69杯目 ガメちゃんのダンジョン
あれ?先に進めない最後の仕掛けが簡単に開いちゃったぞ。
というか異世界の人に本能寺の変なんてわかるわけないよね。でもそのわかるわけない質問を用意したってことは・・・・・・
「戦闘態勢!第一にタクノミの安全を確保よ」
グリンナが真剣な声でそう呼びかけるや否や乾きの杯のメンバーは素早く態勢を整えた。
グリンナが自分を抱えたと思ったら地面に降ろされていたんだ。本当に一瞬の出来事で何が起きたのかすぐにはわからなかったよ。
ああ。なるほど。開いた壁から距離を取ったんだね。そしていつの間にか自分のすぐ目の前にグリンナ、右にはテトテト、左にはズィ姫、後方にリンコというフォーメーションがとられていたんだ。
そしてゴロンニャだけが壁の開いた部分にかなり身構えた態勢でいるよ。これでもかというくらいあたりを警戒しているみたい。何が起きたんだろう。
「これまでに開いたことのない先だから安全を確保しているのよ。ダンジョンのボスが配置されている可能性もあるわ」
なるほど。グリンナに言われて気が付いたよ。
やっぱりみんなは凄い冒険者なだけあって、瞬時にそういう判断をして警戒するんだね。
しばらくしてからゴロンニャが開いた壁の先へ一歩、また一歩と少しずつ進んでいく。
見ているこっちも緊張してくるね。
「たぶん大丈夫なのにゃ。おそらく制御室なのにゃ」
それを聞いたグリンナだけがゴロンニャの方へ近づく。
二人で周囲を警戒した後
「入ってきて良いわよ」
というグリンナの声に促されて自分と残りの3人も制御室と呼ばれるところへ入ったんだけどね。
奥に奇妙な文字が流れ続けているスクリーンが目立って設置されていたんだ。その前に机が置かれている以外は他に何もない凄くシンプルな部屋。なんだろうここは。
「制御室よ。これは制御スクリーンね。ダンジョンを制御するためのものよ」
えっ?これでダンジョンが制御されているの?
「間違いないわ。マスター型のダンジョンでは必ずこのような制御室があるのよ。ただここの制御室はシンプルすぎるわね」
グリンナが不思議がるほどにここの部屋はがらんとしているよ。生活臭がまったくない。というか生活臭どころか人が全く使ってなさそうな感じ。普通はこんなじゃないのかな。
「珍しいわよ。こんなに制御室ががらんとしているのはモンスターがマスターをしているときね。その場合、制御室の前にマスターがボスとして存在しているのが普通ね。人がマスターをする場合だと、ボスが居る場合も居ない場合もあるわね。でも制御室はもっと人が出入りしているような形跡があるものなのよ」
そうなんだ。そもそもガメちゃんって人がマスターしているはずなのに、そのガメちゃんが見当たらないようだけど。
「そりゃガメちゃんは居るわけないじゃない」
そうなの?各地にダンジョンがあるってことは留守にしていることもあるってことかな。
「そういうことじゃないのよ。ガメちゃんのダンジョンはもう1000年以上前からあるのよ。長寿の種族だったら生きてることもあるかもしれないけど、もうずっと会った人はいないのよ」
そっか。普通の人間だったらとっくに亡くなってるだろうね。うーん。
そんなことを話しているうちに、みんなの足は自然と制御スクリーンの前に。
「何が書いてあるのかわからないのにゃ」
「ちんぷんかんぷんでござる」
みんなも読めなさそうだね。
「タクノミはわからないの?壁を開く問題はあっさりと解けたじゃない」
「うーん。あいにく自分もわからないな」
「悪魔的にもさっぱりだよね」
「タクノミ様でもわからないことがあるのですわね」
いやいやズィ姫は随分と自分を買いかぶりすぎてるのかな。わからないことだらけだよ。
「でも所有者を書き換えたら、このダンジョンのマスターはタクちゃんになるのにゃ」
え?ダンジョンのマスターに?
いやいや。何にもわからない自分がそんな。みんながここまで来たんでしょ。
「タクノミはこれまでずっと謎だったダンジョンの最奥で制御室を見つけたのよ。一番の権利はタクノミにあるわ」
いやいやそんな。でもグリンナはこういうときに冗談をいうこともないからね。
たぶんみんな本気で自分がマスターになれば良いと思ってるんだろうな。
そんなことありえないでしょと思いながらスクリーンに近づくと、急に画面が切り替わったんだ。
そしてそこには
『あなたがこのスクリーンを見ているということは、私はもうこの世界にはいないのでしょう』
って言葉が。え?え?何?
「タクちゃんは・・・意味がわかるのかにゃ?」
意味ってあれだよね。良くある死んだ人の手紙の書きだしのテンプレートみたいな。
「凄いのにゃ。ゴロンニャは全く字が読めないのにゃ」
あっ。これって日本語だから。ゴロンニャ以外のみんなも何が書いてあるかわからないって。
そういえば本能寺の変の問題も日本語で書かれていたような。
間違いないね。ガメちゃんは日本から来た人だろうね。
そしてスクリーンが切り替わると急にフランクなことが。
『これ1回は使ってみたかったんだよね。ほんとに使える日が来るなんてねー。ここに来たってことはあなたは日本人だよね?』
ああやっぱり。このダンジョンのマスターのガメちゃんは日本人なんだろうね。
それからいろいろと説明が流れたんだけどね、とりあえずこのダンジョンは今のままにしておいた方が良いみたい。
☆★☆★☆
ガメちゃんは異世界の各地にいろいろなダンジョンを作っている。
それぞれのダンジョンを各地で制御するのは大変だから、すべてのダンジョンをまとめている制御用のダンジョンがある。
このダンジョンもその制御用ダンジョンから命令を受けて動いているので、ここでダンジョンマスターになったとしても今の状態を維持していくのはとてもじゃないけど無理。
もちろんダンジョンの権利はクリアした人にある。けれどもなるべくならそのままにしておいてほしい。
いろんなダンジョンで同じ説明を用意するのが面倒だから、いろいろと知りたければ「トリセツ」のダンジョンを用意してあるからそこへ行くように。
☆★☆★☆
ってことみたいでさ。
みんなにトリセツのダンジョンのことを聞いてみたけど、5人とも知らないって。
とりあえず今回はこのままにして戻ることにしよっか。トリセツのダンジョンかすべてのダンジョンをまとめている制御用のダンジョンか、どっちかに行かないと個別のダンジョンで何かするのはやめといたほうが良さそうだし。
ということで、このダンジョンの探索はこれでおしまいになったよ。
これからどうするかはすぐには決められないし、ギルドさんにも連絡しなきゃいけない案件でしょこれは。
それでね。この後に乾きの杯のメンバーにお願いして、ダンジョンの入口を見せてもらったんだ。
ガメちゃんのダンジョンは入口に書いてあるから分かりやすいって言うからどんな感じか気になって。
いきなり最下層の20階に呼ばれたから入口を見てないもんね。それと制御室からなら1階まですぐに戻れる仕組みがあるはずだっていうからさ。
そしたらね、異世界の言葉で書いてあることについては全く理解できなかったんだけど、見慣れた言葉ではこう書いてあったんだ。
【Game Champ】
・・・・・・これって本人が思ってる通りに伝わらなかったんだろうねえ。
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