第02話(新たな同行者)
俺の求愛に吃驚した顔を隠せないフラン姫。それもそのはず、俺のように素敵な漢から求愛されるなど、想像だにしていないから当然だろう。しかし、その驚きはやがて高鳴る胸の鼓動へと変化するだろう。
「……出会ってすぐに求愛なんて、常識外れ過ぎて驚いているだけだと思うんですけどね」
レンスロットが俺の言動は非常識であると言う。
「ちなみにランスロットですからね、私は」
「お、お前!俺の心が読めるとでも言うのか?!」
「やっぱり……」
そんなの簡単にわかるでしょうと言わんばかりの表情で溜息をつかれる。
「で、答えは決まったかい?フラン姫」
「決めるも何も……わたくしはあなたの事をこれっぽちも知らないのですけれど?」
「…………」
素っ気ない態度と心なしか冷たい視線で返してくる。おかしいな……ピンチに颯爽と駆けつけると、吊り橋効果で恋に落ちると、かの有名な恋愛術士に聞いたのだが……
「グレン様、不思議そうな顔をして考え込んでいますが、それはただの妄想ですからね」
「……はっ!!」
呆れた表情のランスロットの言葉で我に返る俺。
「ま、まぁ。お互いの事は追々知っていくとして、まずは結婚しよう!!君の気高い雰囲気と真紅石のような美しい瞳に惚れたんだ!!」
ぺちっ
俺が恭しく手を差し伸べると、いらない物をどけるかの如く手を払われる。
「窮地を助けて頂いたことには感謝しておりますが、今は酔狂なあなたに付き合っている余裕はありません。すぐにでも国に戻って、お父様とお母様をお救いしなければ……何とかジョアンが守っていてくれるはず……」
「姫、それは難しいです。もう城は敵の手に落ちております。戻っても危険なだけかと」
「そんなことはないわ、ジョアンは国一番の騎士。敵が多少多くても後れを取るはずはないと思うの」
フラン姫はジェームズの助言を聞き入れず、来た道を引き返そうとする。
「そっちは、もう死地だぜ?」
「なっ?!」
行く手を阻むように、俺が先ほど突き飛ばしたはずの傭兵が立ち塞がり、フラン姫はビクッと体を強張らせて固まってしまう。
「警戒しなくても大丈夫だぜ、そいつ。さっきあった殺気がない」
「……うまくないですからね?そんなキメ顔をしても」
俺は姫にそう言うと、キュピーンと手を顎に当てながらランスロットを見るが、俺の会心のセリフは、けんもほろろに突き放されてしまう。
「そっちの破天荒の言う通りだ。オレはもう殺る気がねぇよ」
「やけに引き際がいいじゃねぇか。お前が何ものかは知らんが」
「あぁ……俺は栄光傭兵団っつー、傭兵団を束ねているオサムネっていうケチな野郎さ」
オサムネは両手を上げて降参したようなポーズを取りながら話し始める。
「雇い主は明かせねぇが、ベルジュ王国の侵攻に伴って、逃げ出す王家の血筋を捕らえろっつー依頼だ。お前みたいのを相手にしろってのは、契約にはなかったからな。それに……あいつら、出しちゃいけないところに手を出したからな」
「ん?何のことだ?」
「禁断の野獣を使ったのさ。ベルジュ王国を落とすためにな」
オサムネは依頼の達成を諦めたらしく、契約内容を暴露する。
「ま、まさか……」
「そのまさかさ、臭わねぇか?ここまでもよ」
「……あぁ、そういう事かよ。やりやがったな!!」
「……あたりがやけに静かだと思ったらそういう事ですか」
フラン姫が顔を青白くさせ、オサムネが問いかける。そして俺とランスロットも鼻を鳴らして臭いを嗅ぐと確信する。
「フラン姫の国を襲った奴らは呪怨を連れてきやがったのか!」
空気に乗って流れてきた臭い。この鼻につく臭いを嗅いで俺は確認する。間違いない、これは呪怨の臭いだ。
「お、お頭っ!!んが?何だ貴様らはっ!!」
ベルジュ王国方面の茂みから抜け目のなさそうな痩せぎす男が現れると、吃驚して警戒態勢を取る。
「大丈夫だ、コジューロー。とりあえず戦って、もう負けた後だ」
「はぁ……え?!負けた?お、お頭が?!」
「あぁ、これ以上はないってぇくらい負けた。それなのに命まで取らないように手加減されてな」
オサムネが痩せぎすのコジューローにそう言うと、俺は身内から冷たい視線を向けられる。
「手加減……?」
「反撃されたらどうするつもりだったんですか……」
「ま、まぁあれだ。結果オーライって事で」
俺は冷や汗を流しながら、ランスロットとフラン姫に向けて、パタパタと手を振る。
「で、どうしたんだ?コジューロー」
「は、お頭!依頼主っスけど、呪怨に食い殺されたっス。更にベルジュ王国の重鎮たちも、ほぼ全員が呪怨の牙にかかったっス」
「あぁ!!お父様!お母様!!」
コジューローの報告に、フラン姫が真紅石の瞳から大粒の涙を流しながら、崩れ落ちてしまうのだった。