3.召喚されました
瞳を開くと、そこは別世界だった。
清浄な空気に包まれた、白を基調とした神殿の中。
神官服を着込んだ人達や騎士の格好をしている人達等が、手を取り合い嬉しそうな歓声を上げている。
皆が喜びを見せる中、一人の男性が魔法陣へと足を踏み入れて来た。
蜂蜜の様な美しい金髪に、美しい空の色をしたスカイブルーの瞳。
柔らかそうな長い髪を後ろで一つに縛った男性は、その美しい容姿と着ている服から、王子様であると、直ぐに分かった。
(コンサートに行ってプリンスに会うつもりが、異世界に来てプリンスに会いました……)
美形男子に免疫の無い私は、ポーッとしたまま、彼を瞳で追った。
柔らかな笑みを浮かべた彼は、魔法陣の上へと跪いた。
「聖女様。ようこそ、カムネッカ王国へ。私達は、貴女様を歓迎致します」
スッと差し出された王子様の手は、私……ではなく、私の隣へと差し出された。
(えっ?)
驚いて隣を見ると、そこには腰まである長いストレートな銀髪に、ピンク色の瞳を持った、美しい女性が座っていた。
(ん?この人、誰?)
頭の中がパニック状態になる。
私の隣に座っていた人は、頬を赤く染めながら、王子様の手を取った。
誰もが認めるほどの美男美女のそれは、まるでドラマとか映画とかのワンシーンの様にとても美しかった。
「お名前を、お伺いしてもよろしいですか?」
「ユマと申します」
「ユマ様ですか。私は、リファイドと申します」
「リファイド様……」
リファイドの手を取り、立ち上がったユマは、ウットリとした瞳で彼を見つめた。
(なに、これ……。私は一体、ここで何をしているの?)
茫然としていた私だったが、ふと視線を下に向けると、その瞳を思いっきり見開いた。
リファイドの足に踏まれている物は、何よりも大切なコンサートチケットだったのだ。
「ちょっと!大切なチケットに、何するのよ!!」
立ち上がった私は、両手で思いっきりリファイドを突き飛ばし、急いでチケットを救出した。
完全に油断していたリファイドは、バランスを崩して床に尻餅をつく。
そして呆気に取られた顔で、私を見つめた。
容赦なく彼に踏まれていたチケットは、事もあろうに、半券が切り離された状態となっていた。
何度も確認したから覚えている。
『半券の切り離しは無効となります』
フルフルと小刻みに震える手。
チケットの無残な姿に、私は大発狂した。
「いやぁぁ!!チケットが……。私の大切なチケットがぁ!!!プリンス達に会いに行く、大切なチケットがぁぁぁぁ!!!!」
突然、王子を突き飛ばして発狂した私に、周りにいた騎士達が慌てて取り押さえようとして駆け寄って来た。
「いやっ!痛い、離して!!!何するのよ!」
騎士達から逃れようと必死に暴れ回っていた私は、神殿の壁に設置されている大きな鏡に視線を止めた。
神殿の清浄な雰囲気を壊さない様に、繊細な彫刻が施された白い木枠にはめられた鏡は、この場を嘘偽り無く鮮明に映し出している。
そこに映し出されていた私は、ボサボサで乱れまくった髪に汗だくで、ダッサイジャージ姿。
魔法陣の中で唖然としているユマを見てみれば、スラッとしたナイスなプロポーションに、美しい赤色のドレスを着用している。
ユマはあの空間の中にいた少女だと、さっき声で分かった。
その事から考えても、恐らく彼らの言う聖女と言うのは、私である事に間違いはない。
でも誰がどう見ても、ユマの方が聖女にしか見えなかった。
周りに比べて、明らかに一人だけ場違いな格好をしている私は、急に自分の姿が恥ずかしくなってしまった。
私だって、これでも一応恥じらいの心を持った女の子。
就寝前に引き摺り込まれ、空間の中で必死に抵抗していたからこその姿ではあるが、沢山の知らない男の人達にこんな状態の自分を見られた事が恥ずかしくて仕方がない。
真っ赤な顔で俯くだけで、何も話す事が出来なくなった。
抵抗する気も失せて大人しくなった私を、騎士達は連行して行った。
私は牢屋に入れられ、その三日後に裁判を受けさせられた。
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