズと共に離脱することが出来たようだ。

 しかしながら、ウルヴァリンも簡単には諦めずに、執拗に追いかけてきて、みんなは崖下の袋小路に追い詰められてしまう。

 その状況にオサムネとコジューローが死を覚悟してでもフラン姫を守ろうと決心したところ、ウルヴァリンの背後から神獣が現れ、ウルヴァリンたちを蹴散らしてくれたお陰で助かったらしい。


 神獣はフラン姫の切なる願いを受けて、崖下に落ちた俺たちを一緒に探し、まずはランスロットを見つけ、その後に俺を発見したようだ。


 神獣はウルヴァリン相手には逃げるしかないはずの跳びネズミ(ラニー)である俺が、悪名高い呪怨(ジュオーン)を倒そうとしている事に興味を持ち、手助けをしてくれたそうだ。

 無茶でも無謀でも挑戦してみるものだ。どこに幸運が転がっているかは分からないからな。


「なるほど……で、俺の傷はどうなってるんだ?痛くも痒くもないんだが」

「それは、神獣様の力の一つ、治癒促進の力で治ったようですね。私も、それで何とか」

「促進だけでなんとかなるとは思えない傷だったような気が……」

 俺はおかしいなと首を捻りながら呟くのだった。



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