第04話(呪怨との激闘)
「フラン姫逃げてください!」
フラン姫を守るかの如く、ランスロットがそいつの前に立ち塞がる。
「な……なんて、大きい……」
恐らく俺たちの10倍以上はある体躯を持つ獰猛な獣の姿に、フラン姫は恐れ慄き腰を抜かして、尻餅をついてしまう。
ガッ!!
「お前は邪魔だ」
そいつが軽く手を振ると、ランスロットが小石の様に弾き飛ばされる。
「ルンスロット!」
ランスロットがいなくなれば、フラン姫とジェームズの命を握られたも同然だ。
「貴様が呪怨か。噂に聞いていた通りの面構えじゃねぇか」
「我の事を知っているのか?ま、貴様の言う通り、我がウルヴァリンの呪怨だ」
余裕の笑みを浮かべる呪怨。不味い、ランスロットは気を失っているのか、藪からケツを突き出しているだけでピクリともしない。とりあえずフラン姫を安全な所に……
「おぉっと、動くなよ。この美味そうな白いのなんか、一瞬で殺れるんだからな」
「弱いのから甚振って殺す。性格の悪さも聞いていた通りだな。まぁ本当に強い奴と闘ったことがないから、捻じ曲がった性格が治ってないんだろうがな」
舌なめずりして、フラン姫を見る呪怨に俺は啖呵を切る。
「おーおー、小さいのがよく吠える。弱い奴から甚振って殺すって言うのは本当の話だが……まぁ、生意気な小さいのが絶望に沈むのを見るというのも一興かもしれんな」
「残念だ。絶望に沈むのは貴様の方だ」
俺は余裕の態度で呪怨に指を突き付けながら宣言する。
「よかろう。とりあえず吠えているお前から……」
呪怨は俺にターゲットを絞り、身体を大きく伸ばして、手を振り上げる。
「なんてな?」
そう言って、無慈悲にフラン姫目掛けて、その手を振り降ろす。
「そう来ると思ったぜ!鬼畜外道な貴様ならな!!」
それを読んでいた俺は、溜めに溜めた足の力を開放し、矢のような速度で突進する。
「キャァッ!!」
呪怨の一撃に目を瞑って防御姿勢を取るフラン姫。俺はフラン姫に体当たりし付き飛ばすことで、安全を確保したが、振り降ろされた狂気の爪が俺に迫る。
ザシュッ!!
空間を薙いだ鋭い爪は俺の身体を捕らえ、銀灰色の体毛が舞う。
「い、痛いっ!」
「ひ、姫!!」
「ア、アニキ!!」
俺に突き飛ばされたフラン姫の悲鳴。姫を気遣うジェームズ、そして俺の心配をするオサムネ。
「ほぅ、言うだけはあるじゃないか。我の一撃から庇いつつ、避けるとはな。」
突進の速度が呪怨の予測を上回れたのか、奴の爪は俺の体毛を裂くに留める事が出来たようだ。
「フラン姫!恨み言なら後で聞く!!今は安全な所に逃げてくれ!オサムネ!コジューロー!!フラン姫を頼む!!呪怨が単体で来ているとは思えん!!」
俺はオサムネとコジューローに指示し、逃げるように命令する。
「……お前、本当に賢しいな。ただの跳びネズミじゃないな?」
「ふっ!シュツルムズィーゲン皇国の第3皇子、逆巻く烈火のグレンとは俺様のことよ!!」
「シュツルムズィーゲン皇国?跳びネズミの国など知らんよ。国って言ってもただの集落だろう?」
「うるせぇ。俺の名前を冥途の土産に持って行きやがれ!弧月脚!!」
俺はそう言い、呪怨の懐に飛び込み、大地を蹴りバク転の要領で上方に向けて蹴りを放つ。
不意を突いたその一撃は呪怨の胸を強打する。
「くぅっ!たかが!たかがネズミ如きに!!」
着地の瞬間を狙って腕を振るう呪怨。だが俺は颯爽とバックステップし、呪怨の爪を躱して距離を取る。
「生意気なっ!!」
呪怨は地を蹴って俺に飛び掛かりながら、左右の腕で必殺の爪撃を放つ。俺の10倍もある巨体での飛び掛かりだ。造作もなく一瞬で俺を射程に入れる。
「そうはさせるかっ!空連脚!!」
バックステップで浮いたまま、回し蹴り、後ろ回し蹴りへと繋いで、必殺の爪撃を弾き飛ばす。
そのまま先に着地すると、身体を縮こまらせ、力を溜める。
「跳びネズミの脚力を甘く見るなよ!必殺!回転烈火撃!!」
俺は回転を加えて斜め後ろに跳ね上がる。その一撃は呪怨の腹部にめり込み、そのまま巨大な身体を突き上げる。
「ぐはぁっ!!」
「ここは崖近く、この方向に飛ばせばわかってるだろうなっ!!」
不用意に呪怨が飛び込んだのは、俺たちが崖上からベルジュ王国を見下ろしていた場所。そこからこの方向に攻撃を加えればどうなるか。
「な、何っ?!たかがネズミ如きの攻撃でぇぇぇぇっっっ!!」
呪怨が身体を捻りながら、必死に飛ばされる向きを変えようとする。
「あなたの思い通りにはさせません!!」
初撃で吹き飛ばされて、爪によって胸に大きな傷を負ってしまったランスロットが走り寄る。
「黒色騎士槍撃!!」
俺の回転烈火撃で浮いた呪怨へ、ランスロットが騎士槍を彷彿とさせるような突撃を行い、さらに地面から遠ざける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!逃がさぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!」
俺は回転を止めずに、呪怨の腹にめり込んだまま、共に崖下に向けて落下していくのだった。