ハッピーバースデー 火
ずっと前。
私が小さかった頃は、あの人は優しかった。
でも、職を失ってから、がらっと変わってしまった。
お酒を飲むようになったし、タバコを吸う様になった。
時々暴力を振るわれる事もある。
私は辛かった、悲しかった。
でも、我慢した。
時間が経てば、きっとまた優しかった頃のあの人に戻ってくれると、そう思っていたからだ。
でも、そんな日は来なかったんだ。
私は、血にまみれた家の中をみまわして、火を放った。
家の中が真っ赤になって、色々なものが燃えていく。
熱くて火傷するくらいに。
でも、心の中が暖かかった。
だってこの赤は、幸せだった頃の事を思い出せるからだ。
今はもうめっきりなくなってしまったけれど、私が小さかった頃はあの人が、ケーキを買ってきてくれた。
お誕生日の記念にと、ろうそくを立ててハッピーバースデーの歌を歌ってくれたのだ。
でも、そんな機会は永遠に失われてしまったから、せめて最後に見ておきたかったのだ。
あの、暖かかった火を。
ハッピーバスデー私。
お誕生日おめでとう。
でも、人生今日で終わりだね。
私の人生、楽しかった時だけで終わっていればよかったのに。