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13杯目 急展開はホイル焼きとともに(後編)

グリンナの一言でめちゃめちゃ動揺してしまった。


「布団で眠れるわよ。ワタシたちもこの空間に住むんだから」

「え?一緒に住むの?え・・・え・・・本当に・・・・・・こ・・・心の準備が・・・・・・」


そんな自分を見ていたグリンナがニヤリと笑った。


「ふふふ。そんなに緊張しなくても良いわよ。心の準備をする期間はあるわ」

「ん?準備する期間?」

「まだワタシたちはこの空間に2時間しか居られないじゃない」


そうだったね。いつも飲み会は2時間だもんね。

でも自分の部屋が急に出来たようにグリンナたちが24時間ずっと居られるようにレベルアップしたかもしれない。

そんな心を読んだかのようにサクラミが


『向こうの世界から来られる3人の1日の滞在時間もレベルアップで伸びましたよー。30分延長されて2時間半ですよー』


と居酒屋のクーポンを使ったかのような微妙な時間の延長を教えてくれた。

そしてグリンナがなぜここに住みたいかをを説明してくれたんだ。


「ワタシたちはそのうちパーティー活動を再開させるのは分かってるわよね」

「うん」

「いつまでも同じところに居続けるわけにはいかないのよ」

「そっか。いろんな所へ行くようになるんだね」

「そしたらここに来られなくなるじゃない」

「あっ」


そうだ。3人は泊まってる宿の部屋にある扉をくぐってこの空間へやってきてるんだった。

どこかへ行くってことはその部屋に居られなくなる。


「だからサクラミテリオス様と交渉していたのよ」


そういえばグリンナとサクラミは初日だけじゃなく飲むたびに部屋の隅っこでぼそぼそと話し合う時間があったね。

サクラミの姿はないから、知らない人が見たらグリンナが一人で壁にぶつぶつしゃべってる怪しい人と思いそうな感じだったけど。


「今の扉をタクノミのように持ち歩けるようにするつもりなの」

「それならどこに行っても飲むことができるね」

「せっかくだからここに住むことにもしたのよ」


せっかくだからって。結局は一緒に住むってことだよね。

今すぐじゃないにしても女の人と一緒に。


「そうなれば野宿する必要もなくなるわ。ダンジョンの中でも安心して眠ることもできるようになるの。これがどれだけ凄いことかわかる?」


何だろうこの気持ち。胸の当たりがなんだか苦しい。

グリンナの言ってることはわかる。どこでも安全に泊まれるって冒険する人にしてみたらとんでもなく凄いことなんだろうな。

でも便利だからこの部屋に来ていたのかな。そのためだけに飲んでいたのかな。


「ふふふ。タクノミは分かりやすいわね」


グリンナはそう言うと自分の肩に透き通るようにきれいな手を乗せた。


「安心しなさい。嫌いな人の家に住もうとは思わないわ」

「そうにゃ。タクちゃんと一緒に住むのは嬉しいのにゃ」

「拙者もタクノミ殿と暮らすのは賛成でござるよ」


そっか。便利だからってだけじゃないのかな。


「なにニヤニヤしてるのよ。本当に分かりやすいわね。ほら飲み直すわよ」


え?気が付かなかった。そんなにニヤニヤしてた?え?

ああ、飲みなおそうね。次のつまみを持ってきますよっと。


『今度はちゃんと開けてから食べますよー』


やっぱりサクラミはさっきアルミホイルを食べちゃってたみたいだね。

そう。次のつまみもホイル焼き。包むところまでは先に作っておけるから、あとは焼くだけ。

でも中身は違うよ。やっぱり飲んでるときはいろんな味が食べたいでしょ。


『さきほどは海が口の中で広がりましたが、今回は肉が口の中に広がります。この鶏肉からあふれてくるジュワりとした味がたまらないですね。似たような濃厚さもありますが、ガツンとした味わいを受けます。その美味しさがたっぷりと含まれた野菜もたまりません。この美味しさが染みわたっているので、何の違和感もなく肉と野菜が一体化してます』


サクラミがいつもの早口で説明してくれたホイル焼きの中身を少し自分も説明するね。

食べやすい大きさに切ったキャベツを下に敷いて、その上に鶏肉を乗っけたんだ。

ガツンとしたっていうのはニンニクだと思う。

牡蠣と昆布のホイル焼きを作った時に残った日本酒を少し使ってるんだけど、そこに味噌を溶かして刻んだニンニクを入れたんだ。

味噌をそのまま入れるより、ちゃんと溶かしたほうが味が染みるからね。そこにニンニクを入れたことでガッツリしたんだと思う。

それを上からかけて、最後にバターを入れてからホイルを包んだの。

ニンニク、味噌、バターの組合せって最強だよね。


「美味しいだけじゃなくて、いつもより力がみなぎってくる気がするにゃ」


それはニンニクが入っているからかな?

心なしかいつもより座布団と一緒にゴロゴロと転がるスピードが速い気がする。


「たしかに美味しさと一緒に力がみなぎる気がするでござるな」


リンコもいつもよりジタバタが早い気が。


「野菜まで美味しくてありがとうね。これならエルフらしく野菜をいっぱい食べら~れ~る~わ」


ふにゃふにゃ感謝モードになったグリンナは、さっそくアルミホイルをなでなでし始めているね。


それにしても今すぐじゃなくても将来的にはみんなと一緒に住むことになるんだ。

心の準備が。いや準備する時間はあるのか。え?本当に一緒に?


『まだ先の話ですよー。それに何かあっても3人が守ってくれますからねー』


そう。まだ先だよね。ん?守ってくれる?


「そうよ~よ~よ~。ワタシたちがタクノミちゃんのことを守るわ~よ。存在してくれるだけでありがとうね」


グリンナがやってきて自分の頭をなでなでし始めた。

恥ずかしいけど嬉しい気持ちが抑えられない。いやこのままじゃまずいんじゃないか。

振りほどこうとしたんだよ。したんだよ。でもグリンナの力が強くて振りほどけなかったんだよ。本当だって。


でも守ってくれるってなんだろう。

その説明を聞いてから異世界との関わりが加速度的に深まっていくだなんて、そのときの自分は思ってもみなかったんだ。



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