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やっぱり一人称にします
「ローレンは女の子だからなあ、剣も教えるが弓や短剣のような非力でも扱えるようなものが中心の方がいいだろうな。」
私がジェイクのような人を守れる人間になりたいと頼み込み、修行の初日にかけられた言葉だ。クラレルシア王国の傭兵や騎士、自警団には女性は存在するがそう多く見かけることは無い。さらにそういった女性の手にする武器は飛び道具のような剣よりも軽いものが多い。私もそうではないかと想像していたし、事実ジェイクはそういった判断を下した。
「ええ、ジェイクおじさんが私の師匠だもの。おじさんの言う通りにするわ。」
「俺も教えるのは上手いって訳じゃねえからなあ。お前が大きくなって色々得意なことがわかってきたらその時はその時で合わせていこうな。」
孤児院で朝食を済ませたのち私はジェイクに連れられてテーベ村自警団の本部へと向かった。これまでもジェイクを迎えに孤児院の皆んなで度々訪れたことはあったが今日通されたのは自警団の訓練場だった。
訓練場には見慣れた物から初めての物まで様々な武具が乱雑ではあるが並べられている。自警団であろう人や騎士のような人も稽古している。人に見立てた木の模型や的もあり、様々な人間が訓練してきたであろう独特の雰囲気に私は期待感と共に飲み込まれていた。
「うわあ……!私もここで訓練するの!?すごいわ!」
「いいや、まだお前には早いぞ。今日はお前がどんな戦い方を目指すかを決めにきたんだ。」
てっきりここで訓練するのだと思い込んでいた私は呆気にとられた。もう既にどの武器を使いたいなどと目星をつけていたぐらいだ。当てが外れて少し気まずい。
「戦い方?私は弓か短剣を使うようになるんじゃないの?」
ジェイクは私の方を向いてニヤっと不敵に微笑んだ。彼がこういう笑い方をする時は決して答えを教えてくれない。
「まあ見てな、王都から弓を扱う騎士が来ててな。うちの団員と手合わせしてくれることになってんだ。ほら始まるぞ。」
ジェイクが顎で指し示した方向には私も知っている自警団のラルフと騎士が立っていた。ラルフの手には木で出来た剣、騎士の手には弓だけが握られている。背にも矢は無い。
「ねえおじさん……。あれじゃあ騎士様は負けてしまうわ。私は子供だけどこの近さだと弓の方が弱いことぐらいわかるのよ。弓は遠くから攻撃できないとダメなのよ!」
「おっ!よくわかったなローレン!お前は頭がいいな、だけどそれだけじゃないんだ見とけよ!」
開始の合図と共にラルフが一気に騎士へと距離を詰める。騎士は弓を手に取るが矢を取りはしない。何か考えがあるのだろうか、それとも魔獣を前にした私のように怯えて動けなくなっているのだろうか。確実に負ける弓の騎士に一種の憐みさえ感じた。
ラルフの剣が振り下ろされる
騎士の弓が上に振り抜かれる
騎士は弓で剣の軌道を逸らし、体をラルフの懐へ潜り込ませる。その勢いのまま体当たりを行いラルフの足を払う。バランスを崩し倒れだすラルフの手を弓で殴打し剣を弾き飛ばす。そして訓練場に武器を失って倒れたラルフの喉元を弓で押さえ込んだ。
「ラルフの負けだなあ!見たかローレン!!」
騎士は負けなかった。明らかに不利な状況でも勝つための術と心構えを身につけていたのだ。
「ええ……!ちゃんと見ていたわ!おじさんの言いたいことがわかった気がする!」
負けると思っていた相手が勝った様子は私の心に何か火を灯したような気がする。
「おっ、そうか!なら見せた甲斐はあったな!お前はどんな道具を使ってもいつか不利な状況に追い込まれる時はくるだろう。その時俺はローレンにそれを覆すだけの戦い方まで身につけてほしいんだ。」
優しいジェイク。私はただ強くなって誰かを守る事しか考えていなかった。その為に弓や短剣を上手く使えるようになれればいいと思っていた。だけどそれは違う。私がこれから先学ぶべきなのはどんな逆境でも必ず勝利を諦めないでいられる技と心なのだ。私はジェイクを見つめ深くうなずいた。
「よし!じゃあ帰るか!お前はまだ小さいから俺たちのようにやれる事はそう多くない。だが今のお前にしか出来ないことは沢山あるぞ、覚悟はできてるか?」
覚悟ならもう出来ている。私の手は今は小さいけれどいつかきっと。
「もちろんよ!!」