3杯目 宅飲みライフって思ったより良いもんだよ
自分の家の押し入れに不思議な空間が出来てから1週間が経った。
あれから毎晩のようにゴロンニャはやってきて、ビールをゴクゴクと飲むようになった。
サクラミは空間の調節や他の仕事が忙しいということで飲んでるときに会話に参加することはほとんどないけれど、あのお膳はピカピカと光ってお酒とつまみのおかわりを何度も催促してきた。
そうそう。
1週間も飲むうちにゴロンニャとため口を聞くだけでなく呼び捨てまでできるようになっちゃった。
お酒の勢いって凄い。
でもお酒の勢いってだけじゃなくて、ゴロンニャの人懐っこさがそうさせたんだと思う。
始めは自分のことを警戒していたのに、今では飲んでるときの距離も近くなった。
何でそんなに警戒しなくなったのか聞いてみたら
「美味しいものをくれる人に悪い人はいないにゃん!」
と答えたその顔はとんでもなく真剣で、これまで観てきたゴロンニャの真顔ナンバーワンを維持し続けている。
それでね、本当に距離が近くなったと思うんだよね。
同じものを食べているのに、ゴロンニャは食べてる分が無くなったらおかわりを催促しないで
「もらったにゃん」
と自分が食べてるお皿に手を伸ばすようになったりして。
そのときの笑顔が可愛すぎて許してしまう自分がいるのです。
可愛いからね、しょうがないよね。
そんな感じで飲んでいたある日、サクラミ・・・いやサクラミテリオス様が
『私とも仲良くなってほしいですー』
と言いながらお膳をピカピカピカピカといつもより激しく光らせていた。
何でもその日は仕事がとても大変だったそうで。
『もう今夜はとことん飲むのですー』
と宣言してから飲むわ飲むわ。
途中でお酒が足りなくなって追加で買いに行かされたっけ。
今の力じゃ2時間までしかこの部屋で飲むことができないと言っていたのに、その日は『まだ大丈夫ですー』と何度も言い続け最終的には4時間も経っていたんだよね。
あの日はみんな酔っ払っちゃってた。
やっぱりサクラミテリオス様は次の日から大変なご様子。この部屋の力のバランスがめちゃめちゃらしくて抑えるのに精いっぱいだったり、他の仕事のほうももっととんでもないことになったみたいで、それからは宅飲みの開始と終わりの合図のために話しかけてくる以外はお膳がピカピカと反応するだけになっちゃった。
でもその日のこともあって、サクラミテリオス様のこともサクラミと略称で呼び捨てしてため口をきいても許されるようになった・・・はず。
だってそれ以降は最初と最後の挨拶くらいだから、まだ自信をもって許されるなんて言いきれないよ。
この生活に満足しているし、これからも続けていこうと思う。
楽しくお酒が飲めているってことだけじゃなくて、生活にも目途が立ちそうだから。
サクラミからの提案は食費だけじゃなくて生活面でも日本でバイトを続けるよりも良さそうだったんだ。
『今すぐは無理ですけどー。少しずつこの空間でできることを増やしてー、タクノミさんはここに住んでもらおうと思ってますー』
なんでも、これからこの空間に風呂やトイレなどの生活に必要なものを増やして、住んでも問題なくしてくれるそう。
ただ少しずつしか進めていけないから、しばらくは今の家・・・安いアパートに住んでるんだけど、もう少しここに住んでて欲しいと。
それで空間がもっと安定したら、この部屋の押し入れから切り離して、いつでもどこでもこの空間に入れるような仕組みにしてくれるんだって。
有名な未来の猫型ロボットの作品に出てくるどこでもなドアっぽい感じかな。
それならもう家賃と光熱費の心配が無くなるから・・・
「タクちゃん。ぼーっとしてどうしたにゃ。ビールが無くなったにゃ」
そうだった。今もゴロンニャと飲んでいるんだった。
急いで自分のアパートの部屋へ戻って冷蔵庫を開けてビールを手に取り、ゴロンニャの元へ戻った。
「ありがとにゃー。幸せだにゃー」
と言ったゴロンニャは嬉しそうにビールをぐびぐびと飲んでいる。
たくさんの座布団にまみれて。
そう。座布団。ゴロンニャがめちゃめちゃお気に入りになったんだよね。
この空間でできることを増やすってサクラミは言ってくれたけど、今のところお酒とつまみ以外で増やせたのはちゃぶ台と座布団。
しかもサクラミが増やしたわけじゃなくて、元々自分のアパートにあったちゃぶ台と座布団をこの不思議な空間の部屋に持ち込むことができるようになったってだけ。
試しに他の物も持ち込もうとやってみたけど、なぜかアパートに戻っちゃうんだよね。
サクラミが言うには
『持ち込めるものを増やすだけでも大変なんですよー』
だって。
自分が持ってるお金を考えると、なるべく早くアパートから出ていきたいんだけどなあ。
まああの大酒を飲んだ日の後始末で大変だったりするのもあるんだろうね。
お酒と食事なら何でも持ち込めるのにね。
そんな感じでゴロンニャと座布団。
自分はこの部屋の床の座り心地は悪くないと思うので座布団はいらないんだけど、ゴロンニャはえらく気にいっちゃったみたい。
初めて見かけたとき
「なんなのにゃー!これは最高の防具にゃー!!!」
と言って1枚は自分の下に敷き、自分の分だったもう1枚は嬉しそうに抱きかかえて、にゃんにゃにゃんにゃと鼻歌を奏でていた。
もっと欲しいというから次の日に5枚ほど買ってきて、今では計7枚の座布団と一緒にお酒を飲むのが彼女のお決まりになった。
ちょっとダラけすぎる姿を見せることもあるけども、いやだいぶダラけすぎた姿ばかり見せるようになったけども、それも彼女らしさの1つなんだと思う。
それに心を許してくれているような気がしてね。
あと自分にも少し変化があったんだ。
一人だけで飲むよりゴロンニャやサクラミと飲む方が楽しいと思うようになった。
まだ一週間だけど、ぶっちゃけ嫌な気分には全くならなかった。むしろ少し楽しみ。
でも一番の違いは食べ物のこと。
これまでも食べることは好きで、安くて美味しいものを探すのが趣味みたいなもんだった。
それを二人が食べて美味しそうにしていると、自分が食べるよりも何倍も嬉しいことに気が付いたんだよね。
高級な食べ物なんて手に入らないけど、安くても美味しいと思ってもらえる料理を用意したい。自分の料理は素人レベルだけど、買ってきただけの商品じゃなくて自分が作ったものも食べてもらいたい。
せっかく宅飲みすることになったんだから美味いもんを食べさせたい!
人からしてみたら大したことないけれど自分にしてみたら一大決心をした矢先、ゴロンニャから信じられない言葉が飛び出した。
「この部屋に来ることが出来なくなってしまったのにゃ」
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