5.黒の砦からの迎え
私の裁判は終わった。
判決は有罪、黒の砦への追放と一生涯の幽閉。
裁判官によって判決が伝えられたと同時に、室内に大きなどよめきが上がった。
なんて酷い……と言う言葉や、同情の籠った瞳。
周りの人達の反応を見るだけで、この判決がどれ程の罰なのかという事が分かる。
幽閉と言う位なのだから、刑務所のような所で一生を過ごす終身刑になったのだろう。
私は一生そこから出しては貰えない。
勿論、家にも帰して貰えない事が決まった。
裁判から一週間後の朝。
食事を取らされた私は、黒色の質素な長袖のワンピースに着替えさせられ、牢屋の外へと連れ出された。
牢屋の中はとても汚かったし臭かった。
そしてお風呂に入らせて貰えなかった私も、牢屋に負けないくらい汚くて臭いと思う。
体は臭いし痒みが酷い。そして髪はグシャグシャに絡まった状態で、汚らしかった。
でも許されたのは着替えだけ。
囚人となった私は、一生このままなのかもしれない。
これが十日ほど前まで、プリンセスに憧れていた私の末路だった。
私は絶対に、プリンセスにはなれない星の下に生まれてきたのかもしれない。
こんな汚らしい惨めな姿のまま、一生を過ごさなければならない。
プリンセスどころか、浮浪者並みの囚人なのだから。
トボトボと歩く私を待っていたのは、数頭の漆黒の大きな馬が引く、漆黒な作りの馬車。
馬車の脇には漆黒の鎧を着た男達が立ち、私が来るのを待っていた。
馬車を見た城の騎士達は、早く行けと、私の背中を強く押し出した。
数歩よろめいた私は、仕方なく馬車に向かって一人で歩いて行く。
普通こう言う時は、私の近くに馬車を寄せるものなんじゃないの?
結構距離があるんですけど……。
なんとなく、あの漆黒の馬車には近付きたくないと言う雰囲気を、周りの人達から感じ取れる。
それ程までに黒の砦と言うものは、みんなから恐れられている存在なのだろうか。
私の足は、不安から段々と重くなっていく。
俯きながらなんとか歩く私に、後方から一人の男性が駆け寄って来た。
「いけません、殿下!!!」
沢山の人が引き止める声を無視して、その男性は私の横へと立った。
そして、長くて小さな木箱をスッと差し出して来る。
「すまなかった」
聞き覚えのある声と、殿下と言う呼び名。
木箱を受け取った私の手は、プルプルと震えていた。
引き摺り込まれたあの時と、木箱に入っているであろうチケットを思うと、再び涙が溢れ出てくる。
でもそれ以上に、側に駆け寄ったこの人から漂うとても良い香りが、私の神経を逆撫でした。
ポロポロと涙が頬を伝う顔を上げ、キッ!とリファイドを睨み付けた。
「あんたなんて、大っ嫌い!!!」
ここまでの怒りを、初めて他人に対して向けた。
喧嘩した兄弟達にだって、ここまでの怒りを向けた事は無い。
(謝られたって、絶対に許せない。この人の所為で、私はこんな目に遭っているんだから。許せる訳がない!)
再びワンワンと泣き出した私を、城の騎士達が引き摺るように馬車へと連れて行く。
私は漆黒の騎士達に手渡され、馬車の中へと押し込められた。
王子様なんて大嫌い。
もう二度と、憧れたりなんかしない!
外が全く見えない、内装も黒で統一された馬車の中で、私は泣きながら心に誓った。