23杯目 その名は何がために ~過ぎし日のグリンナ~
これはまだタクノミが異世界に通じる空間を見つける半年ほど前の話。
ティーナの部屋にグリンナが入っていった。
「おお。グリンナか。良く来たな。座ってくれ」
「失礼します」
「新パーティーの準備は進んでるか?」
「なかなか難しいわね。ティーナとエミルが抜けた穴はちょっとやそっとじゃ埋まらないわ」
「そんなに考える必要はないぞ。グリンナがやりたいようにやれば良いんだ」
「それが難しいって言ってるのよ」
二人きりなこともあって話が滞りなく進む。
「だからソロ活動をすることにしたんだろ」
「そうよ。より強固なパーティーにするためにね」
「まあ2年半もやってたからな。それぞれの用事ってもんもあるだろう」
「あの二人は特にね」
「ああ。あいつらの事情は厄介だからなあ」
「中途半端でやるのも大変だわ。ちょうど良い機会だったのよ」
「そうかもしれないな」
しばらくその厄介な事情について話し込んだあと、グリンナが別の話題を切り出した。
「それでパーティーの名前のことなんだけど」
「おおっ。もう考え付いたのか」
「逆よ逆。やっぱり前のパーティー名をそのまま名乗りたいのよ」
「ダメだと言っただろう。新しい名前にしろと」
「二人が抜けた上に名前も変わるなんて・・・・・・」
「パーティー名以外はすべてそのままで大丈夫にするって言ったろ」
「でも他の人から見たら完全に別のパーティーに思えるでしょうね。よくこれでギルドの登録が通ったわね」
「そりゃアタシがギルド長になるんだからな。通すに決まってるだろ」
「ふふふ。そうね。ティーナならそうね。それなら名前もそのままにしてくれれば良かったのに」
「それは絶対にダメだ」
「別にそのままでも問題はないじゃない」
「これだけはダメなんだよ。それ以外はできるだけ協力すると言ってるだろ」
「・・・・・・でも。やっぱり。みんなでやってきたのよ」
「それは分かってる」
「この名前はワタシたちの歴史よ」
「分かってるって」
「二人が抜けて名前まで変わったら、ワタシたちの何かが壊れてしまいそうで怖いのよ」
ティーナは口まで出かかった言葉を飲み込んだ。
そして背もたれに体をおもいっきり預けてから改めて口を開いた。
「それでも新しい名前にしてもらうからな」
「・・・・・・空欄にしといて」
「どういうことだ」
「とりあえずソロ活動を開始するわ。それが終わったときに新しい名前をつけるわよ」
「それはなかなか難しい話だな」
「これが妥協案よ。ギルド長になるんだからそれくらいはできるわよね」
「ちっ。わかったわかった。その代わり再開するときは必ず新しい名前をつけるんだぞ」
「・・・・・・善処するわ。それじゃあ話はこれで」
「おう。気を付けて帰れよ」
グリンナが出て行ったのを確認してから、ティーナは頭をガシガシとかきむしった。
「ったく。あれは絶対に名前を変えないつもりだな。あいつの性格を考えたら仕方ねーか。そんときはそんときだな」
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