45杯目 王様とお姫様がやってきた
「余が人間の王のグィである」
自分の家のゲスト用の飲み部屋に人間の王様が来ちゃったよ。
こんな偉い人を前にどうしようかと思ったんだけど、もっと偉そうにしてる人がいるんだよね。
「わっはっはっは。何が余だよグィ。まるで王様みたいじゃないか」
「何を言うか。余は人間の王であるぞ」
「なーにを偉そうに」
バチーン。ティーナが王様の肩をはたいちゃったよ。
そんな王様はティーナをにらみつけて・・・・・・ニヤリと笑ったんだ。
「少しくらい子供たちの前では偉そうにさせてくれよ」
「そんなもんすぐにバレるんだからやめちまえ。それに、そんな調子じゃ酒もつまみも出してくれないぞ」
「おお。それは困る。タクノミよ。さっそく飲もうではないか」
うーん。このパターン。魔王の時でもあったような。
とりあえずお酒と簡単なつまみを持ってきてみんなで乾杯。
今日は飲む人も多いから、ちゃぶ台を3つにしているよ。
それにしても王様とティーナは仲良しなんだね。
「アタシとグィは昔一緒にパーティーを組んでたからな。こいつが王様になる前に。魔王のタタンタも一緒だったぞ」
えー。そうなんだ。そりゃギルドさんなんて全く訳が分からない役職を作っても問題ないわけだね。
ん?パーティーを組んでいた?ティーナっていったい何歳なんだろう。
「おいタクノミ。何かおかしなことを考えてないか?」
「ないですないです。何にもおかしなことは考えてないです」
「ふん。どうだか。あっそうだ。ちゃんと紹介しないとな。ほら」
ティーナに促されて出てきたのは品のある女性?女の子?
でも胸のところにあるクッションのボリュームを見ると立派な女性だね。とっても大きい。
「初めまして。ワタクシはグィの娘のズィですわ。あなたがタクノミ様ですわね。お話は伺ってますわ」
王様の娘さん。ってことはお姫様?
テトテトも魔王の娘だからお姫様だよね。飲み部屋が高貴な会合の場になってしまったよ。
と思ったら、テトテトがズィに飛び込んだんだ。
「ズィズィ久しぶりー」
「きゃあ。激しいですわね。お久しぶりねテトテト」
なんだか凄く親しげだねえ。
「そりゃそうだろう。姫様同士で子供のころから会ってるんだからさ」
ティーナに言われて気が付いた。
人間の王だけじゃなくて魔王も統合首都に居ることがあるんだから、二人が昔からの知り合いでもおかしくないのか。
「ズィちゃん元気だったかにゃ」
「ズィ殿は変わりがなさそうでござるな」
「相変わらずのんびりしてそうね」
あれあれ。3人も仲が良さそう。
「何を言ってるんだ。ズィに会いに来たんだろう。5人目のパーティーメンバーを迎えに来たんじゃないのか?」
え?このお姫様がパーティーメンバーなの?
2人の王の娘がどっちもパーティーにいるだなんて。どんだけ凄いんだ・・・・・・
って確かに。ゴロンニャと出会ったときからずっと周りの人から注目されるって言ってたっけ。
実力も凄いんだろうけど、元からの知名度も凄かったんだね。納得したよ。
いろいろと気になるけど、とりあえずちゃんとしたつまみも出さないとね。
今日のつまみは立派な食材だよ。それはね。ホタテ!
あれだよ、ボイルのやつじゃないよ。生きてたホタテ。
いやそりゃホタテは何でも元々は生きてたんだろうけどそうじゃなくて、お店に並んでるときに貝殻付きで生きてたホタテ。
お店で売ってるのをたまにみかけることがあったんだけどさ、今日はいつもより大きい感じがしたのに安くなってたんだよね。思い切って買っちゃった。
贅沢だよね。なかなか普段は買おうと思わないもん。
でも自分じゃさばけない。お店の人にお願いしたらサービスでさばいてくれたよ。
刺身でも焼いてもどっちでも使いたいって言ったら、貝柱とヒモの部分はしっかり洗って刺身用としてパック詰めしてくれて、残りの部分は加熱用として分けて別にパック詰めしてくれたんだ。ありがたやありがたや。
まずは貝柱の刺身。
さすがにお店じゃ刺身としては切ってくれなくて、貝柱が丸ごと1つずつパック詰めされてるんだよね。
1つ丸ごとはもったいない・・・・・・じゃなくて食べづらそう。
かといって細かく切りすぎるのももったいないし。じゃあプロのようにきれいに切れるのかってわけでもない。
柔らかくて薄切りにするのも難しそうだし・・・・・・仕方がないので適当にぶつ切り。
これでも十分に美味しいでしょ。1口つまんでみたら普通のホタテの刺身より味が濃く感じる。これは切り方が優秀なのではと思ったけど、立派なホタテを買ったからだよね。そうだよね。
次は貝ヒモの刺身・・・と思ったけど生で食べると少しぬめりがあって噛み応えもじゃりっとしてて万人受けしなさそう。好きな人は好きなやつ。
塩もみして軽く洗ってみたけど、ちょっとまだぬめりが残ってて1回で諦めちゃった。
なのでその洗った貝ヒモを熱湯で軽く茹でたよ。本当に軽く。ダチョウ俱楽部が熱闘風呂に入るみたいにね。
これで食べやすくなるよ。そしたら食べやすいサイズにカットするんだ。包丁だと面倒だからキッチンハサミでチョキチョキとね。
半分は貝柱の刺身にそえて。もう半分はちょっとだけアレンジ。
叩いた梅干し、もしくは練り梅を用意して、それを麺つゆに入れて良く混ぜる。
そこに貝ヒモを入れてまぜまぜ。これで貝ヒモのさっぱりした料理っぽいのができちゃった。
上手な人は細切りのキュウリとか青じそも入れるんだろうけど、うーんパス。貝ヒモだけで良いや。
残りは肝。緑色の苦いところは取り除いてね。潰すと苦いが爆発するから慎重に。
それとカットした貝柱を全て刺身にしないでこっちにもちょっと使うよ。
そのほかにカットしたエリンギも用意。あとはカットしたアスパラをレンチンして火を通したやつも準備したんだ。
フライパンでエリンギと肝を炒めるよ。火が通ってきたらアスパラとホタテを投入。
バターも入れて味が染みたら醤油を入れて完成。
めっちゃ料理した感じがするけど、実際はほとんどたいしたことやってないんだよね。
ホタテが美味しいんだもん。余計なことをしなくて良いんだよ。
やっぱりボイルとは違って生のホタテは別の食べ物かと思うくらい美味しさが変わるよね。
てなわけでみんなにも。
ホタテの貝柱の刺身、ヒモの刺身、ヒモの麺つゆ梅干し和え、ホタテとエリンギとアスパラの醤油バター焼き。
グィ王とズィ姫は生のホタテをめちゃめちゃ警戒してるね。
あれ?テトテトも?まだ魚介類を生で食べたことなかったっけ。
ゴロンニャ、リンコ、グリンナの3人はさっそく手を付けて美味しそうにしてるよ。
ティーナも1口パクついてからグィ王たちに向かって
「何の問題もないぞ。食べてみろ」
って勧めてくれたよ。
「とっても甘みを感じますわ」
「臭みが全くないよね。これはもっと食べたくなるよね」
ズィ姫とテトテトも問題無さそう。
でもグィ王は刺身を食べても黙ってるよ。
そのまま貝ヒモに手を伸ばして1口。バター炒めも1口。
黙ってもぐもぐと食べてる。もしかしてやらかしちゃった?
「非常に素晴らしい素材であるな。まるで目の前に海があるようだ。とても美味しいぞ」
おおお。お口に合って良かったです。ホッとしました。
ちょっとドキドキしちゃってたから安心したよ。
「料理の腕前はそれほどでもないようだな」
あっ。バレちゃった。
「ズィちゃんパパは何を言ってるのにゃ。タクちゃんの料理は美味しいのにゃ」
ちょっとそんなこと言わないで。その通りなんだから。適当に料理をしてるんだよ。
ゴロンニャだけじゃなくてリンコとグリンナの目つきも鋭くなってるような。
「いやいやすまない。悪い意味ではないのだよ。タクノミにとってはこれが良い道なのだろうな」
3人ともまだ不服そう。
「ちゃんとした料理人ならば、もっと丁寧な仕事をするであろう。でもタクノミのすべきことはそこではないのだろう。この世界には無い様々な料理を用意することが求められているのだからな」
あれ?グィ王はどこまで知っているんだろう。
ティーナのほうを見ると
「もちろん全て知ってるぞ」
と言われたよ。魔王の時もそうだったけど、偉い人には伝えてるんだね。
パーティーメンバーのズィ姫の父親でもあるから、ごまかさないほうが良いんだろうね。
そしてグィ王は優しく語りかけてくれたんだ。
「料理を極めようとすると特定の部分だけに特化してしまって視野が狭くなるかもしれぬからな。自由に好きなものを楽しむ気持ちでいるほうが、良い結果になると信じておるぞ」
グィ王を怒らせてないよね。大丈夫だよね。怒ってないよね。良かった。
なんか王様が言うと壮大な話みたいに聞こえるけど、とりあえず今まで通り飲んでれば良いってことだよね。
やっぱり自分で調理するより商品の美味しさに頼って手抜きするほうが美味しくなるのかな。
「わっはっはっは。その話はそれくらいにして、せっかく用意してもらったんだから楽しく飲もうじゃないか」
ティーナのその一言で空気も変わって、少しずつ緊張もほぐれていったよ。
グィ王はティーナと話しているとただのおっさんって感じだね。王様だってことを忘れちゃうくらい。
ズィ姫はテトテトと隣同士。その周りを残りの3人が囲って仲良さそうに話しているよ。久しぶりに会うんだもんね。いろいろとしゃべりたいことがあるんだろね。
そんな感じで楽しく飲み続けているんだけどさ。
ズィ姫と会ったってことは、もうこれでパーティー活動を再開するってことなのかな。
でもそう簡単にはいかないみたい。
グィ王がこんなことを言ってきたんだ。
「ズィはパーティーには戻らぬ。勇者と結婚するからな」
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