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8杯目 このエルフは辛くて酸っぱくてそして甘い

エルフ。

物語の中で美しい象徴として描かれているよね。

本当に出会ってみるとびっくり。物語の中よりも何倍も美しかったよ。


ゴロンニャはかわいいし、リンコは美人。

だから比べるならリンコとだけど・・・いや比べるなんて本当に失礼なんだけどさ。

リンコは和風美人なんだ。白い肌につやつやとした黒い髪。


でも、今日やってきたグリンナさんという名前のエルフは洋風の美しさがあるんだよね。

作り物かと思うくらいの美しさ。美術館に飾ってある像が動いてるみたいな。

しかもね、髪の毛が緑色なんだよね。それでもまったく違和感がないの。

現実の世界で緑色の髪を再現しようとすると何だか作り物っぽい違和感がありそうなのに、目の前にいるグリンナはとても自然な髪の毛に思えるし、それがまた美しさに磨きをかけているんだ。


今までも十分に日常生活とかけ離れてたけれど、エルフっていう存在を目の前にしたら、ますます異世界っぽさが心に響いてくるよね。耳もちゃんととんがってるし。


なーんて浮かれていると、ゴロンニャとリンコが近づいてきて驚くことを言ってきた。

というか近い近い。めちゃめちゃ近いことにびっくりしてるんだけど、言われたこともびっくりだったんだ。


「ここに来る回数が減っちゃうかもしれないのにゃ」

「なんとかしていつでも来られるように説得して欲しいでござる」


近いから。近いから。嫌じゃないけどさ。むしろ・・・。

じゃなくて。えーと、ちょっと整理しよう。自分でもちゃんと冷静に考えをまとめないと。


今日やってきたエルフのグリンナさん。

とんでもなく頭が良いらしくて、ゴロンニャとリンコがいるパーティーのことをほとんど任せてる仲間なんだって。

活動内容だけじゃなくて、冒険に行くときもグリンナさんの指揮で戦ってるみたい。参謀役なんだね。


飲み始めること30分。グリンナさんはサクラミと話がしたいということで、部屋のはじっこのほうでぼそぼそと会話を続けているんだよね。

サクラミは相変わらず姿を現さないで声だけでやりとりしてるから、一人で壁に向かってぼそぼそとしゃべる怪しいエルフになってるけど。


「ここでいつも飲んでることを手紙で伝えたら、一度見てみたいからって来ることになったにゃ」

「ゴロンニャ殿がパーティーのお金でここの支払いをしていることをしたからではござらんか」


ん?どういうこと?


「パーティーの活動のためなら使っても良いと言われてるにゃ」

「好き勝手に使って良いとは言ってないわ」


うわっ。びっくりした。

いつの間にかグリンナさんがちゃぶ台の前に座っていた。

ゴロンニャとリンコの二人もそそくさと自分の席に戻る。


「この街にいるとそんなに稼げないのにゃ」

「あなたにはそれを期待しているわけではないわ」


それからグリンナさんはパーティーの活動について説明し始めた。

彼女たちのパーティーはお金を稼いでもメンバーにはお小遣い程度しか渡さずにほとんどパーティー資金にしていること。

そのかわりパーティーで活動するときはその資金からすべての費用を出していること。


・・・・・・だけじゃなくいろいろなことを教えてもらったけど、さすがに省略。

説明をはじめたら止まらなくなっちゃって。眼鏡なんてかけてないのに、眼鏡をかけた学校の先生の姿が見えた気がしたよ。


「グリちゃんは、しっかりしすぎてケチなところがあるのにゃ」

「1時間くらい値引き交渉して、相手を根負けさせて安くすることが良くあるのでござる」

「別に何でも安くするわけじゃないわ。適正な価格よりも高いのが許せないだけよ。値段よりも価値があるにこしたことはないけれどね」


しっかりした人なんだなあ。

ちょっとやりすぎなところもありそうだけど。


「それで、この部屋でのことなんだけど・・・・・・」

「待つのにゃー!ゴロンニャは毎日ここに来たいのにゃー!グリちゃんは厳しいのにゃ!」

「拙者もゴロンニャ殿と同じ意見でござる。グリンナ殿はトゲトゲばかりで少しは丸くなったほうが良いでござる」


ん?なんかヤバい雰囲気?


「あ、つまみがもうないでござる」

「本当だにゃ。タクちゃんつまみが欲しいにゃ」


誤魔化したね。

まあつまみがないのも寂しいし、今日のメインを持ってきますか。


「凄いのにゃ!酸っぱくて辛くてあったかくて美味しいのにゃ!!!」

「酸っぱいと辛いの組合せも有りでござる!初めての衝撃に身体が震えるでござる!!!」

『豆腐のまろやかさ、タケノコのシャキシャキさ、玉子のふんわりさ、それぞれが絶妙にお互いを高め合ってます。それに酸味、辛味、甘味もそれぞれが強いはずなのにしっかりとバランスが取れています。いろいろと個性的なメンバーが集まっているのに1つにまとまって凄い美味しさを発揮しています』


今回の料理は酸辣湯。最近は中華麺が入った酸辣湯麵がメジャーになってきたよね。

そんな難しい味付けが・・・できるわけない。なので今回は市販のラーメンスープを使いました。食品会社様ありがとうございます。

麺がついてないスープだけのが売ってたので鍋にしようかなと思ってね。

小分けにしてみんなに出すから今回は締めを作らないけど、鍋の締めに中華麺を使うなら麺もついている酸辣湯麵を買うのも良いかもね。


豆腐、タケノコ、シイタケ、豚肉を日本酒を少し入れた酸辣湯スープで火が通るまで茹でるだけ。自分が買った市販のスープは砂糖が入って少し甘さがあるんだけど、日本酒を入れてちょっと甘みをプラスしたんだ。

ぐつぐつ煮ちゃうと酸味が飛んじゃうから弱火でじっくり。

最後に溶き玉子を入れるんだけど、これはちょっと工夫をしたよ。

鍋のスープをくるくると回して洗濯機のように回転する水流を作るの。それで、その水流とは逆の方向に向けて溶き玉子を流し入れたんだ。

そしたらふわふわの玉子になったよ。


「こんな個性的な味がいくつもあるのに1つにまとまるなんて私たちのパーティーみたいな料理ね。素敵な味。ゴロンニャとリンコがいろいろと言うワケね」

「そうなのにゃ。だから毎日来るのを許してほしいのにゃ」

「そうでござる。ここに来るために稼ぎを増やすように考えるでござる」


グリンナさんにしがみついてお願いするゴロンニャとリンコ。

そんな必死な二人にかけたグリンナさんの言葉は意外なものだった。


「初めから毎日ここに来てもらうつもりだったわよ」


ゴロンニャとリンコの頭に大きなハテナが浮かんでいる。


「ここに毎日来ることが無駄だとは思ってないわよ。それにお金もパーティー資金から払って良いわよ」


「ケチなのにおかしいにゃ」

「ケチなのにおかしいでござる」


「あなたたちワタシのことをどう思っているのよ!価値のあることにはしっかりとお金を払うわ」


それって毎日だらだらとやっている飲み会にそんな価値があるってこと?


「当たり前よ。サクラミテリオス様とお話できるなんてどれだけの価値があると思っているの?」


そっか。そっちだよね。

というかお酒と料理の催促ばっかりで忘れてたけど、サクラミって凄い神様だったんだね。


「パーティー資金から一括でお金を払いたいくらいよ」

『それはできないんですー。パーティー資金からみなさんにお金を渡して、毎日それぞれ個人でお金を入れてもらう必要がありますー。将来的には改善したいんですけどねー』


それからグリンナさんは眼鏡教師モードになって、この部屋がどれだけの価値があるのかを説明し始めた。

それを聞くたびにゴロンニャとリンコはそうだそうだと持ち上げた。


「さすがグリちゃんは良く分かってるのにゃ」

「グリンナ殿はお目が高いでござる。拙者は前々からグリンナ殿の観察眼が素晴らしいと思っていたでござる」


なんて最初のころとは全く逆のことを言ってるよ。調子が良いね。

でも、今日一番びっくりしたことはこの後に起きたんだ。


眼鏡教師モードでピシッとしてたグリンナさんが、急にふにゃふにゃになったかと思うとゴロンニャの頭をなで始めた。


「ゴロンニャちゃんは可愛いわね。こんな素敵な場所を見つけてくれてありがとうね」


ゴロンニャはなでられながら大きく目を見開いている。リンコはそれをこの世の物とは思えないというような顔で見ている。するとそれに気が付いたグリンナさんが今度はターゲットをリンコに定めた。


「リンコちゃんは美しいわね。いっぱいいっぱいチューしてあげるわ」


ふにゃふにゃしながらも力は強いらしく、リンコはなすがままになっている。

そして満足したかのようにリンコから離れると、今度は自分の方を見てきた。


「タクノミちゃんは・・・・・・とってもとっても興味があるわ」


と言って少しずつ近づいてくる。

え?何をされるの?まさかリンコにしてたこととか?もしくはそれ以上・・・・・・


なんて考えたのも一瞬。

グリンナさんの動きがパタリと止まったかと思うと、そのまま寝てしまった。


「グリちゃんがこんな感じになるのを初めて見たにゃ・・・・・・」

「普段はきつかったり理論的なのに酔っ払いすぎるとこんなことになるなんて、いろんな味が混ざった今日の料理みたいでござる・・・・・・」


エルフってやっぱり気位が高いんだなと思ってたのに、飲んだらまさかのデレデレとはね。びっくり。

そして眠ってしまってちょっと残念。いや残念に思っちゃダメだね。うんでもちょっと残念な気持ちはあってもしょうがないよね。



評価、ブックマーク、感想、レビューなんでもすべて嬉しいです。

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読んでいただけるだけでうれしょんするほど喜びますが、反応していただけるのは最大のご褒美です。

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