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第20話(別れ……そして始まり)

 翌日の朝、ランスロットと冒険者たちは、この住居を出て行った。アルカードと言う子供と数人の人間(ニンゲン)が残っているようだが、アルカードは寂しいのか、俺たちに付きっきりだった。

 寝るとき以外は、ほとんど俺たちと一緒にいる。食事も俺たちのいる部屋で摂っていて、その食事の時に木の実や乾燥させた野菜や草を持ってきてくれる。

 そして俺たちが食べている姿を興味深く見たり、俺たちが毛繕いをしていると、横から手を出して撫でたり掻いたりする。手が届かない所を掻いてくれるのは本当に助かる。

 俺たちは夜行動することが多いため、昼は比較的寝る事が多い。何が楽しいのかわからんが、俺たちが不意に目を覚ました時にも、繁々と眺めているのを何度か見かけていた。


 世話をされて数日が経った頃、明り取りの窓から、騒々しい同族の声が耳に入ってくる。


「グレン、この声!」

「あぁ、オサムネたちだ!」

 俺とフランは寝床が置いてある机……人間が作業をするのに便利な家具から飛び降りて、扉……部屋を区切る板の前に行く。


「仲間が来たみたいだよ!」

 俺たちが扉の前に行くと、アルカードの足音が近づいてきて扉が開く。

 人間の言葉はわからないので何と言っているか不明だが、ランスロットが出かける前に、我々の仕草と人間の身振り手振りの説明を伝えあっていたお陰で、何となく主義主張が判るようになっている。


 アルカードが掌を差し出してくる。出たらダメなときは、掌を前に出して壁のようにするが、連れて行ってくれる時は掌を向けて、俺たちを乗りやすくしてくれる。

 俺は掌を踏み台にしてアルカードの肩に乗り、フランは掌の上に乗る。するとアルカードはフランを大事そうに包み込むと、俺が肩から落ちないようにゆっくりと立ち上がり、嬉しそうに走り出す。


「父さん!母さん!」

「お前たち!!」

 外に飛び出したアルカードと俺がほぼ同時に叫ぶ。


「おぉ、アル。戻ったぞ」

「ただいま。アル」

 レイオットとクリスティーナがアルカードに笑いかける。


「グ……グレンのアニキっ!!」

「グレン陛下っ!!無事でよかったっス!」

「フ、フラン様っ!!」

「グレン陛下、無事でよかった・・・チュー」

「おぉぉぉぉぉ!グレン陛下!よくぞご無事で!!」

 オサムネ、コジューロー、号泣するジェームズ、アルゴチュを筆頭に、名だたるシス王国(キングダム)の重鎮たちが俺たちの姿を見て歓声を上げる。


「ふぅ、ありがとうございました、主様。これで我が王も安心したことでしょう」

「いやいや、お安い御用ですよ」

 ランスロットはシグルスに丁寧に頭を下げると、シグルスが笑みを浮かべ、ランスロットの背中を撫でつける。やはり、俺とフランの為に、無理を言って国民を連れてきてくれたようだ。


 俺はアルカードの肩に仁王立ちになりながら、零れそうになる涙をこらえる。仁王立ちになった俺を見て、皆は何か言葉を掛けてくれることを察知したのか、黙って整列し、俺の言葉を待つ。


「よくぞ!よくぞ、生き残ってくれた、皆!!我は嬉しく思う。そしてこの困難に生き残り、そしてここまで馳せ参じてくれた皆を誇りに思う!!そして我はシス王国(キングダム)に戻り、皆と共に再建を果たしたい……」

 俺は誇らしく皆を称えるが、そこで言い淀んでしまう。


「はははははっ!我らが無二の偉大なるグレン王よ!!話はランスロットから聞いてたぜ!」

「オサムネ……」

「正直言やぁ、寂しいぜ?だが、王には王の役目がある。世継ぎを残してシス王国(キングダム)の繁栄を約束するっつー役目がな!」

「そうっスね。あっしらも肩身が狭かったんスよ?陛下に御子が出来ないのに、あっしたちはパカパカ跡継ぎを増やしていたことをっス。それに陛下はみんなの幸せを守るために、常に最前線で戦ってたっス」

「気に食わぬが……フラン王妃を幸せにし、ベルジュ王国の血を絶やさぬためには……」

 オサムネ、コジューロー、ジェームズが言い淀む俺の背中を押す。


「我々も同じ思いです!ですが旅立ちの見送りをさせて頂きたいと、志願して連れてきてもらったんです!!我ら一同、陛下が新天地に向かう事に、一片の異論もありはしません!!」

「お、お前たち……ありがとう」

 続いてこの場にいる全員から、そのような強い意志と同意が返ってきて、俺は皆の想いに頭を下げる。


跳びネズミ(ラニー)ってなんか凄いね」

「あぁ、人間でもこうはいかない。とんでもない統率力だな……」

 俺たちのやり取りを見ているアルカードとレイオットから言葉が漏れる。


「明日の朝には、グレン陛下は発つそうだ。今晩だけは皆と一緒に居られるという事だから、食べ物を用意してもらった。最後の機会になるかもしれないから、悔いの無いように十分に陛下と懇親を深めてほしい」

 ランスロットが皆にそう締めくくると、その晩は夜通しの宴席となった。この夜の事は、一生涯忘れないだろう。


 次の日の朝、長い間家を空けられない理由があるレイオット、クリスティーナ、アルカードと共に、馬車でこの地を発つことになった。シグルスとゴルドーは密猟者(ミツリョウシャ)討伐の報告を行う為に、ここで別れるらしい。

 つまりは俺たちとランスロットもここでお別れだ。


「ランスロット。お前には生まれてからずっと……特に国を飛び出してからは散々迷惑をかけたな」

「なんの、迷惑だなんて。凄く充実して楽しい日々でしたよ。グレン様」

「そうか、そんな忠臣のお前と別れるのは心苦しいが……」

「いやいや、これでグレン様のお守から解放されると思えば、羽が生えたように身軽……で、す……」

「……レンスロット。お前……」

「ラ、ランスロット……で、す。グ、グレン様……」

 俺たちはレイオット一家と共に馬車に乗り込み、ランスロットに目を向け、そして万感の思いで礼を述べる。その言葉に、いつも冷静なランスロットが肩を震わせながら答える。そして俺の双眸からも熱い何かが零れ落ちると、下腹部の文様が光る。感情が高ぶると光るようだコレ。


「ご、ご無事を、願って、おります」

「あぁ、お前も、お前も身体には気をつけろよ」

「私からも……ランスロット。いままでグレンをありがとう。貴方がいなかったら、私はグレンと知り合えていなかったと思うし、今日までこうして無事にいられなかったと思うの」

「フラン王妃……もったいないお言葉です。どうか、どうかグレン様と末永く……」

「えぇ、グレンは私が必ず。あとランスロットも幸せにね」

 震えるランスロットにフランも声を掛ける。そして、その頃合いを見計らったかのように、俺たちを乗せた馬車が動き始める。


「グレン様!今まで、今まで本当にありがとうございました!!」

「達者でな!アニキ!!また逢おう!!」

「フラン様っ!!どうか、どうか身体にはご自愛を!!」

「グレン陛下!万歳!!フラン王妃!万歳!!」

 皆から熱い言葉をもらいながら、馬車が遠ざかっていくのだった。



 そして1年が過ぎようとしている頃……


「キュィッ!キュィイッ!!」

 大きな鳴き声と共に、銀灰(シルバーアッシュ)色と白色を持つ赤子が産声を上げる。


「よくやった!フラン!!」

「父さん!産まれたよ!!」

 新たな生命を祝福する大きな声が、とある田舎の村の冒険者の宿に響く。


「私と、グレンの血をしっかりと引いているわ……」

 出産で物凄く体力を使い衰弱しているフランが、我が子を愛おしく見つめながら呟く。


「あぁ、間違いなく俺とお前の子だ」

「キュィー、キュィー」

 まだ目は開いていないが、”自分は産まれてここにいる”と主張するかのように鳴き声を上げる。本来数匹を身籠り出産するのが、跳びネズミ(ラニー)の常だが、数匹を身籠った場合、全て流産という結果になってしまっていた。そして滅多にないのだが、今回は何故か1匹のみ身籠り、そのせいか順調にお腹の中で成長し、こうして産まれてきてくれたのだった。


「俺とお前の血を引いた子供。お互いの名を取ってグランと名付けよう」

「グラン……良い名前ね。将来あなた以上の功績を上げそうな気がするわ」

「そうだな。我が息子には、広い世界を知り、俺より大きなことを成してもらいたいものだな」

「えぇ。そうね」

 俺たち二人はグランを見つめながら、未来に思いを馳せる。


「産まれたか!やったなっ!!」

「産まれたの?良かったぁー」

 レイオットとクリスティーナも、部屋に駆け込んできて祝福してくれる。


 良かった……シュツルムズィーゲン皇国を飛び出して。良かった……フランと知り合えて。良かった……仲間に恵まれシス王国(キングダム)を建国出来て。良かった……レイオット、クリスティーナ、アルカードと共に過ごせて。


 こうして、世界を変えていくことになる少年アルカードの、無二の親友であり相棒となるグランは、この世に生を受けアルカードと出会ったのだった。


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