12杯目 急展開はホイル焼きとともに(前編)
次の日。
あれ?次の日だよね。今って本当にあれから次の日だよね。
3人に抱きつかれて良い香りがしたのって昨日だよね?
思い出すと今でもドキドキするんだけど。それなのに3人はいつもと同じように飲んでいる。
そんなに気にすることではなかったのかな?
もしかして向こうの世界では当たり前のこと?
『ぱんぱかぱーん。お部屋がだいぶレベルアップしましたよー』
うわっ。びっくりした。
サクラミの声とともにファンファーレが流れ、目の前を大量の紙吹雪が舞っている。
これ、前にも見たぞ。演出ってやつだね。
グリンナは平然としている。
でもゴロンニャとリンコは酒や料理に紙吹雪が降りかかるのを必死に追い払っていた。
二人とも、前にも同じことしてたよね。
『タクノミさんが生活できるように、お部屋が追加されましたよー』
部屋が追加?どういうこと?
『いつも使ってるこの部屋から出ていく扉を開けてみて欲しいですよー』
どういうことだろう。
扉を開けてみると、そこにはこざっぱりとした空間が広がっていた。
ある程度の広さの部屋。トイレ。風呂。台所。・・・あれ?何か見覚えがあるような。
『タクノミさんのアパートの部屋を参考にして、この空間に似たようなものを作ったのですよー』
似たようなというか、ほぼ同じだよね。
物が1つもないからすぐには気が付かなかったけど、完全に自分の住んでるアパートの部屋と同じ間取りだよね。
というか、元の世界はどこに?
『玄関の扉を開けてみてくださいー』
言われるがままに開けてみると、そこはいつもの自分の部屋だった。
これまではアパートの部屋の押入れが、異世界との間にある不思議な空間の飲み部屋に直接つながっていた。
でもこれからはアパートの部屋の押入れと新たな空間の玄関が繋がり、飲み部屋は新たな部屋の押入れと繋がってるみたいだね。
『タクノミさんの世界のものも新しく作った部屋に持ち込めますよー』
説明を聞いてみたら本当に凄くパワーアップしているよ。
新しい部屋に電化製品を持ち込んでも動くらしい。ガスコンロも同じ。
テレビも繋がるしネット回線も繋がるんだって。もちろん水道も普通に使える。
つまりは今の生活と何も変わらずに住めちゃうってわけ。
なぜだろうと不思議に思っても、それは神様パワーだと言われたら納得するしかない。
とにかく、とうとう自分がこの不思議な空間で生活できる環境が整ったってことだ。
ただし、新しく作られたアパートそっくりな部屋には自分しか入ることができないんだって。
まあこれは、今まで3人がこっちの世界に来ることができなかったし、これまでと同じようなもんだよね。
しかもだよ。しかも。新しい部屋で住む準備が完了したら、この空間へ繋がる扉を持ち運べるようにしてくれるんだって。
自分が扉をくぐりたいと念じると、好きな場所で好きな時に扉が開くし、自分がこの空間に入ればその扉が消える。この空間から出たいときは同じ場所に扉が現れて外に出ることができるんだって。
普段は扉が消えた状態だから、日本にいる間は何も意識せずに扉を持ち運んでることになるんだとか。
これでアパートから離れられる!
とうとうこの不思議な空間で本当に生活するようになるんだ!!!
これまでも不思議な体験をしていたけど、夢なんじゃないかと思うような気持ちもどこかにあった。
でも、もうすぐここに住むとなると、改めてこの不思議な生活に身を投じるんだという実感がわいてきたんだ。
よーしやるぞ。そうだそうだ。用意していた料理をみんなに出さなきゃね。
「タクちゃん。何だか食べちゃいけないものに見えるんだにゃ」
いつも料理を出すと喜んで皿に顔を近づけるゴロンニャが不満そうな顔をしている。リンコもグリンナも。
そりゃそうだ。そのままは食べられない料理だからね。みんなに説明しなきゃ。
「これはホイル焼きって料理なんだ。周りの銀色のは料理を包むための道具だから食べられないよ。簡単に破れるから上の方を開けてみて」
説明を受けてホイルを開けた3人の顔がどんどんとやわらかくなっていく。
「美味しい臭いがいっぺんにやってきたのにゃ」
「これは・・・絶対に美味しいに決まってるやつでござる」
「開けて中身を見る喜び。一気に広がる素晴らしい香り。これは口にする前から食べることが始まる料理ね」
『早めに言って欲しかったですよー』
そうそう。開けた時から楽しめるよね。
ってサクラミだけ感想がおかしいよね。何かシャクシャクとした音がするような。
『何だか口の奥がキーンとしましたよー』
ああ。確実にアルミホイルを食べたよね。
それはさておき。3人が包みの中からプルンとした身を持ち上げて口に運んだ。
「これは鼻にも美味しい香りでいっぱいだにゃ」
「前に食べたあさりの酒蒸しも良かったでござるが、これは似ているようでまるで別の美味しさでござる」
「これは海よ。まるで海を食べているようだわ」
そう。今回のホイル焼きは海の美味しさが詰まってるんだよ。
『口と鼻に海が広がっていきます。このプリッとした身の美味しさもさることながら、この草なのかなにかわからないものからもとんでもない旨味が・・・・・・』
サクラミの早口の感想も長く続きそうなので、今回のレシピをちょっと説明。
作ったのは牡蠣と昆布のホイル焼き。
まずは昆布。乾燥昆布の表面をさっと拭いて、軽く火で炙ったあとにハサミでチョキチョキと細長く切る。たっぷり目にね。
そしたら切った昆布を日本酒に何時間かつけておくんだ。
つけ終わったら用意しておいた包む用のアルミホイルの中に昆布と日本酒を入れるの。
日本酒にも昆布の旨味が出てるからね。日本酒の入れすぎには注意して。その上にワカメを乗せる。
そしてその上に良く洗った牡蠣を乗っけてからバターとしょうゆを入れるんだ。
あとはちゃんと包んだアルミホイルをフライパンに乗せて火にかけるだけ。
焦げても良いように昆布を下にしてあるけど、なるべく焦げないようにほど良い火加減で。
「この包まれてるやつが何だか部屋を表してるようでござるな。タクノミ殿の部屋が増えた日にピッタリでござる」
昨日の抱き着かれたことが頭の中でいっぱいだったから包む料理を作っちゃっただなんて言えない。
「なんだか昨日の布団ってやつみたいでもあるにゃ。またアレで寝たいのにゃ」
そうだよ布団のイメージがあってだなんて言えない。ってまた寝たいって・・・一緒に?いやまさかね、まさか。
「布団で眠れるわよ。ワタシたちもこの空間に住むんだから」
え?なんですと?!!
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