32杯目 大精霊は温泉がお好き
「わーっはっはっはっは。あんなに立派な風呂があって酒も料理も美味いだなんて、ここは本当に最高だな。貴族の邸宅のようだぞ」
ウーミと出会ってから1週間。ティーナが毎日のように自分の家に来ているんだよね。
ヒガリーの街に留まっているままだから、夜はティーナも含めてみんなでお酒を飲んでるんだ。
「今日も良いお湯だったぞ。ウーミもそう思うだろ」
「ウーミ!ウーミ!!」
心配だったウーミの処遇は、みんなのおかげでなんとかなったんだ。
ウーミはお酒を飲んでるティーナの周りをぐるぐるしているよ。
ティーナのことも1週間で気に入ったみたい。
そんなウーミの姿は1週間前と変わらずに人のような形なんだけど、色は白濁しているよ。
これはね。今日のお風呂に入れた温泉のお湯の色。
水の大精霊のウーミは温泉が大のお気に入り。本来は透明な水で身体が出来上がってるんだけど、たっぷり浸かると身体が温泉のお湯で出来上がってる感じになるんだよね。
でも本当にこんな風に平和にまたお酒が飲めるようになって良かったよ。
その輪にウーミも入れるようになって。あの時は本当にどうなるか心配だったもん。
「おーいタクノミ。次の酒をもってきてくれないか?あとつまみも次のがあるんだろ」
「ウーミミミー」
ほんとウーミはティーナに懐いたね。
「ウーミちゃんも欲しがってそうなのにゃ」
「ウーミ殿はかわいらしいでござるよ」
「ほら、こぼしてるわよ。ふいてあげるわ。しかたないわね」
うん。ゴロンニャもリンコもグリンナもすっかりウーミのことを好きになって。
ほんとにこんな風になって良かったよ。1週間前のあのときはどうなることか・・・・・・
ってひたってる場合じゃない。まずはお酒を出して。それからつまみつまみ。
今日は贅沢するって決めてる日だったからさ。
ケチらないで美味しそうな刺身をいっぱい買ってきたんだ。
震えたけどね。買うときに震えたけどね。
みんな異世界で頑張ってたからさ。
今日はちょうど一区切りがついたから、日本で売ってる安全な生の魚を食べてもらいたいと思って。
お金を出すぞって気持ちでお店で刺身を眺めてたら、いろいろと種類があってどれにしようか悩ましかったよ。
そういう目線になってみると、普段は安いだけって思っていた商品も、これは美味しそうなのに安いとか、こっちは値段相応に安くなってるなーってのがちょっとわかるような気がしたんだよね。気がしたくらいでちゃんとは分からないけどさ。
それでも自分の中ではせいいっぱい美味しそうに見えたものとお財布と相談した・・・いや神様ペイと相談した値段の物をなんとか買ったよ。
そんな刺身をどーんと出すぞー!
「ティーナは知らないはずだにゃ。魚は生で食べても美味しいのにゃ」
「それはいまウーミが証明してるからアタシにもわかるぞ」
「びっくりするほどウーミ殿が夢中で食べてるでござるね」
「ワタシだって我慢できないわ。みんな食べるわよ」
「ウーミウーミウーミウーマウーミ」
みんな満足そうに食べてるよ。良かった良かった。
こんな風に穏やかな宅飲みが戻ってくるとは、一週間前のあのときには考えられなかったな。
ウーミが異世界にいると凶悪になってしまう。このピンチを乗り越えることができたのはサクラミの一言からだったんだ。
『あらあらあらあらあら。温泉と凄く相性が良さそうですよー。もしかしたらお風呂場ならずっと居られるかもしれませんよー』
それを聞いてウーミをお風呂場に連れて行ったら大正解。
ウーミは大喜びで温泉に入って、ぷかぷかと浮かんだかと思えば潜ったりして。とても楽しそう。
それから、飲むときはみんなと一緒に飲み部屋に。それ以外の時はお風呂場にいるようになったんだ。
いつも幸せそうに温泉を堪能しているよ。
ただウーミは大精霊なだけあって、土地を安定させるのにも役立つんだよね。
だから1日に1時間だけヒガリーの街に連れて行くことにしたんだ。
それくらいなら凶悪になることも、ダンジョンとの結びつきが強くなることも無いだろうってサクラミも言ったからね。
とはいえ、ウーミは海で泳いだり砂浜を散歩するくらいで、これといってやることはないんだけど。
そうやってウーミがいるだけで、環境が良くなっていくみたい。
漁師さんたちの被害も、ティーナたちが調べたら大したことなかったんだって。
襲われたといっても、転移魔法で船ごと砂浜まで飛ばされただけみたい。
地元のギルドの人たちが解決できなかったのも、ウーミに近づこうとしたら飛ばされてただけなんだってさ。
きっとウーミはダンジョンでいきなり自我が目覚めて、何かが近づいてくるのが怖くて避けてたんじゃないかって。
そんな感じで少しずつ街にも人が戻ってきて日常を取り戻しつつあるんだ。
ティーナたちもいろいろと調べた結果、もう問題は無いって判断したんだって。
これでヒガリーの街で起きた騒動は解決したってことだね。
ティーナはギルドさんとしての仕事のため他の場所へ行くみたい。
ゴロンニャたちは残り2人のパーティーメンバーを迎えに行く旅を続けるってさ。
ウーミはこれからもお風呂場の主として一緒に暮らしていくつもり。
じゃあヒガリーの街ともこれでお別れかな?
「アタシは明日の朝に旅立つが、お前たちはもう1泊するんじゃないのか?」
え?何かまだやらなきゃいけないことがあるのかな?
「まだタクちゃんとヒガリーで飲んでないのにゃ」
「そうでござる。元々は一緒にこの街で飲むことが目的だったでござるよ」
「そうね。明日の夜はヒガリーで飲みましょう」
そうだったそうだった。そういえばそんな話だったね。
じゃあ明日は初めて異世界で飲むことにしよっか。
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