9杯目 ふにゃふにゃととろとろとなでなで
グリンナが来てからしばらく経ち、これまでと同じように呼び捨てにできるほど打ち解けた。
でも自分にはこんなに人と簡単に仲良くなれるような技術は持ち合わせていないよ。
ゴロンニャとリンコがグリンナとも親しげにしていたから、自然とそこに加わることができたんだ。
本当に仲の良いパーティーなんだと思う。
だってグリンナが来てから2日目のこと。
前の日に酔っぱらいすぎてふにゃふにゃになったことを反省してか、グリンナはすっかりおとなしくなっちゃってた。
自信満々にしゃべっていた姿はどこへやら。何を言われても「そうね」としか答えなかった。
食事には手が伸びるけど、お酒はほとんど口にしない。
それを見かねたゴロンニャとリンコがずっと声をかけていたんだ。
「ゴロンニャなんていつも恥ずかしいとこばかり見られてるのにゃ」
「拙者も普段はあまりしゃべらないでござるが、ここに来て楽しんでるときはこんなにしゃべってるでござるよ」
語りかける二人。聞くグリンナ。語りかける二人。聞くグリンナ。語りかける二人。聞くグリンナ。
そんな感じで1時間くらい経ったころ、とうとう二人が泣きながら頼み始めた。
「うにゃーん。グリちゃんと仲良く飲みたいのにゃー。グリちゃんが冷たいのにゃー」
「ぐすっ。そうでござるよ。ぐすっ。グリンナ殿も心を開いて・・・ぐすっぐすっ」
それを見たグリンナは立ち上がり、缶ビールを手に取って一気に飲み干した。
「わかったわ!私も自分自身をさらけ出して飲むことにするわ!」
その日は3人で輪になって、泣いているのか笑っているのかどんな感情だかわからない顔でうんうんとうなずきながら飲み続けていたよ。
次の日からは自分も会話に混ざりながら、グリンナのまともな酔っぱらい方をみんなで探り始めたんだ。
自分をさらけ出しつつ周りに迷惑をかけないように。
いろいろと模索した結果、今ではだいぶまともになったんだよね。
むやみやたらと人に襲い掛かったりキス魔になったりするのは何とかセーブすることができた。
残念だなんて思ってないよ。いやちょっと思ってたり。いやいや思ってないって。思ってないはず。
最終的には感謝しまくる酔っ払いが出来上がった。
襲い掛かったり抱きついたりせずに、頭をなでるだけでおさまるようになった。
「ゴロンニャちゃ~~ん。いつも明るくてありがとうね。リンコちゃ~~ん。いつもしっかりしててありがとうね」
人だけじゃなくて、お酒や食事にも感謝するようになった。
「美味しくてありがとうね。お酒が進んでありがとうね」
満面の笑みで酒の入った缶や食事がよそわれている皿をなでなでしながら感謝し続けるエルフ。
あれもこれも何にでも感謝しすぎて何を言ってるのかわからないことがちょくちょくあるけどね。
最初はどうなることかと思ったけど、お酒を飲んでも大丈夫な酔っぱらい方になったと思う。みんな良く頑張った。
そんな感じでグリンナは飲み会の前半が自信満々な眼鏡教師モード、後半がふにゃふにゃ感謝モードなのが定番になったんだ。
そして一緒に飲むにつれてグリンナのことがだんだんとわかってきた。
普段はクールでいろいろなことをシビアに決めていそうだけど、本当は仲間思いで大切にしていることを心に秘めてるんだなって。
そう思った中の1つの質問。何でソロ活動しているのにパーティーの拠点として宿屋をとってゴロンニャに任せたのか聞いてみたら、眼鏡教師モードだと
「いくらソロ活動の期間だとはいえ何かあったときの集合場所が無いのは不合理だわ。円滑な活動のためには少しでも障害を排除しておくのは当たり前のことよ」
なんて言ってたけどふにゃふにゃ感謝モードになったら
「みんなそれぞれ活動して拠点も無かったらバラバラになりそうでさ~み~し~い~の!宿屋ちゃん、拠点になってくれてありがとうね。ここのお部屋ちゃんもみんなと今までより仲良くさせてくれてありがとうね」
と言って床をずっとなでなでしてるし。
今夜のつまみはそんなグリンナみたいに最初はシャキッと最後はふにゃっとしてたんだ。
最初に食べたときは
「野菜のシャクッとお肉のジュワッが美味しいにゃー」
「このポン酢というのがまた美味しさを引き立たせているでござる」
「ポン酢だけだとツンとして角が立つわ。しかし野菜と肉から出るエキスとを混ぜることで絶妙なバランスの味付けになっているわ。野菜も肉もシンプルなのにとても美味しいわね」
と大好評。終盤になっても
「お野菜がとろっとろで美味しいにゃー」
「最初と同じ具材なのでござるか?こうも変わってしかもどちらも美味しいだなんてタクノミ殿は魔法使いでござるな」
「お野菜ちゃん甘くてありがとうね。お肉ちゃん最後でもさっぱりして食べやすくてありがとうね」
ってな感じで満足してもらえたみたい。
作ったのは白菜と豚肉の鍋。シンプルなのにポン酢との相性がばっちりで美味しいやつ。
作り方は簡単簡単。
たっぷりの白菜、豚肉、刻んだショウガ、和風の出汁スープ、日本酒を鍋に入れて、しっかりと蓋をしたら茹でるだけ。白菜は立てて入れると焦げ付かないよ。
ミルフィーユ鍋なんて名前で白菜と豚肉を交互に入れるなんてレシピがあるけど、白菜だけ立てといて豚肉は上に乗っけて蒸す感じでも大丈夫。豚のエキスを白菜に染み込ませるために上に乗っけるほうが良いよ。
ただ鍋とは言ってもスープはそんなに入れない。ほんの少しだね。
白菜から水分が出るから、そんなに水を入れなくてもそこそこの水分量になるんだ。
でもあまり雑に扱うとすぐに水分が飛んじゃうから、蓋をして火も弱めに。
鍋というよりも蒸した具を食べるような感じでね。
だから茹でるというイメージよりは蒸すというイメージで始めると良いと思う。
そのためには白菜はたっぷりと使わなきゃいけない。これがポイント。
うまくいけば、白菜からの甘みのある水分を味わえて美味しいんだ。
火が通って食べられるようになったら少し取り分けてある程度は残してからまた新しい白菜を追加するんだ。
そして再び蓋をして投入した白菜に火が通ったら、それを取り出してまた新しく入れる。
こうすることで、とろとろの白菜を育てつつ、シャクシャクの白菜も食べられるんだよね。
育ててる白菜も中盤で少しずつつまめば、徐々にとろとろになっていく変化を味わえるよ。
とろとろが好きな人もシャキシャキが好きな人もどっちも楽しめるから良いよね。
水分が無くならないようにするのと焦げ付かないようにするのに気を付けるのが大事。
そんな白菜を味わってもうすぐ飲み終わりというところで、サクラミのお膳がビカビカと光り出した。
『やっと仕事が終わったですよー。とろとろの白菜を食べたいですよー』
そういえば今日は一番最初にビールとつまみを置いてから何の反応も無かったっけ。
サクラミの分をアパートまで取りに行き飲み部屋へ戻ってくると、グリンナがサクラミのお膳をずっとなでなでしていた。
そこに置こうとしたら、グリンナが白菜と豚肉が入った皿を見つめて手を出した。
置いてくれるのかな?と思って手渡したら
「美味しくトロトロになってありがとうね。サクラミちゃんの疲れを癒すために食べられてくれてありがとうね」
とグリンナが皿をなでなでしはじめた。
その誉め言葉となでなではずっと続いた。
『なでなではもう良いですー。とろとろを早くくださいー』
うーん。最初に比べればこれくらいの迷惑は可愛いもんでしょ。
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