表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/60

59.少女の願いと奇跡

サナから放出された光は、次第に少し離れた場所へと集中して集まっていった。


フワッと光を放ったと同時に、空間に新たな穴を構築する。


大きく縦に開いた穴から、恐る恐る一人の少女が顔を出した。

空間内を覗き込んだ少女は、その中にユマの姿を見つけると、その瞳を大きく見開いた。


「お姉さま!!!!」


空間に響き渡った声に、ユマがピクリと反応して顔を向けた。


「エ、エマ?」


サナが顔を向けると、縦に空いた空間の穴から身を乗り出している一人の少女がいた。

ユマと同じ白銀の髪にピンクの瞳を持つ少女は、必死に手を伸ばしている。


「お姉さま、早くこちらへ!!」


「無理だわ。そこに行くまでに、時空の流れが……」


ユマがぶら下がっている穴から、彼女が身を乗り出している穴までの距離は三十メートルくらい。

しかしその間には、時空間特有の時空の流れが川の様に走っている。


足を踏み入れたら最後。

一気に流されてしまうだろう。


なんとかしようとするエマの後ろから、駆け付けてきた男性が顔を出した。

彼の姿を見たユマが瞳を見開いた。


「ユマ!!!」


「ロイフェス!!!」


「クソッ!!なんとかならないのか!やっと見つけたのに!!!」


彼は時空の流れを、忌々しそうに見つめ続けた。

意を決した彼は、身を乗り出して空間へと進もうとする。


そんな彼を見て、ユマの顔から血の気が引いた。


「やめて!!!ダメよ、ロイフェス!!お願いだからやめて!」


「俺は絶対に諦めない!刑が執行される時、俺はそうユマに伝えた筈だ。あれから俺達は、ユマの無実を証明した。だからもう、ユマが苦しむ必要なんてないんだ!」


空間に入ろうとする彼を、後ろにいる人達が必死に抑えている。


そんな彼の姿に、ユマは涙を流した。


「もう良いの。無実を証明してくれてありがとう、ロイフェス」


「諦めないでくれ、ユマ!俺は、君と一緒に生きていきたい!」


彼の言葉に、ユマの手にグッと力が入った。

互いの手を通じて、ユマの気持ちが痛いほどサナへと伝わって来る。


グッと手に力を入れたサナは、もう一度自身の力を解放した。


「お願い!ユマを助けてあげて!!!」


再び発光したサナの力は、ユマの足元を明るく照らした。

それは光の道となって真っ直ぐに伸びていく。


それを見届けたサナは、ユマの手を離した。

光の道へと足を下ろしたユマは、顔を上げてサナを見た。


「ユマ。消える前に、早く行って」


「……ありがとう、サナ!」


ユマは両手を広げて待つ愛しい人達の元へと向かって、金色の道の上を走り始めた。


ユマが空間へと降りたと同時に、地面に描かれていた漆黒の魔法陣が消え失せる。

リファイドは、今にも穴へと落ちそうなサナに駆け寄ると、その体を支えた。


空間の中では、ユマが愛しき人達の腕の中へと辿り着く。

開かれた穴から空間の外へと出たユマは、もう一度サナへと視線を向けた。


「サナ!本当に、ありがとう。元気でね!」


「ユマも元気で!みんなと仲良くね!」


頷きを落としたユマは、サナの横にいるリファイドへと視線を移した。


「リファイド様!サナを幸せにして下さいね!」


「ああ!勿論だ」


力強く返された返事に、ユマは穏やかに微笑んだ。

自分の世界へと戻ろうとしたユマは、ハッと思い出すと、もう一度後ろを振り返った。


「あっ!それと、魔源花(まげんばな)の蔓の事なのですが!」


「魔源花の蔓?」


「はい!そちらでは邪紋と呼ばれている物です。あれは、魔力を源とする花なのです。魔物の血で汚れた土地で育った作物の中に、稀にその花の種が出来てしまうのです。それを摂取した者の体内で、魔力を吸いながら育ちます。成長した魔源花は、人と人との親密な接触を通じて種を飛ばし、広がる事もあるそうです」


邪紋は、ユマのいた世界でも問題となっていた物だった。

しかし彼女の世界では、研究が進んでおり、その対処方法もキチンと調べられていた。


「一番の対処方法は、土地の浄化です。サナの力があれば、蔓を消し去る事が可能なので、あまりお役に立てる情報では有りませんが、ご参考までに覚えておいて下さい」


「とても助かる助言に感謝する。ありがとう、ユマ!」


ユマが頷きを落としたと同時に、ユマの前に開かれていた空間が静かに閉じていった。


それを見届けたサナとリファイドは、ホッと吐息を溢し合った。


「サナ……。頼むから、無茶だけはしないでくれ」


「ごめんなさい。でも、どうしてもユマを助けてあげたかったの」


二人はもう一度、時空間の中へと視線を移した。


ユマは確かに追放された人だった。

でも、彼女の無実が証明されたと、男の人が言っていた。


聖女の召喚の儀の時、サナの叫びを聞いて、咄嗟に手を差し出してくれたユマ。

やっぱり彼女は悪い人では無かったのだ。

男性に肩を抱かれたユマは、とても幸せそうな表情だった。


(本当に、良かった)


心の底から喜んでいたサナだったが、その時、時空間の中の変化に気が付いた。


再び静まり返った時空間の中には、未だにサナの力で描かれた金色の道が残っていた。

その道は突如としてバラッと崩れ去り、無数の光の玉へと姿を変える。

そして今度は、違う場所に向かって集まり始めた。


集まった光の球は、時空間に再び穴を開けていく。

穴の空いた空間の向こう側には、壁にかけられた水色の姫系コスチュームが揺れていた。


「ウソッ!あれって私の部屋?」


驚きの声を上げたサナだったが、ハッとすると横へと視線を移した。

驚き顔のままのリファイドが、時空間の穴を見続けている。


ジッと自分を見続けるサナに気がついたリファイドは、グッと拳を握り締めた。


帰したくない。

しかし、これを逃せば、サナはもう二度と日本に帰る事は出来なくなるだろう。


リファイドは、苦渋の決断を下した。


「サナ……。急がないと、穴が閉じてしまう」


「……帰って良いの?」


「……本当は帰したくない。でも、もう二度と、こんなチャンスはないと思う。帰せるのなら、今帰さなければならないと……」


リファイドは、言葉に詰まった。

そんな彼を見て、うつ伏せのまま穴の中を覗き込んでいたサナは、体を起こした。

そして周りを見回してみる。


サナの近くにはロッチアとアンナとマリー、マリクやその友達、国王様や騎士の皆んな。

沢山の人が集まって来てくれていた。

彼らもまた、自分達の心を押し殺して、サナの決断を見守っている。


サナはもう一度、空間を覗き込んで、自分の部屋を見つめた。

今なら自分の力を使えば、あそこまで行く事が出来る。


(でも……)


顔を上げたサナは、リファイドの顔を見つめながら立ち上がった。


「よし!ユマは無事に帰ったし、私は砦の皆んなの邪紋を消しに行って来ます!」


歩き出そうとしたサナを、立ち上がったリファイドが慌てて引き止めた。


「気持ちはとても嬉しいが、今行かないと、もう二度と戻れなくなってしまうんだ。消える前に、早く行かないと!」


うん、と小さく頷きを落としたサナは、クルッとリファイドの方へと振り返った。


「あのね、リファイド。いつか、この世界と私の世界を自由に行き来出来る方法を見つけてね」


「それは、見つけられるかどうか分からない。サナが帰れるチャンスは、これが最後かもしれないんだ。だから早く……」


「うーん。でもさ。この間リファイドは、絶対にもう帰れないって言ってたでしょ?でも、こうやってチャンスが出来たじゃない。だったら、行き来出来る方法も、見つかるかもしれないよね!」


「サナ……」


無理矢理明るい笑顔を見せたサナを、リファイドは強く抱き締めた。

彼の胸に顔を埋めたサナは、誰にも見られない様にコッソリと涙を流す。


本当は、まだ帰りたいという気持ちが残っている。

それでもサナは、ここに残る決断をした。

大切な人達を守る為に。

そして、大切な人達と共に生きていく為に。


彼女の決意をリファイドも受け取り、その瞳に涙を浮かべた。


「ごめん……。ありがとう、サナ」


時空間の中に空いたサナの部屋への穴が閉じていく。

そして時空間への穴も静かに閉じていった。


消え失せる最後のその瞬間まで、二人は抱き合ったまま、それを見つめ続けた。




『黒の砦の最強聖女 私の作った薬は、物凄く不味いらしいです』を読んで頂き、本当にありがとうございました。


この話は六十話、後一話で完結となります。

(今夜、七時か八時位に更新を予定しています)

物語の最後に、評価や感想等を頂けると、とても嬉しく思います。


二ヶ月間と言う長くて短い期間でしたが、ずっと応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ