22杯目 その名は何がために ~やりたい放題ギルドさん~
ゴロンニャたちのパーティーの元メンバーで豪快な女性のティーナさん。
ギルド長だってことで驚いたんだけど、もっと驚く一言があったんだ。
「そうだそうだ。アタシはギルド長を辞めたぞ」
ゴロンニャ、リンコ、グリンナの3人が一斉にティーナさんのほうを向いた。
「にゃにゃにゃ。辞めたってどういうことなのかにゃ」
「言葉の通りだよ。今はもうギルド長ではなくなったぞ」
「突然すぎるでござるよ」
「だからお前たちにこうやって会いに来て伝えてるんじゃないか」
「もしかして・・・・・・またパーティーに戻ってくるつもり?」
「わっはっはっはっは。それも面白いな。でももう次にやることは決まってんだよな」
それを聞いたグリンナが深く息を吐いた。
どういう気持ちなんだろう。今までに見たことがない表情をしているな。
ギルド長かと思ったらもう辞めたって何?
たしか半年前にギルド長になるためにパーティーから抜けたんだよね。
それがもう辞めたの?どういうこと?
このあとのティーナさんの説明で、ますますわけがわからなくなったんだ。
「アタシはギルド長を辞めてギルドになったんだよ」
ギルド長を辞めたのはわかった。
ギルドになった?どういうこと?
3人なら話が通じてるのかなと思ったけど、みんなきょとんとしているよ。
「ギルドになったってどういうことだにゃ」
「アタシがギルドになったんだ。つまりギルドもアタシってことだな」
「何を言っているかわからないでござるよ」
「だからギルドになったって言ってるだろ。ギルドという概念そのものになったんだ」
「何を言っているのかしら。もしかして冒険者ギルドを辞めて新しいギルドを立ち上げるつもりなの?」
「いや、そんなことはしないぞ。アタシが冒険者ギルドになったんだ」
うん。さっぱりわからないや。
すると、ティーナさんは頭をガシガシとかきむしりながら少しずつ説明してくれた。
「何で伝わんねーかな。冒険者ギルドがあるだろ。その仕組みが生命体だとするだろ。そうしたらアタシがその仕組みという生命体と一体化したんだよ」
こんな感じでわけがわからなかったけど、聞いていくうちになんとなく理解してきた。
ギルド長はギルドの一番偉い人だけれども、いろいろな調整や会合や指導や運営や細かい仕事が多くて本部に留まることが多いんだって。
でもティーナさんはそういう仕事より現場に行って好きに動き回りながらいろいろとこなしていくほうが自分に合ってるらしいんだ。
そこでギルド長は他の人に任せて自分は別な役職につくつもりだったんだけど、ギルド長より上の役職がなかったんだって。だからティーナさん自身がギルドになれば良いって考えたみたい。
うーん。ハチャメチャすぎる。みんなの言うことがなんとなくわかってきた。
「というわけでギルド長は辞めたけど、ギルドで一番偉いってのは変わらないからな。各地へ飛び回ることが増えただけってことだ」
「面倒なことを押し付けてきたってことよね」
「グリンナも言うようになったな」
「それでなんて呼べば良いのよ。ギルドって役職名にしたらわかりづらいわよ」
「やっぱりそうだよな。だから名前をちゃんとつけたぞ。ギルドさんだ」
ん?何それ。社長さんみたいなこと?でも社長さんは役職名に敬称をつけてるんだから違うよね。何だ?
「ギルドさん。これで1つの役職名だ。公式の場ではアタシのことをギルドさんと呼んでくれ」
3人の顔を見て同じ気持ちだろうなってことが分かった。
この人には何を言っても意味がないだろうなって。
これでも本部の人たちが努力しまくった結果なのではと思えるよ。最初はもっと酷い名前だったんじゃないのかな。
とりあえず整理すると、ティーナさんはギルド長より偉いギルドそのものになったと。
それで役職名が『ギルドさん』ってことだよね。うーん。本当にめちゃくちゃだなあ。
そんな感じでみんなが無理やり納得して飲みは続いた。
しばらくしてからティーナさんがこの空間について聞いてきた。
「そういやここはなんて名前なんだ?」
名前?特には考えたこと無かったなあ。不思議な空間だなと思っていたけど。
でも3人の考えは同じだった。
「タクちゃん家だにゃ」
「タクノミ殿の住まいでござる」
「タクノミの家ね」
え?自分の家?そんな風にちゃんと思ってなかったな。まだアパートがあったし。
でもここで生活することになるんだし、これから宅飲みをちゃんとやっていくって決めたんだから、自分の家だと胸を張って言うようにしよう。
「そうです。ここは自分の家です」
『その認識で良いと思いますよー。タクノミさんが死んじゃったら、この空間も消滅しますからねー』
おいおいおい。サクラミが凄いことを言ってきた。
死んじゃったらどうなるかなんて考えたこともないし、そうなったらそうなったで自分ではもう理解できないもんね。
でも異世界と繋がるくらいなんだから転生とかもあったりして。
とはいえ死ぬつもりなんて全くないから・・・・・・ん?
3人が急に近づいてきたぞ。なんだなんだ。
「タクちゃんはゴロンニャたちが守るのにゃ!!!」
近いってば。近いってば。
「わっはっはっはっは。仲が良いんだな。今度はちゃんとマルマルコロリンから守ってやるんだぞ」
ああ。そういうことか。
みんなあの時のことをまだ気にしているんだな。近いよ。やわらかいよ。良いにおいがするよ。
これなら守ってもらうのも悪くないかな。なんてね。
それからもお酒は進んだ。
いつもの3人より少しテンションが高かったように思えるのは、久しぶりにティーナさんと会ったからかもしれないな。
途中からティーナさんはあまりしゃべらないで、3人のことを静かに眺めるようになった。
そんな3人も自分たちの話を聞いて欲しかったみたい。
今はグリンナがティーナさんのことをなでなでしているし。
「グリンナがこうなるまでみんなで飲むようになったんだな」
「初めて見たときはびっくりしたのにゃ」
「今では毎日こうなってるでござるよ」
それを聞いたグリンナは、ティーナさんだけじゃなくてゴロンニャとリンコもなでなでしはじめた。
やっぱり仲が良いんだねとつくづく実感させられる日だったよ。
さてそろそろお開きかな。ん?ティーナさんがみんなに何かを聞いているみたい。
「そろそろパーティーとしての活動を再開させるんだろうけど、名前はどうするか考えたのか?」
「んーにゃ。宅飲み会で良いんじゃないかにゃ」
「さすがにそれはやりすぎでござるよ」
「うふふふふ。宅飲み会ね。その名前でも面白いかもね。ありがとうね」
それを聞いたティーナさんが驚いた表情で聞き返した。
「グリンナ。本当にそれで良いのか」
「うふふふふ。冗談よ。冗談。ありがとうね」
「冗談か・・・・・・」
そう呟いたティーナさんが勢い良く自分に向ってきた。
何何何。何だか怖いんですけど。
「よし。タクノミ。これからアタシのことは呼び捨てにしろ。アタシもお前を呼び捨てにするからな」
え?急に何?
そんないきなり言われても。
「ん~?呼び捨てにするよな?」
こ・・・これか。初めて死を覚悟させられたオーラってやつは。
自分の命と家が消滅するってことにリアリティを感じさせてもらったよ。
何で急に言われたかわからないけど、気に入ってもらえたってことで良いんだよね?
評価、ブックマーク、感想、レビューなんでもすべて嬉しいです。
めちゃめちゃめちゃめちゃ嬉しいです。
読んでいただけるだけでうれしょんするほど喜びますが、反応していただけるのは最大のご褒美です。




