29杯目 海辺の街の異変と突然の危機
日が暮れかけるころ。
自分たちは海辺にあるヒガリーの街のすぐ手前にいた。
海岸沿いを進んできたゴロンニャたちが目指していた街がこのヒガリーだったみたい。
内陸だと馬車を使っても遠回りして1か月くらいかかるところを、海辺でショートカットすると1週間でたどり着けるんだとか。
でもそれはゴロンニャたちが凄いパーティーだからであって、普通の人だとそんなことできないみたいだね。
何はともあれヒガリーの街の手前で自分は異世界に呼ばれたんだよね。
1日3時間だけ異世界に行ける自分。夜になりかけてるときに何で呼ばれたんだろうって思ったら、とても嬉しい理由だった。
「タクちゃんとゴロンニャたちの世界で一緒に飲みたいのにゃ」
「この街はモニュンプスという海産物が名物なのでござる」
「タクノミが出してくれる料理にはかなわないけど、ワタシたちの世界で一緒に飲んで欲しいと思ったのよ」
凄く嬉しいよ。
いつも、みんなに楽しく美味しく食べたり飲んだりしてほしいと思ってたけど、もしかしたら自分の一方的な押し付けばっかりかもしれないって思うこともちょっとあって。
みんなが一緒に飲もうって言ってくれるところがどんな感じか凄く興味があるよ。異世界で初めてお酒を飲む機会でもあるからね。
「なんか静かだにゃ」
「そろそろ何か聞こえてきても良いはずでござるよ」
「裏から来ているとはいえ、これは少しおかしいわね」
本来なら馬車で入ることを想定しているので、陸側の方が街らしさが少しずつ出てくる街の作りになってるんだって。
海岸からだと急に建物が増えて一気ににぎわった感じらしいよ。
でも、もうすぐ着くはずなのに静かなのがおかしいんだって。たしかにもう建物が見えるね。
「誰も居ないにゃー!」
「静かすぎるでござるな」
「何か良からぬことが起きているようね」
海岸沿いにはいくつもお店が並んでいた。
普段なら海を眺めながらお酒を飲む人でいっぱいなんだって。
でも誰も見かけない。店もがらんとしていて人が居る気配がしないね。
陸側の方へ広がっている街並みの中を歩いてみても、人が居ない状況は変わらなかった。
「にゃ?あっちの建物に明かりが見えないかにゃ?」
「あれはこの街のギルドでござるか?」
「とりあえず行ってみましょう」
ギルドの中に入ると聞きなれた声が聞こえてきた。
「おや?お前たちどうやって来たんだ?」
その声の主を見ると燃えるような赤い髪をしたティーナだった。
良く見ると肌の露出が凄いよ。これがいわゆるビキニアーマーってやつか。
本当にこんな格好をしている人がいるんだね。異世界って凄い。
「なんでティーナがいるのにゃ?」
「この街のダンジョンに異変が起きたようでな。いろいろと手配をするのも大変でアタシが直接やってきたってわけだ」
「異変が起きたなんて聞いてないでござるよ」
「2週間くらい前にモニュンプスの漁に出ていた船が襲われたらしくてな。最初はここの面子で解決できると思ってたみたいだがそうもいかなかったんだとさ。本格的に危機体制に入ったのは1週間前からだ」
「ちょうど前の街を出たころね。それにしてもいったい何が起きてるのよ」
「それがわからないから調査しに来たんだよ。アタシも昼に着いたばかりでギルドの連中に話を聞いていたのさ」
それから話を聞いてみて、街の状況がわかってきた。
まずヒガリーの街にあるダンジョンは自然と共生するタイプらしい。
一般的なダンジョンは外界と隔たりがあって全く別の空間になってるんだけど、共生タイプはダンジョンが自然の一部に溶け込んでいて、見た目は普通の土地なんだけどダンジョンの要素が現れるんだとか。
このヒガリーの街は砂浜から海にかけてがダンジョンなんだって。
強いモンスターが出るわけじゃないし、ダンジョンのおかげかここだけの特産品のモニュンプスもいるから街としても発展したみたい。
共生タイプのダンジョンは見た目じゃわからないけれども境界があって、ダンジョンの内部にしかモンスターが活動することはできないんだってさ。
それでも何があるかわからないから観光客と多くの住民はすべて他の街に避難させたって。
一部の住民は海岸から離れた街のはじっこのほうの建物に逃げていて、海岸付近にいるのは自分たちとギルドの建物にいるティーナたちだけみたい。
街に入ってくる馬車の運行も止めていたから、自分たちが街にやってきたのが不思議だったんだね。
「わっはっはっはっは。そうかそうか。海岸沿いにやってきたのかよ。本当にお前たちらしいな」
「このルートを教えてもらったのはティーナからよ」
「そりゃそうだろ。アタシ以外にこんなルートを使うやつはそうそういるもんじゃないからな。でも今回アタシはちゃんと馬車道の方から来たぞ」
なんだかとんでもないところを通ってたみたいだね。
自分は安全なときに海岸を眺めさせてもらったくらいだけど。
日本で買い出しに行ったり料理を作ってるときにゴロンニャたちは危険な目に遭ってたのかなあ。
「ということで、お前たちも手伝ってくれるよな」
「それはギルドからの正式な依頼なんでしょうね」
「そりゃそうだ。ギルドさんからの直々のお願いだぞ」
「わかったわ。受けるわよ。じゃあタクノミは家に帰ってもらわないとね」
ん?どういうこと?
「何が起きるかわからないじゃない。お酒を飲むことも出来なさそうだし、タクノミは家に戻ってもらうわ」
そうだよね。街の人ですら避難してるんだから邪魔・・・・・・・
なんだなんだ?急に自分の周りが光り始めたぞ。
「タクちゃん逃げるのにゃ」
そう叫んだゴロンニャの必死な顔が消えたと思ったら真っ暗で何も見えなくなっちゃったんだ。
☆★☆★☆
「あれは強制転移魔法っぽいな」
「ティーナ!何を落ち着いているのよ。タクノミがどこかへ飛ばされているのよ」
「それでもあいつは扉を使って自分の家に帰れるだろう」
「違うのよ!ワタシたちの世界からタクノミの家に入れる扉はゴロンニャしか持ってないのよ!!!」
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