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結論から言おう。

全く問題はなかった。全くもって何ら問題はなかった。

誰もがジェイクが面倒を見ている子供に対して親切に対応してくれたし時には送り迎えさえしてもらえる程に面倒を見てくれた。ジェイクが託しただけあって誰もが腕が立つ自警団員で教え方も上手く、私はメキメキと弓、短剣、格闘が上達していくのを実感していた。



「なんでこんなに剣術は上手くならねえんだろうなあ。」



「「なんでだろうなあ。」」



呆れたように話すジェイクに続いて訓練場にいる自警団員達も一斉に不思議がる。

そうなのだ、私は弓、短剣、格闘は本当に女の子か?と疑われるほどにすぐさま上達したのだ。大きくなればどれほどの使い手になるかとまで期待もされている。

しかしどうにも剣術が上手くならない。ジェイクの教え方が悪いのではなく本当に私に微々たる調子でしか上手くならないのだ。

弓などと同じように上手い人を観察して自分なりに真似ようとしているのだが未だその成果が実る事はない。



「ローレンは身体の使い方が上手い。弓や格闘の練習を見てればそれはよく理解できる。力の加減が出来ているんだ。だが剣になるとできなくなっちまうんだよなあ。」



剣以外の上達ぶりが目覚ましいものであっただけに稚拙さが浮き彫りになる。私だってどうして上手くならないのかわからない。剣を振るう時、弓を引き絞るようには体が動かない。どこで力を抜くのか、力を入れるのかを毎回頭で考えている。



「他は考えるより前に体が動くんだけど剣は考えてからじゃないと動けないの……。それにすぐに力負けして動けなくなっちゃうのよ。」



「そこまで重い剣は持たせていないし単に力みすぎてるのかもしれねえな。力で押し切れるならやりようはあるがお前はそうじゃねえからなあ。まあ他は上手くやれるようになってきているし気長に練習すればいいさ。」



「……わかったわ。明日も練習に付き合ってねおじさん。」



剣を避けたり受け流したりは出来る様になっているし攻撃に転じるタイミングだってわかる。でもその攻撃がいつも軽々と弾かれてしまってはそこまでの過程には何も意味がない。私が大人になって力がつけば攻撃が通るようになるのだろうか。



(でもそれじゃ間に合わないじゃない。)



クラレルシア王立学校騎士科の最年少合格は14歳だ。私は今6歳だからあと8年あるがそれまでにジェイク達を押し切れるだけの力を身につけられるとは思えない。そう考えると試験合格には弓、短剣、格闘だけで挑む他ないだろう。


クラレルシア王立学校騎士科の試験は筆記試験、実技試験、面接の順に毎年行われている。筆記や面接は大して難しいものではないが実技試験の内容は受験者同士で対戦させる純粋な武力勝負となっている。その中で10人以内に入らなければ不合格となるのだ。だがどのような状況下で受験者を戦わせるかは毎年変わる為対策を立てるのは難しい。

私に出来るのはどのような状況や相手であっても対応できる手段を整えるぐらいしかない。



そう考えながら訓練所を出ようとするといきなり私の腕を掴む人がいた。



「ウィル!」



ウィルは何も言わずに俯いている。

ウィルはあの夜以降私を避けてばかりで挨拶すらままならなかった。どうして訓練場に来たのだろう。私の腕を掴んでいるのを見るに恐らく私に話があるのだろう。



「ねえ、ここだと皆の邪魔になるから歩きながら話さない?一緒に孤児院に帰りましょう?」



黙って頷くとウィルは私と手を繋いで歩き出した。

しばらくして周りに人がいなくなるとウィルがぽつりと話しだした。



「……ローレンの手ぼこぼこしてるね、痛くないの?ちょっと前は柔らかい手だったのに。擦り傷やアザまで増えてるし。」



「もちろん痛いわよ。でもこれは私が頑張った証拠なのよ!それに手のマメは今は痛いけどそのうちもっと硬くなって痛くなくなるんですって。」



私としては努力の証の為誇らしいものであったがウィルにはそう思えなかったらしい。



「……ローレンはもし僕が行かないでって言ったらどうする?」



「それでも行くわ。」



繋がれた手は妙に熱く、私達の歩く音だけがはっきりと聞こえる。



「僕もクラレルシア王立学校に行くよ。」



「は?」



ずっと俯いていた顔をあげて真っ直ぐにこちらを見つめてくる。でも彼は村を気に入っていたし離れたくなかった筈だ。



「あれからよく考えてみたんだ。別に王都で学んで村に戻ってくるのも悪くないって思ってさ。そうすればローレンがまたバカな事しても止められるし、村に帰ってくる時も僕が一緒なら迷わない。いい考えだろ?」



「私は嬉しいけどウィルはそれでいいの?村から離れたくないんじゃなかったの?」



ウィルはふふっと優しげに笑って首を横に振った。



「ローレンが理由で考えを変えたのは事実だけどこれは僕が決めた事だもの。ローレンは気にしなくていいよ。よーし僕も試験に向けて頑張らなくちゃ!」



魔道学科では実技、筆記、面接の順に試験が行われる。実技は魔力量が規定値に達するかを確かめる程度だが筆記で魔道への理解が問われる。騎士学科とは違い筆記に全てがかかっているのだ。



「ウィルが納得したならそれでいいけど……。でも試験はかなり難しいと聞くわ、勉強はとても大変よ?」



「僕は僕にできることをやるだけさ。それに君だって筆記試験受けるんだからある程度は勉強しなきゃいけないよ?もうマーサおばさんには話してあるから一緒に勉強しようね。」



「うっ……。そうね、勉強もしなくちゃダメよね……。がんばる……。」



私の苦虫を噛み潰したような顔を見てウィルは声を上げて笑った。



ウィルがクラレルシア王立学校を目指すのには驚いたけれどこれほど心強いことはない。私達はきっと2人で合格できる、そんな気がする。

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