第03話(壊滅の王国)
「許せねぇな、呪怨。とりあえず、ボコりに行くか」
「……やめてくださいよ、グレン様。我々の天敵ですよ、アイツ」
「ふんっ。お前たちの天敵かもしれんが、俺の天敵にはなりえんな。所詮、ケツの穴が臭いだけの獣だ」
「いやいや、アイツの強みはそこじゃないでしょ」
「うるせぇ!惚れた女が泣き崩れている!俺が命を懸けるには十分な理由だ。つべこべ言わずに行くぞ!」
小姑の様に俺を引き留めようとするランスロットを説き伏せ、俺は泣き崩れているフラン姫を瞼に焼き付けると、ベルジュ王国へ向けて歩き出そうとする。
「おいおい、破天荒とは思っていたが、どこまで突き抜けるんだ、アンタは」
「ふっ、道理が気に食わないとありゃ、無理を通して道理を蹴っ飛ばすしかねぇ!理不尽なんぞ、全て突き抜けてやる。それが俺の生き様だ」
オサムネが肩をすくめながら俺に問いかけてくるが、俺は決意を込めた眼差しで信念を口にする。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす?理不尽を突き抜ける?なんだ、コイツ。普通じゃねぇ……やべぇ、ズギューンってきた!惚れた!!……オレも付いて行くぜ!グレンのアニキ!!」
「えぇぇぇ、マジっスか?!オサムネのお頭!!付いて行くって?アニキって?!」
俺の言葉を聞いたオサムネが膝をつくと俺に首を垂れる。それを聞いたコジューローがワタワタと俺とオサムネを交互に見る。
「コジューロー!!この瞬間から、オレら栄光傭兵団はアニキに付く!!文句がある奴ぁ勝手に抜けちまって構わねぇっ!!」
「お前みたいな暑苦しい舎弟はいらないんだが……まぁ片目というツラが気に入った。付いてきたいなら、構わねぇぜ!」
「ははぁっ!承知!!」
こうして俺グレンを筆頭に、右腕のルンスロット、そして新たに隻眼の傭兵オサムネを配下に加え、天敵の待つベルジュ王国へ向かうのだった。
「抜けちまって構わねぇって……」
「……私はランスロットですからね?」
従者同士のコジューローとランスロットはお互いの顔を見合わせて、深い溜息をつき、俺らの後を追い始める。
俺は、右腕であるランスロット、俺に惚れ込み舎弟宣言をし始めた栄光傭兵団のオサムネと、その配下のコジューローを連れて、フラン姫の故郷であるベルジュ王国へと足を進める。自分たちだけで行く予定だったのだが、自国の様子が気になるのかフラン姫とジェームズも後ろからついてくる。
「リンスロット、フラン姫とついでにジジィをしっかり守ってやれよ」
「ランスロットです……まぁできる範囲ではやりますけどね……」
「おい、コジューロー、偵察に行ってこい」
「近づくのは相当に危険っスよ……まぁ行きますけど」
俺とオサムネはお互いの従者に命令をすると、それぞれが余計な一言を呟きつつ、命令を遂行するために動く。
「で、アニキ。作戦は?」
「そうだな。とりあえず、崖の上から飛び降りながら蹴る」
「オレの時と一緒!?」
「あぁ、大体はそれで解決するからな」
俺の大雑把な作戦にオサムネは驚く。
「……呪怨相手には無理じゃねぇか?」
「無理だと思うから無理なんだよ。諦めた時点で可能性は0%だ。だが可能だと思えば可能性は1%以上だ。可能性が1%でもあれば、俺はそれに賭ける」
「そういう生き方で、よく今まで無事だったなぁ……」
俺の作戦が、あまりにも素晴らしすぎたのか言葉を失うオサムネ。
「いや、呆れてんだが」
「はっ!お前もかっ!!」
俺がキメ顔をしていると、オサムネが瞬時に突っ込みを入れてくる。これなら、ランスロットがいなくても突っ込み役には困らないな。
†
「そろそろ、ベルジュ王国です」
数時間歩いたところで、フラン姫が告げる。
「このまま進めばベルジュ王国が一望できる崖の上に出られるはずです」
深い森を抜けて開けた崖の上に出る。眼下に広がるのは三日月形の湖と湖畔に聳える城。城の周りには夥しい量の死体で真っ赤に染まり、その生々しい血の匂いまで漂ってきそうだ。
「あ……あぁ……もう、もう……お父様!お母様!」
見るも無残な光景を見て、再び泣き崩れるフラン姫。そして一際大きな野獣が死体を弄んでいる。
「あいつが呪怨か……」
「いや違うな。呪怨は突然変異種でもっとデカい。アレはその手下だろう」
オサムネがそれを見て呟くが、俺が否定する。
「なっ!アレでまだ小さいのか?!アレだってオレたちの5倍はでかいぞ?!」
「俺が話を聞いている呪怨はあんなに小さくない」
崖下を覗き込む俺とオサムネ。そこから少し離れて泣き崩れているフラン姫とその従者のジェームズ。その傍にはランスロットが控えている。
「お、お頭!!やばいっス!!呪怨が!!」
そこにコジューローが森の中から飛び出してくる。
「騒ぐな!コジューロー!!気付かれる!!」
「い、いや!もう……」
コジューローが息を切らせながら後ろを振り向く。
「くくくくく……少しは賢しい奴もいるじゃないか」
コジューローの後ろの森の中から、のそりと死を呼ぶ獣が姿を現すのだった。