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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

音も空気もない場所で

私が自由でいられた場所

作者: 葵凪



苦しい。気持ちが悪い。吐き気がする。意識がまとまらない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。……気分がいい。



私、清水瑠奈(きよみずるな)は、平凡とは程遠い家庭に生まれた。お父さんはとある会社の社長で……つまるところ私は、いわゆる社長令嬢ってやつだった。


でも、私自身に特に才能はなかったんだよね。色々な習い事をしたけど、何をやってもダメダメで。殆ど途中で投げ出してしまった。

まぁ物覚えだけは比較的いい方だったけど、そこまで頭の回転も早くない。


なにより、どうしても束縛されているようで落ち着かなかった。

人付き合いにしてもてんでダメで、引っ込み思案で人見知り、目立つのが嫌いな少女だったと思う。


でも、唯一水泳だけは無理矢理続けさせられた。理由はわかってるから今なら仕方ないと思うし、結果的に感謝してるけど、受ける度に泣きじゃくる私を無理矢理泳がせるとか何さ。1歩間違えば水がトラウマになってたよ……。



私が水泳を習わされた理由。

それは、お母さんが水の事故で亡くなったから。と言ってもお母さんも泳ぐのが苦手な訳じゃなくて、お父さんと一緒にダイビングに行くくらい水が、海が好きだった。


ただ、そのダイビング中の事故によって母は死んだのだ。


お父さんはそれでも、ダイビングを辞めることは無かった。

むしろ現実逃避気味に、よりダイビングにのめり込んだんじゃないかな。

なにせ、小学生になる頃には水に慣れていた私を、10歳という体験ダイビング可能な最年少の私を海にぶっ込んだくらいたからね。


でも正直、これに関しては感謝してる。このタイミングでダイビングに出逢えたからこそ、この後の私があると言っても過言ではないから。


私は、お父さんの思惑以上にダイビングにハマった。

当時の私は色々と足りないところも多くて、でもだからこそ潜る度により自由にこの美しい世界を泳ぎ回れることに、とてつもない開放感と幸せを感じていた。


私は貪欲にスキルを吸収し、ジュニアが外れアマチュアとしては成人と同じ扱いをされる15歳になるまでに、ジュニアで取れるコースは全て取った。と言ってもそこまで数は多くないし、潜っていたのも基本的にはお父さんの地元の沖縄のみ。特別スキルが高いという訳では無いけどね。


でも、ダイビングを通してたくさんの大人と話しているうちに、まぁ自分で言うのもあれだけど、明るく快活な性格になって行った。



そうして高校に入学した私は、ダイビングの勉強を重ねつつ、ダイビングショップを作るという夢を持ち始めた。

小さい頃はダイビングショップを作るという発想がなかったけれど、高校生活のある日、起業という考えが身近にあることにふと気がついたんだ。


まぁ、ぶっちゃけお父さんだね。


もちろんお父さんも、かなりの努力をして起業し今の地位に登り詰めたわけだけど、確かな成功例がすぐ側にある以上、不可能ではないんじゃないかなって具合に。


こうして私は、ダイバーとしての実力や知識を磨きつつ、ダイビングショップを開くために何が必要かを少しずつ調べ、学んで行った。

お父さんも最初は反対していたけど、最終的にその時は協力するって言ってくれたしね。



そんな高校生活のラスト、3年の夏のこと。

少し仲の良かった水泳部の男子を応援するために、水泳大会に行った。


いつもなら父の実家に泊まって夏中ダイビングをしているところだけど、流石に受験を控えたこの夏はそうする訳にも行かない。

かと言ってずっと勉強というのも息が詰まるため、息抜きも兼ねて行くことにしたのだ。

そうして観戦していた中で、女子の部で1人特別目を引く女性がいた。


女子50メートルバタフライの部で1着だった彼女は、頭一つ抜きでた速さで、何よりのびのびと自由に泳いでいた。

この子とダイブしてみたい、と初めて思った人だった。

これが、私が水無冬華(みずなしとうか)と出会った運命の日だった。まぁ彼女はその時は私に気づいていなかっただろうし、彼女のことは、名前と顔は覚えていたもののもう一度会えるはずもないと諦めていたけど。



そうして何とか受験では第1志望の大学に入ることができ、いざ講義だ、というところで、私は彼女に再会した。

思わず声をかけてしまった私に最初は戸惑っていた冬華ちゃんだったけど、私が大会で彼女を見かけたと話すと納得してくれた。

物静かで凪いだ水面のような女性で、一見感情のなさそうに見える彼女だったけれど、石を投じれば波紋となって帰ってくる。話していてとても楽しかった。

予想外なほど早く仲良くなった私達に、多分私が1番驚いていたと思う。なにせ今はコミュ力も高くなってきたけど、昔はコミュ力弱者だったから。


そうして仲良くなった冬華ちゃんを、私はダイビングに誘った。

まぁ最初はシュノーケルにしておこうかなと思ったんだけど、それまで熱心に布教していたからかダイビングすることになったんだ。


冬華ちゃんはかなり楽しんでくれて、そのダイビングは大成功と言っても良かったんじゃないかな。

なにせ、普段はあんまり笑わない彼女が、楽しそうに笑っていたから相当だと思う。


それから彼女と、たくさんダイビングをした。

ただ、1つ問題があるとすれば彼女は天才だった。いやまぁ、問題というかなんというか……私と比べて成長が早すぎるのよ。


私はダイビングを初めてから8年、かなり熱心というか酔狂というか、自分でも驚くくらいダイビングにのめり込んだ。

でも、その私以上の速度で彼女はダイビングの腕と知識を吸収して行った。

一般的なダイバーの平均レベルを一瞬で超え、たったの2年でアマチュア最高峰のライセンスを取得するくらいだから、相当だ。

と、思ったらその次の年にプロの入口であるダイブマスターのライセンス……規格外にも程がある。


もちろん元々彼女は水泳で区内1位の実力者だったし、生物関連の資格も持ってたから基礎知識はあったんだと思うけど、それにしたってねぇ。



そんな彼女に負けじと、私も頑張った。

彼女はなんだか私のことをダイビングならなんでも知ってる人みたいに思ってるみたいだし、そのイメージに負けないように頑張らなくちゃ。楽しいのも本当だけどね。



こうしてお互い切磋琢磨しながら楽しくダイビングをしつつ、大学でもしっかり勉強はした。

私は主に経営について学んでいたけど、冬華は取れる広義は全部取るとでも言うようにほとんどの時間講義を受けてたっけ。


そんなある日、私は冬華に一緒にダイビングショップを作らないかって提案した。彼女は少し考えたけど、ほぼ即決で提案に乗ってくれた。

嬉しかったなぁ。


もし断られてもこれからずっとダイビングを一緒にしたいとは思ってたけど、ダイビングショップの稼ぎ時は夏。

冬も、たとえ流氷の中でだってダイビングはできるけど、一緒にダイビングできる時間はどうしても短くなるから。


でも、一緒にダイビングショップをやれば、流石に今ほどではないけど夏だってダイビングが出来るし、冬は基本的に閉めるからそこでもまたダイビングが出来る。

一年中ダイビングができること程幸せなことは無いって思う。うん。


そうして始めたダイビングショップ『ラピスラズリ』。

……この名前の由来はもちろん私の名前。瑠奈の瑠は瑠璃の瑠だから、瑠璃の英語版でラピスラズリ。


正直私は嫌だったんだけど、冬華ちゃんもそこは譲らなくて、最終的に私が折れた。瑠奈が提案者なんだから瑠奈の名前を入れなきゃダメだ、って。正直結構恥ずかしい。


まぁそれはさておき、このダイビングショップ自体は、思っていた以上に上手くいった。

まぁ人数が足りなかったり、資格を取り忘れたりと開くまではドタバタしたけどね。


最初のうちは私の知り合いを経由してじわじわ広まっていくって感じだったけど、雑誌の取材が来てくれたおかげで知名度が途中で大幅に――と言ってもそこまででは無いけれど――アップした。

まぁ端的に言ってしまうと、順調だった。


毎年の休みには色んな国を回ってダイビングを続けていたし、冬華ちゃんも私もスキルを磨いて、見える世界をどんどん広げていった。

それはどこまでも平和で、楽しく、幸せな時間だった。



ある長期休暇の日。

私たちは南半球のとある国にダイビングしに行った……んだけど、冬華ちゃんが移動のバスでぎっくり腰になった。

いや〜、びっくりしたよほんとに。だってまだ20代だし、運動も水陸しっかりやってる冬華ちゃんがぎっくり腰。これが笑わずにいられるかってね。


でもまぁそんな状態でダイビングは出来ないから、仕方なく看病してあげようかなぁと思ったんだけど、1人でダイビングに行ってきていいよって結構しつこく言われてさ。

まぁ確かにせっかく外国まで来たのに看病で時間を潰すのは勿体無いっていうのも分かるし、仕方なく私は1人で海に行った。




そこで私という存在が大きく変わることになるとも知らずに。




私は冬華ちゃんもいないからと、比較的近場を潜るコースを取った。既にインストラクターの中でも基本的な最高位である、マスターインストラクターになっていた私はそれなりに頼りにされたし、これまでの経験を話して聞かせるのは反応も面白くてなかなかに楽しかった。


そうしてダイブしていた時、水中で爆発音のようなものが聞こえた。

一瞬理解が追いつかなかったけど、私は直ぐに地震だ、と気づけたから、コース受講者に岩場でやり過ごすよう指示した。全員を集めて誘導していたから最後になって、サブのレギュレーターであるオクトパスを落としてしまいはしたけど、全員無事に最初の乱流はやり過ごすことが出来た。


でも、この流れで動いた岩に足が挟まってしまった男性が1人。

とりあえずガイドさんに他の人たちを陸に向かわせて助けに行ったんだけど、彼のレギュレーターはマウスピースの固定が悪かったのか外れてしまっていて、使い物にならなくなっていた。


それに気付かず不用意に近づいてしまった結果、私のレギュレーターを奪われてしまった。

それでも何とか彼の救出に成功した私は、とにかく彼にガイドの人を追うように指示して一旦浮上した。

この状況なら上に上がってから泳いで行った方が確実だと思ったから。


でも、地震による影響で海面は私の予想以上に荒れていた。

とてもまともに泳げる環境じゃなく、普通に泳ごうとしたら少し海水を飲み込んでしまった。

レギュレーターを取られた時も不意をつかれたから少し飲んでしまったし、少し危険ではあったけど仕方ないから再度素潜りをすることにした。落としたオクトパスを回収出来れば、ここからでも充分帰還できるから。


そうして何度か繰り返して、何とかオクトパスを回収、陸へ向かったんだけど、このオクトパスも落とした衝撃のせいか途中で故障、かなりの量の海水を飲んでしまい、かなり焦った。


それでも何とか陸には向かったけど、気分が悪く、意識もどんどん遠のいていく。苦しい。気持ちが悪い。吐き気がする。意識がまとまらない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。……気分がいい。あれ、と思った瞬間、私は意識を失った。





それ以降の私の記憶は、残ることは決してない。

彼女がどうなったかは、他の二作品で出てきます

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