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07

「お前、まだ喋れないんだな」


 掌の中の小さな使い魔にそう問いかける。

 彼、もしくは彼女は、困ったようにウネウネと身体を揺り動かした。大変残念なことに、ユリウスは蛇の雌雄の見分けがつかない。

 ただ、使い魔はかなり賢いようで、問いかければなんらかの返事を頑張ろうとしてくれるのは見て取れた。その仕草を見るだけでとても癒やされる。


 小さな使い魔を連れて、ユリウスは里から一番近い町へと向かっていた。今はその道中だ。いつも使っているルートはもしかしたら里の人間が追ってくるかもしれないという事を考えて使っていない。ちょっと遠回りになるが、大事な使い魔を守るためだ。

 町の場所自体は「そろそろ成人だろうから」と村の大人達に何度か連れてって貰ったことがあるため、どこにあるかということは知っている。

 道中の魔物も、だいたい倒したことがあるやつばかり。

 しかしながら、まだ喋れもしない使い魔と野宿というのはどれほどの苦労になるか、まだ想像がつかなかった。

 とりあえず、魔物が利用していたらしい洞穴を発見したのでそこで一夜を過ごす準備をする。


 通常、使い魔は生まれたときから主人を認識し、言語での意思疎通が可能だ。それと、モーラのように人型になることもできるはずなのだ。

 しかし、このユリウスの使い魔は違う。

 まだ生まれる予定ではなかったのに卵を割られてしまったせいで、色々な面が未成熟なのだ。


「ギ、ギ…」


「ああ、責めてないよ。

 生きててくれるだけで十分だから」


 色々と出来ないことはあるけれど、多分この子は賢い。

 ひいき目でなく、そう思う。

 普通に生まれていれば出来ているはずのことが、出来ていないことも。そして、今自分と主人であるユリウスが置かれている状況も、きちんと理解出来ているのだ。

 だからこそ、悔しそうに鳴く。


「ゆっくりお前のペースでいいよ。

 でも、そうだな…。名前が知りたいな…。

 ちゃんと呼んでやりたい」


 使い魔は、自分の名前を持って生まれてくる。

 主人があだ名をつける場合もあるけれど、基本的には彼らが生まれ持った名で呼ぶことが普通だ。


「ギ…ア…」


「無理しなくていい。そのうちでいいよ。

 待ってるからさ。

 それより、おなか空いてないか?

 その状態で何か食べられるのかな…」


 通常の使い魔であればモリモリと魔物を食べるはずだが、この子は本来であればまだ卵の中にいるはずだ。消化器官も未熟な可能性が高い。


「ギィ…」


「ん?」


 すりすり、と指先にすり寄ってくる。小さな小さな舌をピロピロと伸ばしてユリウスの指を舐めてきた。


「…今のとこ俺の魔力で十分ってことか?」


「ギギ…」


 それぞれの頭がコクリと頷いて見せた。

 その拍子に頭同士をぶつけてしまう姿がなんとも可愛らしい。何が起きたかわからずキョロキョロと首を振って確かめている。


「ふふ、おっけー。じゃあ先にお前のご飯にしようか」


 そう言って使い魔が乗っている左の手のひらに魔力を込める。

 

「ギュ…ギュゥ…」


「あまり効率がよくない、な」


 魔力を摂取しているというよりも、浴びているような感じなのだろうか。

 使い魔が吸収するよりも、大気中に霧散している方が多い気がする。


「浴びるよりは…食べる? のか?

 口から摂取するなら、うーん…こうか?」


 卵の時は、殻の内部に魔力を送っていた。が、それと同じ感覚でやると大分魔力を浪費してしまうようだ。出力はもっと下げてもいい、その分正確に魔力を受け渡ししてやらなければと試行錯誤する。

 結局、指先から微力な魔力を流し、それを使い魔が摂取するのがもっとも無駄がなさそうだった。

 ただし、そのコントロールが大変だった。


「ふはっ、くすぐった…」


 魔力を舐めとるようにチロチロと舌を伸ばし指先を舐めてくるせいでどうにも集中力が続かないのだ。その度に魔力が途切れて、不満げな使い魔がツンツンと爪と皮膚の境目をつついてくる。それがまたくすぐったい。


「ごめ、ごめんて、ふはっ」


 くすぐったさをなんとか耐えながら、魔力を供給し終える。使い魔は満足したらしく、とぐろを巻いてお休みモードだ。

 人間で言えば乳児よりも幼い。お腹いっぱいになったら眠くなってしまうのも当然だ。


「んー…目を離して狩りに行ってもいいものか…悩むな」


 気持ちよさそうにまどろんでいる使い魔を見ると、狩りにつれていくのがちょっと申し訳なくなる。このまま寝かしてやりたいが、そうなると何かが襲ってきたときに対応できない。

 今いる洞穴に魔物がいないことは確認済みだが、魔物はたまに予想外のところから現れたりするものだ。例えば土中から地面を掘って近づいてくる、だとか。


「胸元にポケットつくるか…」


 今すぐ狩りに出なくてもユリウスは飢えたりしない。

 気持ちよさそうに微睡む使い魔を無理矢理どこかに連れて行くのは忍びないし、今できる作業をやってしまう。胸元に使い魔が入る専用のポケットでもあれば今後の移動も楽になるはずだ。

 持ってきた荷物の中には簡単な繕い物なら出来るように針セットもいれてあった。それを取り出して、試行錯誤する。


「巾着みたいなのでもいいんだけど…うっかり振り回したりしそうだしな」


 ユリウスはあまり戦いが得意な方ではない。そのため、目についたモノ全てを武器として扱う。勝てればなんでもいいだろ、という精神だ。

 砂は目潰しに使うし、石だって投げる。袋を持っていたときはそれに石をいくつもつめて振り回したりなんてこともした。

 戦闘に夢中になりすぎて、使い魔入りの巾着を作ったとしてもそれを武器として扱いかねないのだ。

 その点ポケットであれば無意識に振り回すなんてことは出来ないし、肌身離さず傍においておけるというメリットがある。


 キュルキュルと寝言を言っているらしい使い魔を見ると、自然と笑みがこぼれた。

 家とは違う固くてゴツゴツとした地面。羽織るモノものなく、安眠など出来そうにない場所だが、それでも使い魔がいるだけでなんとか頑張れそうな気がした。


閲覧ありがとうございます。


暫くは昼と夜の一日二回更新を目指して頑張りたいと思います。


たくさんの人に読んで頂きたいので是非ブクマや評価をしてランキングの端にでも載せてやって下さい。


よろしくお願いいたします。

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