17杯目 ゴメンで済んだら異世界はいらないけど、ちゃんとゴメンをするから異世界はいる
異世界でいろいろあった日の夜、いつものように日本と異世界の間にできた不思議な空間で酒を飲み始めた。
でもね、なんだかいつもと雰囲気が違うんだよね。
せっかく連れてってもらったのに、ゴロンニャ、リンコ、グリンナの3人はしょんぼりしている。
ダンジョンで自分が危ない目にあったのがよっぽどのことだったんだろうね。
何度も何度も気にしないでいつもみたいに飲もうって言ってるんだけど、なかなか楽しいムードにはならないね。
こんなときのサクラミと思ったんだけど
『初めてタクノミさんがあちらの世界に行ったので、空間を安定させるためのいろいろな調整が大変ですー』
と言ったっきり黙ってしまった。きっと忙しいんだろうね。
でもこんな空気のときは居て欲しかったよ。うーむ。
そうだ。こんなときは用意しておいたつまみでも・・・・・・
「タクちゃん無理をしないでほしいにゃ」
「そうでござるよ。今日は料理もいらないでござるよ」
「怪我をしてるんだし今夜は飲まずに休むべきよ」
うーん。つまみを取りに行く前に引き止められてしまった。
そんなに気にすること無いんだけどなあ。
確かに怖かったけどさ。怖かったけど。でもさ。うん。そうだよね。言おう。
「ちょっと良いかな?聞いて欲しいことがあるんだ」
3人ともうなずきながら真剣な表情でこっちを眺めている。
「今日はみんなの世界に連れてってもらって嬉しかったし楽しかったんだ。本当にありがとう」
頭を下げて感謝を伝えると、3人は自分に寄ってきてまた謝り続けてきた。
そして無理はしないようにと、自分が何かしようとすると引き留めてくる。
違うんだよ。そういう風にしてほしくないんだよ。うん。言うぞ!
「3人とも失敗したのを気にするのはわかるよ。でもね、初めての体験をいっぱいさせてもらったし、そのことをみんなと話したいんだ。それに自分にとっては旅行気分の夜なんだ。いつもみたいに楽しく飲みたい。料理もいつものように食べたい。だから変に気を使わないでね」
納得してもらえたかな。とりあえずつまみを取りに行くことはできたよ。
とはいえ今日は簡単なものしかない。いわゆるコンビニ飯ってやつ。
朝から異世界に行ってたからね。その直前に買いに行ってきてたんだ。
値段と量を考えると少しお高めだけど、時間がないときに役立つよね。
昔に比べたらだいぶ美味しくなってるし、他のお店が開いてない時間だったし。
てなわけで今日は袋詰めされてるコンビニの総菜にしたよ。
そのまま食べられる器のお惣菜ってそこそこの値段がするでしょ。
でも袋に入ってて自分でお皿に入れるやつは副菜だったら100~150円くらいで買えるからね。
いろんな種類を少しずつ買えば居酒屋気分を楽しめるよ。
小さめの器に1つずつ盛りつけて・・・痛っ。
まだちょっと動かすと左腕とわき腹が痛むなあ。まあこれくらいなら我慢できるし、お酒をもう少し飲めば痛みも和らぐでしょ。
おお壮観だ。
10種類の総菜を器にそれぞれ盛ってみたけど、凄く居酒屋っぽいよ。
300円くらいのスピードニューを贅沢に頼んじゃった感じ。
これで1500円しないんだから安い気がしてくるね。
眺めてばかりいないで運ばなきゃ。
うん。反応が良さそう。
3人ともちゃぶ台に乗った総菜の群れをじっと眺めてるよ。
凄く食べたそう。うん食べちゃって。飲んじゃって。
3人が同時にごくりと唾を飲んだと思ったら、それぞれ顔を見合わせている。
どうしたのかな?
かと思ったら3人とも頭を深々と下げて
「ごめんなさいだにゃ」
「申し訳なかったでござる」
「反省してるわ」
と謝ってきた。
「いやいや。さっきも言った通り、もう楽しく食べて飲んで・・・・・・」
「違うのにゃ!」
ゴロンニャが言葉をさえぎってきたかと思ったら、グリンナがいつにも増した真剣な眼差しで見つめてきた。
「タクノミの話は理解したわ。その上で謝らせて欲しいの。私たちはあなたを本当に危ない目にあわせてしまった。心の底から反省して謝罪するわ。この気持ちを受け取って欲しいの」
「そうでござる。これは3人とも同じ思いでござる」
うん。自分も許してるよ。だから大丈夫なんだけど。
と思ったらゴロンニャが座布団と一緒に転がり込んできて自分も巻き込んでそのまま転げまわった。
ようやく止まったと思ったら、自分の上に座布団まみれでゴロンニャが馬乗りになっていた。
「タクちゃんは優しすぎるのにゃ!それはタクちゃんの良いところなのにゃ。だから・・・うーにゃ。とにかくゴロンニャたちの思いをきちんと受け止めて欲しいのにゃ!!!」
そうか。みんなにしてみたら、とんでもない大失敗だったんだ。
それを大丈夫だからいつもみたいに飲もうと簡単に言っても切り替えられないんだ。
自分も真面目にみんなの思いを受け止めないと。
ゴロンニャの感触がやわらかいとか心地よいとか、そんなことを思ってる場合じゃない。
うん。場合じゃない。いや少しは思っちゃっても・・・・・・ってそんなことを思ってるからこうなってるんじゃないか。
ゴロンニャにどいてもらって、みんなの目を一人ずつ順番に見つめた。
「真剣な謝罪の気持ちをしっかりと受け止めていなくてごめんなさい。みんなの真剣な気持ちは伝わりました。これからもよろしくお願いします」
この後、謝るのはこっちだ、いやこっちだみたいなやり取りを続けてたらバカバカしくなっちゃって、みんなで大笑い。
やっといつもの感じに戻ったよ。
さあさあ、好きなものをつまみながら飲もう飲もう。
「このふにゃふにゃの棒が好きなのにゃ」
それはマカロニサラダだね。
「拙者はこのシャキッとした硬い棒が好きでござる」
それはゴボウサラダだね。
「ワタシはこの極太の棒が好きね」
それはメンマだね。
みんな今日は急に棒が好きだねえ。
「でもどれもこれも美味しいのにゃ」
「少しずつでござるがいろいろな味を楽しめるのは嬉しいでござるよ」
「これがみんな売られていてすぐに食べられるっていうの?タクノミの世界は本当に凄いのね」
そうなんだよ。コンビニって偉大なんだよ。
こういう袋に入ってる惣菜はスーパーとかで売ってる方が安かったりするけど、スーパーに行ったら別なものを買いたくなって手に取らないから不思議。
ゴロンニャは次にかぼちゃサラダを食べて座布団と一緒に転げまわってる。
そういえば飲み始めたときは座布団も元気がないようにしんなりしてたような。どういう仕組みなんだろう。
リンコはらっきょを食べてジタバタ・・・ん?いつもより凄く小刻み。
ジタバタダンスのバリエーションが増えるかな?
グリンナは豆のサラダを1粒1粒ていねいに箸でつまみながら食べてるね。
まだなでなでするほどは酔ってないみたいだ。
それにしても初めて異世界に行ったけど、チートで簡単にモンスターを倒せるなんて物語のようなうまい話は無いもんだね。
「ちーと?何なのにゃ?美味しいのかにゃ?」
食べ物かと思うなんてゴロンニャらしいね。
でもチートのことについて説明したら、思いもよらないことを言われたよ。
「こんなに美味しい食べ物をいっぱい用意できるなんてちーと?だにゃ」
ただコンビニで買い物してきただけなんだけどね。
「こんなにくつろげる空間が存在するだけでちーと?でござるよ」
ただ宅飲みしてるだけなんだけどね。
「完全にちーと?よ。ワタシたちがどれだけありがたいと思っているか向こうで一緒に一日いたんだからわかるでしょ」
うーん。マルマルコロリンにやられたことがまず最初に思い浮かんじゃうな。
えーと・・・・・・あ、もしかして
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