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6

ジェイクが杭を立ててからの私の日課はあまり変わっていない。

朝起きて、ご飯を食べて、杭の上で走って、木に登って、鬼ごっこをして、ご飯を食べて……と普段の生活の中の遊びが少し増えたかなという程度だ。

最初は杭の上を歩くのは怖かった。何度か体制を崩して転倒したこともある。だが根気よく杭の上を往復していれば次第に慣れて今では何もない所と同じような速さで走れるようにもなった。そうして遊ぶ私を見守っていたジェイクはあるプレゼントをくれた。



「ローレン!お前用の弓を作ってもらったぞ!そこまで威力も無いが危ないから練習するなら訓練場に来い、そこでなら教えてやれる暇な奴らがウヨウヨいるからな。ちなみにお前用の矢もそこに置いてあるぞ。」



大人が扱う弓よりも細く小ぶりな弓だった。だがしなやかな木が三層に重ねて磨かれ、弦はピンと張ってある様子は大人の持つ弓と同じ構造をしているため子供騙しの玩具では無いことを見る側に伝えてくる。ようやく私の武器が手に入ったのだ。それにしても持つ分にはそこまで重いと感じないが弓を果たして上手く引けるのだろうか。



「ありがとうおじさん!今から訓練場で教えてもらってもいい?すぐに試してみたいの!」



「ローレンならそう言うと思ってもう準備はしてあるんだ。ついておいで。」



弓を抱えてジェイクの後を追う。そうだ、考えていた事もこの機会に言ってしまおう。



「ねえおじさん、私弓の練習をこれから始めるでしょう?実は他にも練習したい事があるの。」



「ん?何だ、言ってみろ。」



促されるまま私は言葉を続けた。



「私は非力だから弓や短剣の練習をするのはわかるわ。それらを使って距離を詰められても攻撃を受け流せるようになる必要もわかるの。でもそれだけじゃ足りないと思わない?」



「どういうことだ?」



「格闘術と普通の剣術も教えて欲しいの。弓が折れて短剣も手から離れてしまったら私何もできなくなっちゃうわ。でも弱くたって格闘術でまだ戦えるでしょう?剣術の方はカッコいいから!それだけ!」



嘘だ。格闘術は事実だが剣術に関しては少し違う。自警団、騎士、傭兵といった集団において最も愛用される武器は剣である。

私がもし人と戦って自分の武器を失った時、拳で相手を叩きのめすだけでなく敵対する相手の武器を奪って使えればと考えた。

だがこの考えはやはり浅ましく感じるしジェイクに咎められるのも嫌で単に憧れだとして誤魔化してしまった。ジェイクは優しいしこういった子供らしい我儘を渋々聞き入れてくれるだろうとも思ったのだ。



「うーむ……。格闘術は確かにそうだなあ、そういう場面もあるかもしれん。しかし剣術までとなるとかなりやる事は増えるし全部が中途半端になるかもしれんぞ。」



「そこで出来なくなっちゃうなら私は最初から王国一の戦士にはなれないってことなんじゃないかしら。お願いよおじさん……。私頑張るからお願い!」



ジェイクはしばらく唸っていたが観念したようにこう言った。



「まあお前がそこまでいうならやってみるか。だがダメそうならすぐ辞めるからな、それでいいか?」



「やった!!」



飛び跳ねるように喜んでいると訓練場にたどり着いた。前回訪れた時より人が多く、既に数人弓を射って練習している。



「いいかローレン。俺はお前に剣は教えてやれるが弓、短剣、格闘は俺よりも優れた奴らに教えてもらった方がいい。弓や短剣は既に話をつけてあるが格闘はまだだから今日は諦めろよ。」



「はい!わかりました!」



「いい返事だ。後は怪我だけはしないように気をつけろ。訓練場にはいつ来てもいいし逆にいつでも家に帰っていい。無理だけはするなよ。」



そう言い残すとジェイクは私のことを頼むべく自警団員の元に挨拶に向かった。人の多い訓練場ではあるが私のような女の子、ましてや子供など何処にもいない。如何にジェイクが上手く頼んでくれていても疎ましく思われるのは必至の事だろう。

これから始まる人間関係を思うと自分が王国一の戦士になれるのかという不安とは別に身が竦むような気分になった。

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