16.様子のおかしいサナ
家に帰って来た私は、回復薬の味をなんとかしなければと机に向かった。
試しに自分で飲んでみたのだが、不味さは感じなかった。
もしかしたら、この世界の人達と味覚が違うのかもしれない。
そう言えば、前にマノアさんの作ったこの国の郷土料理みたいな物で、ヌェイリブさんの大好物な物があった。
でも私が食べてみたら、かなり香辛料がキツくて一口しか食べられなかった。
それと同じ事なのかもしれない。
そうなると完全にお手上げで、直すべき所が全く分からなくなってしまった。
私は次の日も、薬作りに精を出した。
キチンと秤を使って薬の調合を行い、自分の魔力を使って生成する。
今日は三回作って十五本を完成させた。
その瓶を持って、鑑定士さんの所へと向かう。
効能に問題はない。
しかし試飲をして貰うと、やっぱり不味いと言われた。
何が悪いのか全く分からない。
どうしたら良いのかも分からず、返されてしまった薬を持って、また家へと帰って行った。
◇◆◇
サナが家を出て二週間が経った。
三人になった食卓は、元に戻っただけの筈なのに、どこか寂しさを感じてしまう。
あれから全く顔を出さないサナを、マノアはずっと心配していて元気がない。
恐らく仕事に慣れるのに忙しいのだろうと、ヌェイリブが諭すが、自身も心配しているのが見てとれた。
そんな二人の様子を見ていたロッチアは、ため息をついた。
(あのバカ。顔くらい出せば良いのに……)
まだ新しい生活に慣れていないのかもしれないが、あれだけ手助けをしてやったのだから、顔を見せるくらいしたっていいと思う。
ちょっと文句を言いに行ってやるかと、二人の顔を見た。
「俺、明日の午後は仕事が休みだから、アイツの事、見に行って来るよ」
「そ、そうか。それなら頼む」
「それじゃあ、お料理沢山作るから、サナに持って行ってくれる?」
「ああ、分かった」
言い出したくても我慢していた言葉をロッチアが言ってくれた事で、食卓に穏やかな空気が流れた。
次の日、両手にいっぱいの食事を持たされたロッチアは、移動馬車に乗り込むと、下級層を目指した。
街はいつもと変わらずに賑わいを見せている。
サナの借りた部屋へと向かって行くと、今日も大家さんが外で本を読んでいた。
ロッチアは、使い捨てのパックに入れられた料理を大家さんへと渡しに行った。
これはマノアから、大家さんに渡してと持たされた物だった。
「これからも、サナをよろしくお願いします」
マノアの代わりに大家に挨拶をしたロッチアから、大家は無言のまま料理を受け取った。
サナの部屋へと向かおうとするロッチアの背に、ボソリと大家が告げた。
「少し様子がおかしい……」
「えっ?」
ロッチアが振り向くと、大家さんは再び本へと視線を移してしまった。
首を傾げ気味にしたロッチアだったが、取り敢えずサナの家へと向かって行った。
ドアをノックすると、返事と共にドアを少し開けたサナが顔を出した。
なんだか少し顔色が悪いような、元気が無いような気がする。
ロッチアは、何となく少し明るい声を出した。
「よお!」
「ロッチア……。どうしたの?」
「マノアさんからお前にって、ほらこれ」
手提げの袋を上げて見せると、サナの顔が少し緩みを見せた。
ドアを開いて外に出たサナは、パタンと後ろ手で扉を閉めてしまう。
部屋の中に入れてくれないサナに、ロッチアが首を傾げた。
「誰か来ているのか?」
「えっ?誰もいないけど……」
「……まあ、いっか。ほら、これ。朝からマノアさんが作ってくれたんだぞ」
「わあ……。こんなに沢山。ありがとう」
まだ少し暖かさの残る料理を受け取ったサナは、とても嬉しそうだ。
大切そうに手提げ袋を両手で抱え込んでいる。
持って来てやって良かったな……とは思いながらも、ここ数日間持っていた不満をサナにぶつけた。
「お前さ。忙しいのは分かるんだけど、少しはマノアさん達にも顔を見せてやれよ」
「……うん。分かった。もう少し落ち着いたら会いに行くね。あと、ありがとうございましたって、お礼も伝えておいて」
「ああ、分かった。……じゃあ、また来るわ」
「うん……」
手を振るサナに、軽く手をふり返したロッチアは、移動馬車の停留所に向かって歩き出した。
横を見ると、チラリと目線を上げた大家さんと視線が合った。
ペコリと頭を下げて再び歩き出す。
その時ふと、先程の大家さんの言葉を思い出した。
『少し様子がおかしい……』
大家さんは確かにそう言っていた。
ロッチアもサナに会ってみて、同じ印象を持った。
とは言え、彼女の家からもう大分歩いて来てしまっている。
(今更戻るのも、なんか変だしな……)
吐息を溢しながら、ポケットに手を入れたロッチアは、カサッとした紙の感触にハッとした。
ポケットからその紙を取り出して見ると、そこにはヌェイリブ家の住所が書かれている。
『住所が分からないと、サナが帰って来た時に、迷子になってしまうかもしれないでしょ?』
そう言ったマノアさんから、出掛け間際に手渡されたんだった。
そんな事、すっかり忘れてしまっていた。
あの歳で迷子になんてなるかよ……とか思っていたが、サナの様子が気になるし、丁度戻る口実が出来た。
(……戻るか)
ロッチアは踵を返すと、サナの家にもう一度向かって行った。




