15杯目 異世界をのぞくとき異世界もまたこちらをのぞいているのだ
「ワタシたちの世界へようこそ」
「歓迎するでござるよ」
異世界にとうとうやってきた。
これまでも不思議な空間が出来たり、地球には居ないであろう種族とお酒を飲んだり、それなりに異世界っぽい感じのことはしてきたよ。
でも実際に異世界そのものにやってくるとなると、これまでよりもっともっと異世界と関わってるんだって気がしてくるよ。
グリンナとリンコが出迎えてくれたけど、ゴロンニャはどこだろう?
「むにゃ?タクちゃんもう来てたのかにゃ。おはようだにゃ」
あ、ゴロンニャだ・・・と思ったら何も着てないんですけど!!!
「何やってるのよ。早く着替えてきなさい!」
「タクノミ殿の前でござるよ!」
それを聞いたゴロンニャはささっとどこかへ行ってしまった。
「あの子、今の今まで寝ていたのよ」
異世界に来て最初に良いものが見れてしまった。
いやいや、そんなつもりで来たわけじゃないよ。
でも良いものは良いわけで。
なんて思っていると着替えたゴロンニャがやってきた。
「お待たせだにゃー」
いつもと違っていかにも冒険者という服を着ている。かっこいいなあ。
リンコもグリンナもそれぞれに似合った格好をしている。でも予想してたのとちょっとだけ違うな。
「何かおかしいことでもあるかしら?」
というグリンナの問いに
「自分たちの世界の文献では、女性の冒険者はもっと露出が多い・・・・・・」
と答えたところで何を言ってるんだってことに気が付いた。
でもグリンナは
「少ないけどそういう装備もあることはあるわ。でも私たちのパーティーではそういうのは着ないわね」
と何事もないように答えてくれた。悪く思われていないようで良かった。
3人とも胸がはだけてるなんてことはなく、それどころか肌の露出は顔と手だけという全くお色気のない姿だよ。
なぜこんな異世界のイメージとは違った地味な格好をしているのかというのは、その日のうちに判明することになるんだよね。
そして自分はもっと地味な格好をすることになった。
日本の服装のままだと目立つからという理由で渡されたのは、ゴワゴワとした厚手のシャツとズボン。
着てみるといかにも作業着って感じの服装だった。
なんでも駆け出しの冒険者が着る量産品なんだって。半信半疑だったけど、外に出てからすぐに本当だとわかったよ。
だって、街を歩いてる人の半分以上が自分と同じ服を着ているんだもん。
いくつか色のパターンがあるみたいだけど、作りは全く同じ。初期装備の人ばっかのゲームの世界みたい。
それから街を案内してもらっていろんなことがわかったよ。
まずこの街の名前はスナシー。砂漠のど真ん中にある。
だから街の外に出ると、地平線まで砂漠が広がってるんだ。
でもただ砂漠が広がってるだけじゃなかった。
街の西側の砂漠に行くと、幅10メートルくらいの一直線の道が地平線まで繋がっていた。
そこに結構な頻度で行きかう馬車。ん?馬車?
馬じゃないな。何だろうあれ。馬のようでもあり牛のようでもあり、でも足が短い。
「ノソウマだにゃ」
普通の馬より足は遅いけど、過酷な環境でも耐えられるから険しい土地では良く使われているんだって。
馬の一種として扱われていて、これがひいてるのも馬車って呼ばれてるみたい。
一番近い街はこの道を通ってノソウマの馬車で半日かかるところにある。
だけどこの街には1万人くらいの人が冒険者になるために滞在してて、毎日2000人くらいずつ入れ替わってるから結構な頻度で馬車が通ってるんだ。
だから最初に街並みを見たときは驚いたよ。
いかにも中世のヨーロッパみたいな建物が並んでいて異世界に来たぞって感じたけど、なんだか違和感があったんだ。
それは、1つ1つの建物のサイズがでかいこと。
高さは平屋か2階建てしかないんだけど、体育館のようにめちゃめちゃ広いんだよね。
それがいくつも整然と並んでいるから倉庫群のように見えたんだ。
それも説明を聞いて納得。
1万人くらいの人が平均5日くらい滞在しているから、建物のほとんどが宿泊施設と食堂なんだって。
高くすることもできないから、横に広がった建物がいくつもあるんだってさ。
街の西側の砂漠には、ちょっとした葉っぱと植物の茎が生えている景色が果てしなく広がっていた。
ただ砂がむき出しになっているので、見た感じは砂漠だなって思えるよ。
生えているのは、スナシーの街で食べられているという苦い草とパサパサの芋だった。
砂漠でも育つ上にほとんど手入れがいらないとあって、美味しくないけど大量に生産されているみたい。
苦い葉っぱはヤギの餌になってるらしくて、なかなかの数のヤギが好きなように歩き回っていた。
それでも苦い葉っぱは余るから人間の食事としても出されてるんだって。
そんな感じで午前中は街並みと砂漠を見て回ったんだ。
お昼になったらパッサパサの芋を食べに食堂へ。何百人と入れそうな広さがあるよ。
グリンナは食べながらつまらなそうに
「こんな感じで街自体は大したものはないわよ」
なんて言うけど
「すべてが初めてのものばかりだから楽しいよ」
と返すくらい嬉しかった。特に嬉しいのはいろんな人がいること。
基本的には人間の形をしているんだけど、ところどころに人ではない何かの特徴があるんだよね。
同じケモ耳でもゴロンニャとは違う形の耳があっちにもこっちにも。
大きさもいろいろ。小さくて髭が生えてるのはドワーフかな?3メートルくらい身長がある巨体な人もいるよ。あれ?もしかしてあれは人形じゃなくて妖精?
思わずあちこちを見渡してしまったよ。
歩いてるときとは違って座りながらだと落ち着いて周りを見ることができるし。
あれ?でもちょっと気になることがあるぞ。うーん。
「ねえねえ。何だか周りにいるほとんどの人と目が合う気がするんだけど」
「いつものことだにゃー」
そう言ったゴロンニャは平然とポテトサラダを食べている。前に自分がレシピを教えたやつだ。
「拙者たちは何をしてもこうやって周りから見られてるのでござるよ。気軽に飲めるタクノミ殿の部屋は本当にありがたいでござる」
リンコが周りに聞こえないように耳のそばでこっそりと教えてくれた。
近い。近いよ。
それから周りの目がきつくなってきたような。
「男と一緒にいるから、いつもより注目されてるかもしれないわね」
え?もしかして周りから反感を買ってる?
「安心しなさい。ワタシたちが側にいる限りは問題が起きることはないわ」
と言いながらグリンナが側にピッタリとくっついた。
ますます周りの目つきが鋭くなったのが明らかにわかるよ。
そんな状態で食べたパッサパサの芋の味が全くしなかったのは、芋のせいだけじゃなかったかもしれない。
この後はダンジョンに行く予定だけど大丈夫かな。
モンスターより周りの人の方が怖いかも・・・・・・
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