70杯目 タクノミとマスター
「わっはっはっはっはっはっは。トリセツのダンジョンは聞いたこともないな。全く知らないぞ」
ガメちゃんのダンジョンの制御室を発見したと聞いて、ティーナがさっそくやってきた。
それで乾きの杯のみんなとダンジョンに潜ったらあっさりと最奥まで到達してね。そこで自分が呼ばれて制御室を見せたんだ。
じっくりと観察したらそこで自分はお役御免。その後は少しずつ最下層からダンジョンを調べてるみたい。
それで夜になったから自分の家で飲むことになったんだ。
ガメちゃんのダンジョンについて詳しくわかるかなと思ったけど、ティーナもトリセツのことを知らないみたいだね。
「だからこそじっくりと調査するんだぞ。ガメちゃんのダンジョンはどこも安定しているから急いで何かを変えたいわけでもないしな」
ガメちゃんのダンジョンは1000年以上前からあるって話だもんね。これまでに問題が無かったのなら特になにかしなきゃって話にはならないか。
と思ってたら、急にティーナが真剣な顔をして姿勢を正したんだよね。
「ギルドの代表として、いやこの世界の代表として、タクノミの決断に感謝する」
そう言って深々と頭を下げたよ。なになになに。どうしたのさ。やめてよそういうの。
「いや。言わせてくれ。ダンジョンを攻略して制御室まで発見したのにマスターにならずにそのままにしてくれたことは感謝してもしきれない。本当に感謝する」
いやいやいや。自分には無理だもん。
マスターになったら今のダンジョンの状態を保つのは難しそうだったしさ。
「それでも普通は攻略したらマスターになるもんだ。これまでのダンジョンのこととか先のことは考えずにな」
そんなもんなのかな。自分はずっとあそこにいるわけにもいかないしね。そう考えるとガメちゃんがいろいろなダンジョンを制御するためのダンジョンを作ろうとしたのが良くわかるね。
「改めて感謝する。まあこの話の続きはメインの料理を持ってきてからにしてもらおうか。アタシにしてみたら、いつも出しているというこのいろいろな料理を少しずつつまむのも良いんだがな。他のやつが待っているだろ」
そういわれて乾きの杯のメンバーのほうをみたら、みんな真っ直ぐな瞳でこっちを見つめながらうんうんとうなずいていたよ。そっかそっか。じゃあメインの料理を持ってくるとしましょう。
今日はティーナが来たから、ガッツリ食べてもらうために牛丼を買ってきたんだよね。有名チェーン店のやつ。
ティーナには1人前。他のみんなには半人前くらいずつ取り分けて出してみたよ。
「なんかこうガッとかっこみたくなる料理だな」
「力が湧いてくる気がするのにゃ」
「魂が震える味でござる」
「肉が少なく感じるのに食べてみるとちょうど良いわね」
「悪魔的には労働者の怨念を感じる食べ物だよね」
「ワタクシはとても素晴らしい料理だと思いますわ。1つ1つはそれれほどでもないジャンクな味付けに感じますけど、合わせて食べたときの一体感はたまらないですわ。このジャンクさだからこそ食べたときの幸福感が高まるのですわ」
そうでしょうそうでしょう。牛丼ってなんか独特の美味しさがあるよね。
とはいえ、これだけだと単なる食事っぽくなっちゃうよね。ほら、ティーナがほとんど食べ終わりそうな勢いだし。
てなわけで、今度は牛丼を使って少しアレンジ料理を作るよ。
ティーナに比べたら少ないけど、乾きの杯のメンバーも普通に比べたら凄く大食いだからね。買ってきた牛丼はまだあるんだよ。
ということでその牛丼のご飯を油を敷いたフライパンに入れるよ。具の出番はまだなのでご飯だけをフライパンに。
そこへ紅ショウガ、お新香、生卵を入れるよ。どれも牛丼屋にあるものだよね。今回はスーパーで買ってきたお新香と生卵を入れるけどね。
それをしっかり炒めます。そうこの具材で炒飯を作るの。良く混ぜて良く炒めるよ。
炒飯らしくなったら、そこへ残していた牛丼の具を投入。よく混ぜ合わせたら炒飯の完成だよ。
その炒飯は半分だけお皿に乗せて、半分はフライパンに残しておきました。
ここからまた別のアレンジをしようと思ってね。
フライパンに残したチャーハンにごま油とおろしにんにくを入れたら、火をかけたままこれでもかとばかりにスプーンを使ってこれでもかとばかりに混ぜ合わせるよ。牛丼の具もどんどんちぎる感じで。
充分に混ざったら、スプーンの裏で炒飯を押し付けながら薄く広げていくんだ。それで良い感じにおこげができたら完成。石焼ビビンバの出来上がり。
ということで牛丼を使ってチャーハンと石焼ビビンバを作ってみたんだ。
コツはつゆだくの牛丼を注文することかな。石焼ビビンバだけ作るなら最初にごま油で炒めちゃえば良いし、豆板醬を入れても美味しくなるだろうね。
「おおっ。これはさっきの牛丼に比べたらつまみとしても食べられるな」
なんてティーナは言ってるけど一口がつまみの量じゃないと思うよ。
ゴロンニャは座布団と一緒にゴロゴロ、リンコはジタバタダンスと相変わらずの二人なんだけど、ときどき力持ちのポーズみたいなのを挟んでるね。力がみなぎってきたのかな。
「驚いたわね。さっきと同じような味なのに別の物を食べてる気がするわ」
「悪魔的には労働者の怨念がおだやかになった気がするよね」
「素晴らしすぎますわ。さきほどのが最高の一体感だと思っていましたわ。けれども別の形の一体感を示すだなんて、タクノミ様はダンジョンだけでなく料理マスターですわ」
みんな気に入ってるようで何より。
もう完成されてるものをアレンジしてイマイチって思われたらもったいないもんね。
まあいつもは牛丼を普通に食べるほうが楽だし良いよね。今日はつまみとしても出そうとしたからアレンジしたけど、いつもは冷めた牛丼を温めるときにせっかくならって感じかな。
そういえばティーナとダンジョンのマスターがどうこうって話をしてたっけ。
「そうだぞ。普通はマスターになるものだ。マスターになるのは名誉なことだからな」
おおっ。急に近づいて話しかけてきたからびっくりしたよ。
でもねえ。マスターになって冒険者に攻略されて殺されちゃったりしないのかな。
「・・・・・・あるっちゃあるな。でもまあよっぽど戦闘狂だったり殺しを楽しんでるようなやつじゃなければ、戦わずにマスターの権利を渡すだけにしておけば、そのまま見逃されるはずだぞ」
いやいや。そういう恐怖をちょっとでも味わいたくないってば。
「それにしても本当に感謝している。ガメちゃんのダンジョンってのはな、アタシたちの世界には無くてはならない存在なんだ」
それほどなんだね。
「ガメちゃんのダンジョンは安全が保障されているんだ。それがとんでもなく素晴らしいことなんだよ。ガメちゃんのダンジョンは数多くあるが、これまでにダンジョンで死んだやつは一人もいない」
そんなに安全なんだ。ここのダンジョンはモンスターとか出てきて危なそうなのにね。
「それにモンスターを倒すとアイテムがドロップするとか冒険者にとって凄く便利なんだよ。ガメちゃんのダンジョンはいろんな種類があるんだが、どれも便利で快適な仕組みになっている。それに攻略することで冒険者に利益が出るんだよな。我々の世界の冒険者とはもう切っても切れない関係になっているんだよ」
それくらい馴染み深いダンジョンなんだね。へー。
「説明を聞いてもどれくらいマスターにならなかったのが凄いことかわかってないみたいだな」
いやいや。そんなことないって。
この世界に凄く貢献しているダンジョンで冒険者には必要なんでしょ。
だからこそ、自分がマスターになって今までの仕組みを維持できなかったら大変なことになっちゃうじゃん。
「・・・・・・まあそう取るのがタクノミか。なるほどな。お前はそういうやつだったな」
そうなの?他の人はそんな面倒なことやりたがるのかな。
「まあそれはもう良い。タクノミはタクノミだってことで安心したよ。それでこれからのことなんだがな。できることならトリセツのダンジョンってやつを見つけたいんだが何の手掛かりもないんだよな」
そうなんだね。ギルドの内部まで知ってるティーナが言うんだから、そう簡単にわかることは無いってことだろうね。
「ダンジョンをまとめて管理しているダンジョンってやつか?それもさっぱり見当もつかないんだよな。今の段階ではお手上げだよ」
うーん。じゃあもう何もすることが無いのかな。
「ぶっちゃけそうなんだがな。でも放っておくというわけにもいかないんだよ」
そうなの?これまで通りで良いと思うんだけど。
「まあな・・・・・・でもな、今回の制御室が見つかった件が冒険者に漏れ始めているんだ。そしたら冒険者たちが自分も見つけるって気合が入るのは簡単に想像がつくだろ」
そっか。それでマスターになってしまったら、これまで通りの制御ができなくてダンジョンがめちゃめちゃになるかもしれないよね。
「まあその心配もあるっちゃあるんだが、別なほうが心配なんだよな。ガメちゃんのダンジョンがいくら安全だからって、思いっきり無茶するやつが出てくるんじゃないかってな。いくら安全だからとはいえ、あまりにも無茶したときの命の保障はないからな。そうなる前にある程度のことが分かれば対策も取りやすいんだよ」
さすがギルドさんだね。みんなの安全まで目を向けて。
なんだか厄介なことになっちゃったみたいで申し訳ないね。
「それはないぞ」
ティーナが思いっきり顔を近づけて言ってきた。
うわっ近い近い。めちゃ迫力があるよ。
「本当にそれはないからな。正しく前に進んだ人間の結果を否定することは絶対に許されない。タクノミは正しく前に進んで、アタシたちにとって実にありがたい決断を下してくれた。そういうことなんだよ」
そ・・・そっか。
今日はいつになくティーナが真面目に話してるなあと思ったけど、こんなに近づかれちゃうとそれは・・・・・・
「あー!タクちゃんとティーナが仲良くしてるにゃ!ゴロンニャも混ぜるのにゃ!!!」
って声が聞こえたかと思ったら、凄い勢いでゴロンニャが抱きついてきたよ。柔らかくて気持ち良い・・・・・・じゃなくて、いきなり抱き着くとかびっくりするからさ。と思ったら
「タクノミ殿とゴロンニャ殿が仲良くしてるでござるな」
って聞こえてきて今度はリンコが。それから
「タクノミとリンコが・・・・・・」
「タクタクとグリグリが・・・・・・」
「タクノミ様とテトテトが・・・・・・」
ってな感じでグリンナとテトテトとズィ姫が順番に抱き着いて・・・・・・というか突っ込んできてもみくちゃになったよ。
やっぱりさあ。ダンジョンのマスターなんかより、こうやって気の合うみんなと仲良く飲めてるほうを絶対に選ぶよね。ここの家のマスターのほうがよっぽど良いもん。他の選択肢なんて考えられないよ。
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