第18話(新たな希望)
「グレン……グレン……」
俺を呼ぶ優しい声が聞こえ、目を開けると見慣れない場所にいた。そして柔らかい白いものの上に寝かされていたようだ。声がした方に顔を向けると、愛しいフランの顔が見えた。
「ここは?」
「わからない。でもあなたが倒れた後、大きな生き物がランスロットを優しく抱き上げ、私たちに手を差し伸べてきたわ。貴方だったらランスロットを見守りたいだろうと思って、その手に乗ったら、あなたと一緒にここに運ばれたの」
「なるほど、我はどのくらい眠っていたんだ?」
「陽が何回か昇るのは確認したわ……」
「そんなにか……国のみんなは大丈夫だろうか」
俺は身体を起こすと周りを見渡す。四角い入れ物の中に、この柔らかくて白いのが敷かれ、奥には乾燥した草が盛られていた。幾つもの木の板で覆われた場所で雨風は全部凌げそうに見える。
この場所には俺とフランしかいないようだ。場所も分からないし、逃げるのも難しそうだ。そんなことを考えていると、ギィッという音がして、大きな木の板が動き、巨大な生き物が3体と、それより小さな生き物1体が入ってくる。そして巨大な生き物の手の上にはランスロットが乗っていた。
入ってきた生き物を見ると、俺が寝ていたところは、巨大な生き物の半分くらいの高さの場所らしい。
「グレン様!ご無事で!!」
「あぁ!ランスロットも大丈夫だったのか!!良かったぜ!!」
「ランスロット!無事だったのね!!」
ランスロットはそう言うと、巨大な生き物の手から飛び降りると俺たちの所に駆け寄ってくる。
「いや、九死に一生を得ましたよ……あんなこと、二度とやりたくないですね」
「俺だってあんな光景は二度と見たくないぜ」
「……えっとですね。この大きな生き物は人間、と言うらしいです」
ランスロットが巨大な生き物の方をチラリと見て説明を始める。
「人間?聞いたことないな」
「えぇ、人とも言うそうです。そして、あまり私たちの住んでいる場所には滅多に立ち入らないと言ってました。ですが、私たち跳びネズミの毛皮が貴重との事で、密猟者という悪人が立ち入って、私たちの国民を攫っていたようなのです」
俺はランスロットが視線を向けた人間という巨大な生き物を見ながら話を聞く。
「密猟者って?」
「山賊とか傭兵みたいなものらしいです」
「あぁオサムネみたいなやつか」
そういやオサムネやコジューローたちは大丈夫だろうか……
「で、私たちを助けてくれたのが、ここにいる人間たちで、密猟者を退治しにきた冒険者というものたちだそうです」
「なるほどな……ってなんでお前そんなに詳しいんだ?」
俺は視線を人間からランスロットに戻して直視する。
「とても……言い辛いのですが……」
「どうしたの?」
視線を逸らすランスロットにフランが心配そうな声で聞く。
「まぁ、言わない訳にもいかないですしね……えっと、こんな状況でしたので、グレン様とフラン様を何としても守るために、橋渡し役として人間と従魔契約というのを結びました」
「従魔契約って何?」
「人間の僕になり、人間の目や耳として生きる存在になるって事です。おまけで寿命が延びたり、意思疎通ができるようになります。今回は寿命を延ばすのと意思疎通がメインですけど」
「僕って……」
「人間に逆らえない便利な道具になるって事ですね」
ランスロットが淡々と説明する。
「お、お前!!」
「ラ、ランスロット……そんな……」
「あぁ、別に大丈夫です。主様は大事にしてくれそうですし、それよりグレン様やフラン様に人間の考えを伝えたりする方が大事ですから。あと生き残っていると思われるオサムネたちにも」
俺は大声を出してしまい、フランは言葉を失う。ランスロットはもう心の整理がついているのか軽い感じで喋る。俺は、こんなにランスロットに無理をさせて良いのか?いいや、良い訳がない!!
「良いんですよ。グレン様。私はグレン様のおかげで過分な経験をさせてもらいましたから。それにこの人間たちがいなければ、私は間違いなく死んでいたでしょう。あと従魔契約をしなければ、その助けてもらった命も消えそうだったんで、私が生き残るためにも従魔契約は必須だったのですよ」
「そ……そうか……」
「それで、密猟者はまだ全滅できていないみたいです。今、シス王国に戻っても、また同じことになりそうです。私は伝令役として人間の側に残りますが、グレン様は一旦、人間の庇護下に入ってほとぼりが冷めるまで安全な所で暮らして下さい」
ランスロットは静かで優しい目をしながら、俺とフランに語り掛ける。
「お、お前!シス王国の仲間を残して、俺だけがのうのうと安全な所で過ごせるわけないだろ!!」
「そうですよ、ランスロット。グレンがそんなことできる訳ないでしょ?」
俺はそんなランスロットの提案に驚く。そんな無責任な事なんてできない。国民たちを守るのが俺の仕事だからだ!
「ですよね……ですが、御子を授かることが出来る……そう言ったらどうでしょう?」
「な、何……だと?」
「えぇ?!」
突然のランスロットの発言に吃驚して言葉を失う
「グレン様とフラン様に御子が授からないのは、グレン様に膨大な魔力が宿っているせい……らしいです」
「魔力って、グレンの光る凄い力の事?」
「えぇ、おそらく神獣に癒されたときに目覚めた力じゃないかと主様が言ってました。その強力な魔力は御子にも引き継がれるんですが、力が強すぎて受けきれないようです。なので魔力を抑える術というものを施せば、その力が弱まり御子を授かることが出来ると言ってました。ですが、その術を使えばグレン様は今の力のほとんどを失います。そこにまた密猟者が来たら……今度こそ対抗できずに終わったしまうでしょう」
「……そうか。全部は理解できないが、俺に子ができる可能性があるのと、力を失ってしまうという事は判った。とはいえシス王国の国民を放っておいて自分だけ安全な所にいるというのは許容できん」
「大丈夫ですよ。シス王国の仲間もグレン様とフラン様の御子を望んでいましたから。安全な所で産み育ててもらいたいと熱望してます。それにシス王国の仲間たちは主様と共に私の方で調べてみます」
俺の心配を解消するようにランスロットが提案してくる。確かにランスロットとこの人間たちがいれば、シス王国の国民の安否は何とかなるかもしれない。
「グレン……私、貴方の御子を産みたい」
「フラン……」
俺が逡巡していると、フランがそっと俺の手に自分の手を乗せながら意を決したように言う。俺もフランの気持ちは痛いほどわかる。だが……
「答えは1つしかないでしょう?グレン様」
俺とフランが見つめ合っているのを、やれやれと肩をすくめたランスロットは人間の手に乗る。
こうして俺は、人間とやらと一緒に生きる事になったのだった。




