53杯目 冒険者になった日の夜は
とうとう冒険者になったよ。証明書も手に入れたよ。
特に大変なことはなかったけど嬉しいな。これで異世界でいろいろな場所に行っても余計な問題が起きることがなくなるのかな。
まあ自分は冒険者として戦ったりするつもりはないけどね。そういうのは乾きの杯のメンバーにお任せしよう。
てなわけで今夜は冒険者になったお祝いで飲み始め。
「タクちゃんの冒険はこれからなのにゃ」
ゴロンニャは普通のことを言ってるはずなのに、打ち切りエンドみたいに聞こえるね。
「悪魔的には世界が滅亡する終焉魔法のように感じる言葉だね」
テトテトもこの言葉の恐ろしさを感じ取ったみたいだね。
このまま話を聞いていると恐ろしいことが起きそうな気がするから料理を持ってこようかな。
今日もメインの料理は焼鳥。みんなが食べたいって言うからさ。
美味しい店だったからリピートしたいってのもあって。今回は別の部位を。
「このねっとりしているのがタレと良く合って凄いのにゃ」
「タレだけじゃなくて塩でもねっとりの良さが味わえるでござるよ」
「このコリコリが凄いわよ。コリコリゴリゴリボリボリとずっと歯ごたえが楽しいわ」
「このパリッとした串がジューシーで美味しいよ。悪魔的にはこのパリッと感を活かす塩が最高だよね」
「ワタクシはタレですわ。パリッと感は損なわれますがジュワッにタレが加わった時の美味しさがとんでもないことになってますわ」
今回はレバー、ヤゲン軟骨、皮の3種類。それぞれタレも塩も用意したよ。
前は肉の美味しさを理解してもらえたから、今日はいろんな部位の面白さを楽しんでほしくてね。
「タレと塩とどちらが良いかという話は間違いだったわ。部位によって好みが分かれるじゃない」
グリンナの言う通り。お店によっては部位によって塩だけとかタレだけってときもあるもんね。
今回のお店は全ての部位で塩もタレもやってくれるからどっちも頼んだんだ。ヤゲン軟骨でタレなんて珍しいよね。
そんな感じでやっぱり焼鳥はみんなに大好評。話も盛り上がったよ。
自分が冒険者になったこともあったし、いつにも増して話もお酒も弾んだね。
そうそう。そういえばこんなことがあったんだ。
「今日さ。冒険者証を手に入れて宿に帰ってきたときに、娘さんが転びそうになったからとっさに支えてさ。何とか娘さんが転ばないで済んだんだよね。これって冒険者になれたから素早く反応できたんじゃないかな」
「冒険者とは関係ないと思うのにゃ」
あれ?思ったより冷めた反応が。
「拙者も全く関係ないと思うでござるよ」
「冒険者になったからって何でもこじつけようとするのは悪魔的には有りだと思うよ」
「なぜそのような結論に至ったのか理解に苦しみますわ」
「冒険者証ちゃんは身分を証明してくれるんだよね。ありがとうね」
グリンナだけ会話と脈略の無い全く別な話だね。
今日もお酒を飲んでふにゃふにゃ感謝モードになってるよ。
なぜか自分が取得した冒険者証をずっとなでなでしてるんだよね。
冒険者証をなでなでするのかあ。今日は自分が褒められてなでなでされるのかなと思ってたのになあ。いや少しだけだよ。少しだけ。なでなでされるかなーって少しだけ思ってたのに。
「そうだにゃ。宿屋の娘のネネンネちゃんと言えば、なんだかゴロンニャを見る目がちょっと変わった気がするのにゃ」
もしかして自分に向ける目みたいに凄く厳しいとか。
「それは無いのにゃ」
「それはないでござろう」
「悪魔的にそれはないよね」
「ネネンネちゃんは天使のように優しいですわ」
あ、そうですか。みんなには優しいもんね。
何でだろうなあ。自分には凄く厳しい気がするんだけどね。
ゴロンニャにはどんな目を向けるようになったんだろう。
「うーにゃ。にゃんて言えば良いのかにゃ。優しいというかなんというかにゃ。気遣ってくれてるようにゃ。何でもわかってるかのようにゃ」
それでも優しいことには変わりないんだから良いんじゃないかな。
「いろいろと難しい年ごろなのかもしれないのでござる」
なるほどね。多感な年ごろなのかもしれないね。
「そうかもしれないよね。テトも聞かれたよ。どんな紅茶を飲んでるのです?って」
「ワタクシも一緒に聞かれましたわ。女の子ですから王宮の生活に興味があるかもしれないですわ」
なんて言ってるテトテトとズィ姫はウーロンハイを飲んでるよ。同じお茶でも王宮らしさは全くないよね。
そんな感じで楽しかった今夜の飲みも終了。
もう用事は済んだので、次の日の朝には街を後にしたんだ。
自分もちゃんと朝に異世界へ行って宿から出発したんだけど、そのときの娘さんは自分に対してそれまでのような厳しい目ばっかりじゃなくて少しだけ優しい目をしてくれたんだよね。
もう出ていくからせいせいするってことなのかな?
それとも居なくなるのが寂しいとか?さすがにそれはないかな。
やっぱり多感な年ごろってことなのかもしれないね。難しいね。
評価、ブックマーク、感想、レビューなんでもすべて嬉しいです。
めちゃめちゃめちゃめちゃ嬉しいです。
読んでいただけるだけでうれしょんするほど喜びますが、反応していただけるのは最大のご褒美です。




