16杯目 初めてのダンジョンは痛くて柔らかい
異世界のダンジョンにやってきた自分は、鈍い痛みを感じながら倒れていた。
弱いモンスターしかいないって言ってたのに・・・・・・
―――――時は少し戻って昼食後
「おなかも膨れて元気が出たのにゃー」
周りの人の視線が強烈すぎて、それどころじゃなかったよ。
「次はいよいよダンジョンに行くでござるよ」
ダンジョンの中なら人もそんなに多くないのかな。
「そんなに怯える必要はないわよ。初心者向けで安全なダンジョンなんだから」
そっちの心配はもうほとんどしてないんだよね。
こんなに人から注目されたのが初めてだから、なんとも居心地が悪い。
食堂から出てからもいろんな人からの視線を感じるよ。
そんなこんなでダンジョンまでやってきた。
この中なら少しはマシになるかな・・・・・・って人多すぎ!!!
めちゃめちゃ人が居るよ。何これ。
「このダンジョンは3階層から出来ているわ。ここは1階層目。初めての人でもわかりやすいように見て回るだけでダンジョンの最低限の知識を得ることができるわ」
グリンナに言われてから落ち着いてみると、ところどころに何かが展示してあったり、それを熱心に眺めている人がいるね。でも適当に眺めてだらだらと先に進む人もいる。
何だろう。めちゃめちゃ大きい博物館みたいだ。
でもここってダンジョンだよね。モンスターが出てきて戦ったりする場所じゃないのかな。
「1階層目はもうほとんどモンスターが出ないわね。たまに現れても職員が駆除してるから人に害のない程度の弱さよ」
グリンナはそれからいろいろと説明してくれた。
このダンジョンは冒険者を目指す人向けの超超超超初心者ダンジョン。
というか、一般人はモンスターと戦うことすらないんだとか。
雰囲気を味わいながら、ダンジョンとは何かを学ぶための場所なんだって。
聞いてみて思ったのは、日本の自動車教習所みたいな感じなのかな。
冒険者になるための知識がゼロの人でも冒険者になれるように学ぶ場所。
ここで冒険者になったとしても、このあとで簡単なクエストを達成して初めて冒険者として認められるみたい。
日本の運転免許のシステムでいうところの仮免を取りに来てる感じなのかな。
ちゃんと説明するには職員をもっと増やさなきゃいけないから、見るだけで終わるような1階層目にしたんだとか。
砂漠のど真ん中にあると、なかなか難しい問題なんだろうね。
展示を見るとなかなか興味深いことが書いてありそうだよ。
なになに。ダンジョンとは外界から切り離された特別な空間であり、通常なら内部のモンスターが外に出ることはないのか。ふむふむ。
でもモンスターが増えすぎるとダンジョンの許容量を上回っちゃってモンスターが外に出ると。
なるほどね。ゲームで良くある設定にだいぶ似てるね。
このダンジョンは徹底的にモンスターを排除してから整備したから安全であり・・・・・・
「あんまり長く見てても飽きちゃうのにゃ」
自分にとっては初めてだから面白いんだけどね。
でも3人にとっては当たり前すぎて退屈かな?
「全て見ようとしたら3日くらいかかるでござるよ」
そっか。ゼロから冒険者になるために勉強する場所だもんね。
じっくり読んでたら時間が足りないか。
「こっちに次の階層へ抜ける階段があるから、適当なところで先に進むわよ」
たしかに。今日中に日本へ戻らなきゃいけないんだから、雰囲気を味わう程度にしておかなきゃね。
それじゃあ次の階層へ・・・・・・ってここも人が多いぞ。
しかも地平線までだだっ広い空間が広がってるよ。どんだけ広いんだダンジョンって。
「2階層目はより実践に近い知識を得るための施設になってるわ」
ここもグリンナのおかげでどんなところかを理解できた。
ここは自動車教習所で言えば実技の授業を受けるところだね。
さっきとは違って職員が説明しているよ。
でもここも人が多いから、職員1人の周りに50人くらいが集まって聞いてるね。
ただそれぞれの職員ごとにやってる内容が違うように見える。
「それは適正に合わせた技術を教えているからよ。冒険者とひとくくりに言われてるけど、いろいろな職業があるのよ」
なるほどなるほど。
どんな武器を使うかによっても違うし、パワー型かスピード型かでも変わってくるんだね。
というか魔法もあるの!さすが異世界!ワクワクするなあ。
あっ!いま職員の人が火を出した。凄い凄い。
「あれは初級魔法よ。大したことないわ」
「自分の世界には魔法がなかったから、初級でもなんでも珍しくて凄いよ」
「ワタシたちの世界では当たり前だけどね。ほら、周りの人を見るとわかるわよ」
グリンナに言われて職員の周りに集まってる人を見てみたら、あんまり興味がなさそうだね。
たまに熱心な感じの人もいるけど、だいたいは適当に凄しているような。
退屈な授業を仕方なく聞いてるような感覚なのかな。
「ワタシたちの世界では8割くらいの人が冒険者の資格を持っているのよ。登録カードが身分証明書として役立つから、実際に冒険者として仕事をするつもりがなくても資格だけは取るのよね」
日本の運転免許証と同じような感じだね。ますます教習所みたいなダンジョンだ。
「そろそろ次へ行くにゃ」
職員の人たちの実技を見ているだけで、思ったよりも時間が経ってたよ。
格闘技とはまた違った異世界らしい動きを見て、そうそうゲームであるあるって思ったりしてね。
じゃあ次が3階層目。このダンジョンでの最後の階層らしいけど、どうせ人が多いんだろうな。
と思ったら人がほとんどいない。
「一般人は2階層までで終わりなのよ。3階層は特別な講義を受けたい人がやってくるの」
3階層もグリンナのありがたい説明のおかげですぐに理解できた。
みんな冒険者の資格を取れれば良いから、最低限の知識が得られる2階層までしか来ないんだね。
全体の授業だけじゃ物足りない人が個別授業を受けてる感じだね。
「にゃ。マルマルコロリンがいるにゃ」
ゴロンニャが指差した先には、サッカーボールくらいの緑色をした丸い物体がコロコロと転がっていた。
「あれがモンスターでござる」
え?このダンジョンはモンスターが滅多に出ないんじゃなかったの?
「3階層は特別講義のために少しモンスターがうろつくように数を調整しているのよ。とはいえ、初心者にも安全な最弱のモンスターだけに絞ってるわ」
そうなんだ。でもモンスターなんだよね。少し怖いな。
「タクちゃん。戦ってみるにゃ」
え?危ないよ。
「マルマルコロリンは本当に弱いでござるよ」
弱いとはいえモンスターでしょ。
まあ目の前に人間がいるのに、のんきにコロコロと転がってるけど。
「子どもが遊ぶ程度のものよ。特に問題はないわ」
うーん。そうなの?
じゃあ異世界初バトルしちゃいますか!!!
安全なんだよね?弱いモンスターなんだよね?
何回も確認してから、グリンナの木の杖を貸してもらってマルマルコロリンに近づいてみた。
コロコロしている動きがだんだんと鈍くなり、そして止まった。
「今にゃ」
「今でござる」
「今よ」
3人が同時に合図を出してきた。
え?今?何をするの?思わず3人のほうに目を向けてしまった。
次の瞬間、左腕からわき腹にかけて強い衝撃を受け、そのままの勢いで倒れてしまった。
起き上がろうとしてみたものの体に力が入らない。
痛い?熱い?重い? 自分の体の左側に違和感を感じる。
弱いモンスターしかいないって言ってたのに・・・・・・
「大丈夫かにゃ!」
声の方に顔を向けると、ゴロンニャが心配そうに自分の顔を覗き込んできた。
近い。近い。体の違和感なんか消し飛ぶほどに顔が近い。
「マルマルコロリンは倒してきたでござるよ」
リンコも顔がにゅっと現れた。近いんだってば。
「何やってるのよ。合図したでしょ。マルマルコロリンは動きが止まった時に体当たりしてくるから、それを交わしてから攻撃する。冒険者の初歩中の初歩よ」
そうだったの?知らなかったよ。
あれ?もしかして。
「それって1階層で学ぶことかな。そのあたりは見ないで次に進んじゃったよね」
「「「あっ」」」
☆★☆★☆
それからしばらく休んだら何とか動けるようになった。
まだ痛みは残ってるけどね。重たい痛み。激しい筋肉痛のような。
帰るために宿まで歩いたんだけど、3人がずっと心配しながら自分にくっつきっぱなしだったんだよね。
痛みより柔らかいのほうが感じられるくらいに。
ただそれを見た周りの人の目はとんでもなく鋭くてさ。そっちのほうが痛かったよ。
とりあえず飲み部屋に帰ってみんなで反省会をしよう。
いや3人がずっと反省モードになってるから、お疲れ会?
まあとにかく飲もう飲もう。異世界は初めてだらけで楽しかったんだから、みんなも楽しい気持ちになってもらいたいし。
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