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「ローレンに剣を振るう力を。」



ウィルがそう口にするだけで私の振るう剣はほんの少し軽くなる。



「何度かけてもらっても本当に不思議ね。それにしてもその呪文なんだか普通すぎない?魔導士の唱える呪文ってもっとカッコいいものだと思ってたんだけど。」



事実子供向けの御伽噺に登場する呪文は様々だ。魔導士の呪文は自己紹介に近いもので子供は皆自分なりの呪文を夢想するほどに憧れる。そう考えるとウィルの呪文はあまりに味気ない。



「仕方ないよ、魔法って結構難しいんだ。魔法をかけたい相手にどんな魔法をかけたいかをしっかり意識しないと失敗しちゃう。今の僕じゃ呪文のかっこよさなんて考える暇もないよ。」



「ふーん、結構大変なのね。でもかけたい相手ぐらいは変えてもいいんじゃない?そなた〜とか目前に立つ〜とかはどう?」



割と自信を持って提案したのだがウィルには鼻で笑われてしまった。



「馬鹿だなあ、そなたなんてローレンには似合わないでしょ。あと単純にダサい。それに名前が分かってる方が効果は強いんだってさ。まあ細かい効果を指定するようになれば勝手に呪文は長くなるし最初は短い方がいいよ。」



「いつかウィルがそのダサい呪文を使うようになったら指差して笑ってやるわ。」



「そんな時は一生こないさ!」



ケラケラ笑い転げるウィルを横目に私は剣を振るいながら思いを馳せる。

初めて強化魔法をかけてもらった日私は剣の柄を握りつぶした。流石にあれは2人で驚いた。

だが日々ウィルの魔法は精度を高めると共に持続時間も増している。本人に面と向かって言うのは気恥ずかしいが才能があるのだろう。

入学まで長くて8年だがそれまでに力をつけ本当に私たち2人揃って最年少でクラレルシア王立学校に入学できるかもしれない。私もウィルに負けないよう努力を続けなければならない。



――――――――――――――――――――



ウィルと私はテーベ村で約6年間訓練を毎日続けた。私達はついに12歳を迎える。



「とうとうお前らも12歳になるなあ。まだ少し早い気もするがこれまでよく鍛錬を積んできたんだ、俺についてなら魔物狩りに出ていいだろう。」



ジェイクはウィルの誕生日の朝に私たちを呼び止めて魔物狩りの参加を認めた。とうとう私達の訓練の成果を発揮する時がきたのだ。



「本当はまだ様子が見たいんだがな。14歳までに入学したいなら実戦経験があった方がいいだろう。だが俺がついているとはいえ無理はするなよ。」



「「わかりました!」」



私とウィルが元気よく返事をしたのを満足そうに見つめて微笑み、ジェイクは話をこう続ける。



「2人とも俺の後方支援をしてもらう。ウィルは強化を、ローレンは弓でだ。向かうのは魔の森だが奥までは踏み入らないし俺がついているからそこまで危なくはないだろう。」



「わざわざ魔の森にいくの?」



ウィルが不思議そうにジェイクに尋ねた。確かに魔の森には魔物の棲家になっているが自警団は魔の森から他の森や村にやってくる魔物を狩るのが目的だ。もしかして薬草でも取りに行くのだろうか。



「そうだ、魔の森に調査に行く。ここ最近魔の森から流れてくる魔物の数が多くてなあ。王都から本格的な調査が入ることになってるんだ。俺たちはその調査隊の前の下調べってとこだな。」



確かにここ最近魔物の出没情報が多い。特にテーベ村に近づく魔物が毎日のように目撃されているのだ。村に近づきすぎた魔物は自警団や傭兵、騎士達によって討伐されているがそれでも村の周囲を窺うようにうろつく魔物が絶えない。



「でもそんな大事な調査に私達が行っていいの?魔物に遭遇してジェイクおじさんの足手まといにならないかしら。」



「大丈夫さ、最近では魔の森の方が魔物が少ないみたいでな。逆にこっちの方が安全なんだ。さあ準備して早く森に行くぞ。」



ジェイクはそう言うとさっさと孤児院の外に出て行った。私達も早く準備しないと。



「ねえ、ローレン。ローレンはどう思う?」



「何が?魔の森のこと?」



「そう、魔の森から魔物が流れてくる理由。」



着替えを済ませて弓の準備をしていると先に用意を済ませたウィルが話しかけてくる。魔法には準備がいらないので着替えるだけですむ、楽で羨ましいことだ。



「そうねえ……。私は魔の森の環境が変わったんじゃないかなと思ってる。」



「というと?」



「魔物が増えたなら魔の森の魔物が少なくなるのはおかしい、強い魔物に以前の魔物が追い出されたならジェイク達が気づけないのもおかしい、そう考えると単に魔の森が棲家として成り立たなくなったんじゃないかしら。」



それにジェイク達が気づけないほどの魔物がいたならこのテーベ村はとっくに襲われているだろう。ならば魔の森の環境が変わったというのが正しいのではないだろうか。



「なるほどね、ローレンも僕と同じ考えだ。でもそれが当たっていたなら何で変わっちゃったんだろうね。」



「さあね、まあ私達は下調べらしいし本格的な事は王都の人たちがやってくれるわよ。さあ!準備もできたしジェイクおじさんのところに行きましょう!」



弓を背負い矢筒を体にしっかりと結びつける。魔物に出会わない方がいいのはわかっているが正直今の私が通用するのか試してみたい、そんな気持ちは抑えきれなかった。

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