55杯目 夢の国を楽しんだあとに
「とっても楽しかったのにゃー」
夢の国のようなダンジョンから帰ってきて飲み始めたゴロンニャはそう言ってるんだけどさ。
これでもう3日目だよね。
自分は午前中にダンジョンでアトラクションのようなクエストをみんなで堪能して、午後は日本で買い物したり身の回りの家事をしたり。みんなは午後もダンジョンで楽しんでたみたい。
さすがに3日も行くと、ピンク色の壁にフリルがついてるのも当たり前に思えてきたよ。
ただただ遊んでるように思えるけど良いのかな。
「大丈夫よ。タクノミにも言ったわよね。これも1つの仕事よ」
そう。グリンナの言う通り3日もダンジョンで遊んだのは仕事の一環らしいんだけど。本当に良いのかな。楽しんだだけなのに。
「それが仕事だって説明したわよね」
そう。それが仕事らしいんだ。ティーナから頼まれたらしくてね。
別の世界から来た自分がダンジョンで感じたことを教えて欲しいんだって。
それは理解してるんだけど、こんな飲みながら雑談してるだけが報告って良いのかな。
「良いのよ。この方がタクノミの本音が伝わるでしょ。あとでまとめて報告するわよ」
そんな感じで、みんなと飲みながらダンジョンについて話してたんだ。
「あのハテナのブロックを叩くのが面白かったのにゃ」
「拙者が叩いたらコインが出てきたでござる」
「ワタシが叩いたらキノコが出てきたわね」
「テトはぴかぴか光る星みたいなのがが出てきたよ」
「ワタクシは色のよろしくないキノコが出てきましたわ。食べたら調子が悪くなりましたわ」
どっかのスーパーな配管工の話みたいだね。
まだまだ話は盛り上がりそうだけど、今のうちにつまみを持ってこようかな。今日のつまみはペペロン。
まずフライパンでベーコンを焼くよ。そうすると脂が出てくるでしょ。
そしたらニンニクを入れて油で火を通していくんだ。これでペペロン。
ベーコンとニンニクだけで、パスタのペペロンチーノみたいな感じになるでしょ。
って思ってたんだけどさ。知らなかったんだけど、よくよく調べてみたらペペロンチーノって唐辛子って意味らしいんだよね。
ベーコンとニンニクじゃ全くペペロンじゃない!!!
かといってわざわざ唐辛子を買って輪切りって大変そうじゃない?どこで売ってるか分からないし。
というわけで自分は七味を振りかけちゃう。ベーコンとニンニクを炒めたものに七味を振りかけてペペロン。これならペペロンって言っても良いよね。
ただこれは基本のペペロンなんだよね。これだけでも十分だけど、この味に他の具材を入れても美味しくなるんだよね。そりゃこれにパスタを入れたら美味しいんだから当たり前だよね。普通はパスタに七味なんてやる人はいないと思うけど。
それで今回は基本のペペロンにイカゲソを入れたよ。
普通にイカを入れても良いんだけどね。イカゲソとエンペラの部分だけを安く売ってたからさ。食べやすいサイズに切ってペペロンと一緒に炒めて火が通ったら完成。
ベーコンから塩気が出るから調味料を足さなくて大丈夫だよ。食べてみて薄いと思ってから足したほうが良いんだ。自分も初めて作ったときに他の料理と同じように塩を振ったらしょっぱすぎちゃって。
ついでにもう1品。ペペロンにざく切りしたキャベツを入れるんだ。
キャベツは火を通すとしんなりするけどそれなりにかさがあるから、醤油をちょっと入れて香ばしくするよ。キャベツの場合は七味じゃなくて黒コショウのほうが好きな人もいるかも。
とりあえず今回はペペロンの名前を死守するために七味で。
てなわけで完成。ちょっと味が物足りなかったら塩と醤油と七味を持ってきたから自分で足してね。
「ベーコンの肉じゅわーとニンニクの相性がばつぐんだにゃー」
「このイカゲソが素晴らしいでござる。歯ごたえといい味といいお酒に合うでござるよ」
「ワタシはこのキャベツが良いわね。いろいろと美味しいけどキャベツの優しさが嬉しいわ」
「テトはこの七味っていうのが良いと思うよね。悪魔的にただ辛いだけじゃなくて美味しさのある辛さだよね」
「ワタクシはこの2つのバランスが嬉しいですわ。それぞれ似た味ですけど特徴があって、1つだけ食べるよりもお互いが存在することで満足度を高めてると思いますわ」
簡単だけど喜んでもらえて良かった。
このメニューは他の具材でも合うものがあるから、今度また出してみようかな。
そうそう。ダンジョンの話。この街のダンジョンは本当に不思議だよね。
なんでも冒険者ギルドがわざわざこんな感じにして管理しているとか。
「冒険者として活動しない人でもダンジョンに接して欲しいという理由でだいぶ昔に作ったみたいなのよ。今では楽しめる観光地として人気になったわ」
グリンナの言う通り、たしかに自分も楽しめたもんね。ただダンジョンってこんなんで良いのって思ったのもあるけど。
「この世界では冒険者になるのは身分証のためって人が多いのよ。だからこういう形でもダンジョンで楽しんでもらいたかったみたいよ」
なるほどね。
それにテトテトが説明をプラスしてくれたよ。
「でも今では単純に楽しむだけのダンジョンだよね。いろいろな場所でダンジョンが人々の生活に結びついているからね。わざわざギルドが丁寧にやらなくてもみんなはダンジョンと共に生きているよね。とはいえ悪魔的にはこういうダンジョンもあるからこそみんながダンジョンを身近に感じられると思うんだよね」
グリンナだけじゃなくてテトテトも賢いよね。
楽しそうに悪魔をしてるだけじゃないし、いろいろなことを良くしようと頑張ってると思うよ。
「別に頑張ってなんかいないよね。悪魔として最低限の教養なだけだよね」
とは言ってるけどいろんなことを知ってるし、魔王の娘としていろいろと努力をしてるんだろうなあ。本当に悪魔と言いつつ良い子だよね。
「それでタクノミは何が一番良かったの?」
そうやってグリンナに言われたけど、何が一番って言われるとねえ。
どれも楽しかったし、どれが一番ってわけじゃなくてどれも一番というか。
うーん。ああ、そういえば。
「みんながとっても可愛らしかったよね。いやもちろん普段から可愛いんだけど。グッズを身に着けていつもと違う恰好をしてたからまた別の可愛さが発見できたっていうか」
あれ?なんだかみんなの反応が無いな。下を向いてるし。伝わらなかったかな?
褒めるのは苦手だし普段は言えないけどさ。
お酒も入ってるし、ダンジョンも楽しかったし、言うのが仕事なんでしょ。じゃあもうちょっと思ったことを言ってみよう。
「ゴロンニャとテトテトはいつもの明るさがさらに増した感じだったよね。改めていつも楽しくさせてくれてるなって思えたよ。今までずっと暗い感じだった自分が楽しく生活できてるのも二人のおかげだと思うよ」
本当にそう。もしこの家が無ければ今でも一人で晩酌を楽しんでたんだろうな。
「リンコとグリンナは普段はクールなんだけどテンションが上がって別の可愛らしさを見せてくれたよね。お酒を飲んでるときのテンションの上がり方とはまた違ってさ。じゃあ普段からも見せてって言ってもなかなか難しいよね。自分も人付き合いが苦手だったからわかるよ。だからこそそんな一面を見せてくれるのが嬉しいんだよね」
自分だってこれまでは人にそんなに内面をさらけ出すことができなかったからね。
みんなと会って楽しく飲むようになって、人との距離ってこれくらい縮めても大丈夫なんだって知ることができたし。今でも異世界の初めての人と会うのは緊張するし一人だけだったら絶対にむりだけど、みんながいるから勇気が持てるよ。
「ズィ姫はお姫様としての純粋さがよりたくさん感じられたよ。物事をまっすぐに受け止めて心の底から反応を返す姿がやっぱり素晴らしいなって思ったね。それとこれまではみんなに比べて一歩引いているのかなって思ってたんだけど、みんなと同じように楽しそうにしていてお姫様というより一人の女の子だなって思ったよ」
あれあれ?さっきよりもみんながもっと下を向いてるような。おかしいな。
せっかくこんな機会だからと思って頑張って自分の気持ちを出してみたのに。
自分の思ったことを言うのが仕事だったよね。
「も・・・もう良いわ。十分にわかったから。十分すぎるくらいわかったから」
まだ言いたいことがあるんだけどな。
グリンナがそう言うのなら良いのかな。
みんなも下を向いたままうなずいてるし。よくその態勢でうなずけるよね。首が痛そう。
でもまあ伝わったのなら良かった良かった。楽しく飲もう。
それで次の日。
マイハーの街を出発したんだよね。
ということは自分のダンジョンの感想を言う役目はちゃんとできたってことなのかな。
そういえばダンジョンというよりみんなのことを言ってたような・・・・・・
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