6杯目 異世界にもこの美味しいを届けたい
冷凍ポテトフライのアレンジレシピを食べて大満足だった3人。
ところが次の日にやってきたゴロンニャとリンコは、いつもに比べて何だか暗い気がする。
飲み始めてもそれは変わらない。何かあったのかな。
もしかして昨日のポテトフライのアレンジ料理を食べたいのかな?
「それは食べたいんだけどにゃ・・・」
「拙者も食べたいでござるが・・・」
何だか歯切れの悪い答えが返ってきた。
「もしかして美味しくなかった?帰ってから体の調子がおかしくなったとか?」
「それはないにゃ!とても美味しかったのにゃ」
「そうでござる。今日も元気だったでござる」
それなら良かった。だけどなんだか二人で見つめあってる。
そして自分に向って二人とも前のめりになって
「困ったにゃー」
「困ったでござる」
『困りましたよー』
あれ?急にサクラミまで会話に入ってきた。
それはさておき、二人とも前のめりになって真剣な表情で思いもよらなかったことを訴えてきた。
「昨日の芋の料理が美味しすぎて、今日は向こうで芋を食べるのが辛かったにゃ!」
えええええ。嬉しいよ。嬉しい。
だけど向こうの世界で食事が辛くなってしまうのは心苦しいよ。
「これからは夜にここで食べるだけでも良いでござる」
ダメダメ。それはダメだよ。
ちゃんと向こうでも食事をしないと。
『もうタクノミさんの芋じゃないと満足できない体にされてしまいましたー』
変な言い方をするんじゃない。
というかサクラミも向こうの世界で生活しているの?
『私も一緒に困った方が良いかと思っただけですよー』
と悪ノリしたのを白状したサクラミは忙しいらしく、もう今日は料理とお酒のおかわりのためにお膳をビカビカ光らせるだけだと言って静かになった。忙しいわりにはしっかり飲んで食べるんだね。
サクラミは本当にさておいて良かったな。
それはさておき、二人の悩みは心配だ。
こっちの味に慣れないように、もう芋の料理を出さない方が良いのかな。
「それはダメにゃ!」
「そうでござる。それとこれとは別でござる!」
でもねえ。それだと悩みが解決できないし、向こうでの食事も困るでしょう。
「リンちゃんは他の街に行けば別な料理を食べられるにゃ」
「もう少しここで飲んでいたいのでござるよ。他の街の料理よりここの料理の方が食べたいでござるよ」
二人に向こうの世界の食の事情を聞いてみた。
別にすべての人が芋だけを食べているわけじゃなくて、各地でそれぞれ手に入る食糧を食べているらしい。
美味しい料理を名物にした街もあるようで、すべての食事が不味いわけじゃないんだって。
でも、いま二人がいる街は別。
前に聞いた通り砂漠の真ん中にある街だから、食料の種類も限られているんだとか。
ぱっさぱさの芋の食べ方もびっくり。
芋をそのまま火の中に放り込んで良く焼けたら、黒焦げになった周りをはがして中を食べるんだって。
もしくは丸ごと油で揚げるけど、それも周りの焦げをはがして食べるとか。豪快だよね。
芋の他にはカッチカチでしょっぱい干し肉。苦い草。ヤギのミルク。それらがメインらしい。
お店ごとに芋にかける自家製のソースがあるみたいだけど、その材料は他の街からわざわざ取り寄せてるから街に出回ってない。
でも材料を取り寄せることができるなら頼んでみれば良いのにと思ったけど
「毎日食べるような量を買ったらとんでもなく高くなるにゃ」
「外から物資が届くのも1か月に1回か2回でござる」
と難しいみたい。さてさて困った。
でもなー。こっちの世界の料理を向こうに持ち込むことはできないし、自分にできることはないかなあ。
二人が困ってるのは嫌だから何とかなったら良いんだけど。
そんな感じで自分も頭を悩ませつつ、ぼんやりとしながら新しい料理を二人に差し出した。
「やっぱりこっちの芋は美味しいのにゃ!」
「ねっとりしっとりした芋の歯ざわりと旨味のつまった肉の味が最高でござる」
そう言われて気が付いた。
こんな悩みを抱えている二人に、当たり前のように芋の料理を出してしまった。
「美味しいのにゃ。嬉しいのにゃ」
「気にしないでほしいでござる。おかわりが欲しいくらいでござる」
二人とも優しい。自分はデリカシーのないことをしてしまったというのに。
今回の料理はポテトサラダ。冷凍のポテトフライをレンチンしたら塩コショウと牛乳を入れてまぜまぜ。
牛乳を入れることで普段のほくほくとは違ったねっとり感としっとり感を出すことができるんだよね。
原型が無くなるくらいまでマッシュマッシュ。
しばらく置いて冷ましたらマヨネーズ、カリカリに焼いたベーコン、薄く切ったキュウリを入れてまぜまぜさせたら完成。
二人と一緒にポテトサラダを食べながらまた芋の話。
「向こうでもこれが食べられたらにゃー」
そうだよね。でも持っていくことができないもんね。
材料だって・・・・・・ん?あれ?さっき聞いた向こうの世界の食材と似ているような。
そうだよレシピだよ。料理も食材も持っていけなくてもレシピだったら持っていけるじゃないか。
それから二人にはポテトサラダの作り方を教えた。
まずは芋を茹でる。茹でた芋にヤギのミルクと干し肉の粉や端っこを入れてひたすら潰してまぜまぜ。
干し肉は切るときに粉が出たり、形の悪い端っこの部分はしょっぱすぎて食べないんだって。
その部分を味付けとして利用しちゃおうってわけ。
苦い葉っぱも茹でたら苦みが減って食べやすくなるんじゃないかな。お好みでアクセントとして混ぜれば出来上がり。
ダメならダメで仕方がない。けれど試してみる価値はあると思う。
次の日の夜。
前日とはうってかわってニコニコしながら二人が部屋にやってきた。
「向こうの芋がぱさぱさしなくなったにゃ!!!」
「こちらの味には負けるでござるが、それでも十分に食べたいと思える味になったでござる!!!」
本当に良かった。少しは二人の役に立てたかな。
でも向こうで芋を良く食べるのは変わらないみたいだから、こっちでは別の食材を増やしていこう。
最近はどんなメニューにしようか考えるのがだいぶ楽しくなってきたんだよね。
自分ひとりのためにはあまり突き詰めて作ることはしなかったけど、喜んでくれる人がいるともっと美味しいものを食べてもらいたいと思うようになるんだから不思議。
今まで向こうの世界の話を聞いても物語を聞いてるようなぼんやりとした感覚だったけど、自分の伝えたことが影響したことを知って本当に繋がっているんだなと思えたよ。
いつか向こうの世界に行ってみたい。
☆★☆★☆
その様子を神の世界から覗いていたサクラミテリオスは缶ビールを片手に満足そうにつぶやいた。
『ふふふ。タクノミさんはもう影響を与えたみたいですねー。こんなに早いなら計画を少し前倒ししなきゃいけませんねー。私も頑張りましょうかねー』
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