11杯目 異世界の危険さを初めて感じた、良い香りも
うーん。良く寝たな。でもなんか違和感があるな。
そう思って横を向いたら、目の前にゴロンニャの顔があった。
「タクちゃんおはようだにゃ」
え?え?何でゴロンニャが同じ布団で寝ているの?
頭が真っ白で何もわからない。なんでだっけ。どうしてだっけ。いつ寝たんだっけ。
訳が分からずあたりを見回すと、リンコとグリンナが布団の横に立って見下ろしていた。
「おはようでござる」
「ずいぶんと快適な寝心地だったようね」
どうなってるんだこれ。なんで起きたらみんながいるの???
「タクちゃん。もう飲み始める時間だにゃ」
あっ。そうだった。
今日は早めに買い出しが終わったんだけど、ちょっと眠かったんだよね。
寝るときはこの部屋に布団を敷くようになってたから、軽い昼寝のつもりでもちゃんと寝る態勢を整えちゃった。習慣って凄い。
・・・・・・って、もう飲む時間?え?あれ?あっっっっ!!!
「にゃっ!いきなり飛び上がってどうしたのにゃ」
「みんなごめん。今すぐお酒を持ってくるからとりあえず座ってて」
まさか自分にもラブコメみたいな目覚めがやってくるとは思わなかったけど、そんなことを忘れちゃうほど慌ててるよ。だって何も用意してないんだもん!!!
とりあえずお酒を運んで・・・と。それと冷蔵庫に何が入ってたかな。
このあいだみんなが食べても大丈夫だった納豆。あとはまた作った味付け玉子も少し残ってた。あとはあとは、冷凍のフライドポテトを今日は揚げずにレンチンだけで。まずはこれを出して・・・と。
「タクちゃんも一緒に飲むのにゃー」
飲みたいけど、いま飲んじゃうとこのあと何にも食べるものが無いよ。
「食材をそのまま食べるのは良くあることでござる」
日本でも生で食べられるものはあるけど、それでもカットしたり盛りつけたりがあるし、どれをどうすれば良いのか頭が回らないよ。
「ゴロンニャと一緒に寝たのを恥ずかしがってるだけじゃないの」
あー。それもあった。めちゃめちゃ良い香りがして・・・・・・
そうじゃないそうじゃない。あー。何が何だか分からない。
ぴちーん!
急に自分の両ほほに軽い衝撃が走ったかと思ったら、ゴロンニャの顔が目の前に現れた。
あ、また顔が。近いよ。良い香りがするよ。
「とりあえず座ってビールを飲んで落ち着くくのにゃ」
そう言ったゴロンニャは、自分のほほを挟んだ両手をムニムニムニムニと動かした。
そこにリンコもやってきたかと思うと、自分の手に柔らかい感触が伝わってきた。
「そうでござる。さあさあ座るでござる」
リンコに引っ張られてちゃぶ台の前にやってきた。
剣を振るって戦ってるはずなのに、思ったよりもリンコの手のひらは柔らかくて少しひんやりしてるのが気持ち良かった。
「座りなさい。急に敵と遭遇したら慌てるのが一番の愚策よ」
グリンナにも説得されてとりあえず座った。
でもなあ。申し訳ないなあ。
そんな自分を見ていたグリンナは深いため息をつくと、自分の顔をまっすぐに見つめてきた。
「良い?一度しか言わないわよ。タクノミがこれまで美味しいものを出すために頑張ってきたのは伝わっているわ。簡単にやっているように見せているけれども、ワタシもパーティーをまとめているから細かいところで大変なことをしていることは想像がつくのよ。それに戦いと違って失敗しても死ぬことは無いんだから落ち着いて飲みなさい」
グリンナが眼鏡教師モードで褒めてくれるなんて初めてだ。
それに・・・・・・
「タクノミ殿。どうしたでござるか?泣いてるでござるか?」
「あー!グリちゃんがタクちゃんを泣かせたにゃ!」
「え?そんなキツイこと言ったかしら。申し訳ないことしたわね。気にしないでくれると助かるわ」
いやいやそんなんじゃなくて。心配かけちゃった。
グリンナの話を聞いて、ちょっと嫌なことを想像しちゃっただけで。
ちゃんと伝えなきゃ。
「グリンナが励ましてくれたことは伝わってるよ。ありがとう。でもちょっと嫌な想像をしちゃったんだ。こうやって楽しく飲んでいて気が付かなかった・・・いや気が付かないフリをしていたけど、みんなは危険な戦いをいつもしていて、ちょっとでも失敗したら怪我したり、下手したら死んじゃったりするかもしれないと思ったら・・・なんか・・・涙が・・・・・・」
うー。想像しただけでも悲しすぎる。凄く悲しいよ。うー。
と思っていたら、急に身体に衝撃が走って座布団まみれになっていた。
「タクちゃん優しいのにゃー!」
どうやらゴロンニャが座布団と一緒に転がりながら抱きついてきたみたい。
抱きついてきた。え?え?
ゴロンニャに続いてリンコも抱きついてきた。
え?え?ゴロンニャは人懐っこいからまだわかるけど、リンコはそんなキャラだったっけ?
「タクノミ殿の心意気に感動したでござる。拙者はいま心の底から喜びがあふれているでござる」
そんなゴロンニャとリンコは自分に抱き着きながらグリンナの方をじっと見ている。
「もう。今日だけよ」
そういうとグリンナまでも近づいてきて、そっと優しくくっついてきた。
良い香りと良い香りと良い香りが混ざって、柔らかいと柔らかいと柔らかいに包み込まれて、何が何だかわからない。
「ありがとにゃ」
「ありがとうでござる」
「感謝するわ」
夢のような時間は感謝とともに終わり、3人はそれぞれの席へ戻っていった。
自分も戻ったけどまだ夢心地。異世界と関わるとこんなことが本当に起きるんだね。
そんな気持ちも、みんなの話を聞くうちに少しずつ収まった。
なんでも彼女たちのパーティーは本当に強いんだって。
だから他の人から心配されるようなことは無かったみたい。
ずっと守る側の立場だったから、心配されるのが新鮮なんだそう。
でも女の子だし、いくら強くても何かあるかもしれないし心配だよね。
異世界に関わってる気がしてたけど、何も知らなかったんだな。
「安心しなさい。危険な目に合わないようにするのがワタシの仕事よ。それに最近はワタシたちの世界も落ち着いてきているし、これからも無理なことをしないよう準備するために今のソロ活動の期間を設けたのよ」
やっぱり心配は心配だけど、自分ができることはここで楽しくしてもらうことだけだもんね。
グリンナがふにゃふにゃ感謝モードじゃないのに、こんなに素直な気持ちを言ってくれたし。
「普段から素直よ!さっさと次の料理を持ってきなさい!」
そうだね。次の料理は何にしようかな。
頭もすっきりしたし、今なら落ち着いて何が出来るか考えられそう。
何を作ろうかなーと考えながら立ち上がると、サクラミのお膳がビカビカと光り出した。
『私には飲み物すらありませんよー。最近の私の扱いが少し酷い気がしますよー』
そうだったそうだった。
3人には慌てて出したけど、サクラミはすっかりと忘れてたよ。ごめんね。
その日はそれから落ち着いて簡単に出来る料理を作ったと思うけど、何を作ったかは忘れちゃった。
だって飲みが終わって寝ようとしたら、布団の中にゴロンニャの香りが残ってて、3人に抱きつかれたことを思い出しちゃったんだもん。仕方ないよね。
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