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「んじゃ、やってみる」
バングルと、アバトが書いてくれた図面を見比べる。どのくらい縮小しなければならないかを考えながら、まずは目印になる点を打った。
「あ、そういえば」
「うわ、びっくりした。なんかあったのかよ」
ハッと顔を上げれば驚いた表情のアバトと目が合う。
「いや、俺これから集中することになるから、アバト暇だろう?
なんか狩りとかしてくるか?」
今からやる作業はどのくらいかかるか想像もつかない。結構精密な作業であるため、長くなることだけはわかる。手元が見えなくなる日没までには完成させたいとは思っているが、予定は未定だ。その時間アバトが暇してしまうだろうと思っての提案だった。
だが、アバトはなんだそんなことかと首を振った。
「いや、ココに集中して周り見えてないマスター一人置いてく方が危ないじゃん。
いーよ。俺この土のリングを壊さない程度に遊んでるからさ」
アバトの手の中には小さなリングがあった。
魔力量だけで言えばアバトもかなりのものだ。確かに遊ぼうと思えば色々遊べるかもしれない。
「お? 家作ってくれてもいいんだぞ」
「流石に無理だよ。
でもまぁ、できたら面白いよな。目標くらいにしとく」
そんな会話をして、お互いに目の前のことに集中すること多分数時間くらい。
ユリウスは周囲の警戒をアバトに全部任せられるという安心感もあり、全神経をマジックバングル作りに注いだ。
その甲斐あって、なんとかそれらしいものを思っていたよりも早く完成させることができた。
「できた…っぽい」
「お!? お疲れ、マスター」
「あぁ。待たせてごめん…な…?」
ユリウスはパチパチと瞬きをする。
目の前の光景がおかしい。
確かに、屋外で活動しているわりに眩しくないな、という考えが頭をよぎったときもあった気がする。
でも、まさか、こんなことになっているとは思わなかった。
ユリウスの目の前の光景が、いつのまにか作業を始める前とガラリと変わっている。
「家、作れたのか…」
「おう! すげぇだろ」
きっとアバトはこちらの作業が終わるのをワクワクしながら待っていたのだろう。キラキラした目でこちらが何かを言うのを待っている。
ユリウスはいつのまにか、頑丈そうな土の家の中にいた。きちんと明かりとり用の穴が空いていて作業するのに不自由はしなかった。
「凝ってるな…。え、すごい、模様まで入ってる」
「はは、暇だったしな。
俺手先はそーでもないけど、魔力操作なら意外といけるかもしんない」
やっているうちに楽しくなってきたのか、大雑把な作りの途中から細かい模様や細工が入っている。
「えっ…ってことはこの指輪アバトが作った方が早かったんじゃ…?」
「あっそうかも?
いやでもそんな小さなのに魔力の道敷ける気しねーからヤダ。
それよりさー。マスターの作ったそれの試運転しようぜ」
「ヤダって…まったくしょうがないな」
確かにアバトの主張もわからなくはない。今回の作業はかなり集中力が必要だった。ユリウスは細かな作業が好きで苦にならないタイプだ。逆にアバトは気分がのればどこまでも拘るが、そうじゃないと見向きもしない。現に、壁の模様は途中で飽きてしまったらしく、変なとこで途切れている。そういう部分にアバトらしさを感じて苦笑してしまった。
「んじゃ、試運転するぞ」
「へへ、楽しみだなー」
アバト作の土の家から外に出て、気合いをいれる。
今回のマジックバングル作りは、言わばアバトとユリウスの共同作品だ。
魔力を感じとるのに長けたアバトと、細かい作業の得意なユリウス。どちらが欠けてもできなかったこと。
ユリウスは緊張の面持ちで、アバトはワクワクした目で試運転を見守る。
魔力を通す、という動作は別になにも緊張するようなことではない。
物心ついてからずっとアバトの卵に魔力を注いできたのだから、今ではちょっと意識して深呼吸するくらいの感覚でできる。なのに緊張しているのは、初めての共同作業の作品だからだろうか。
ユリウスの緊張を感じ取ったのか、ペシとアバトがユリウスの尻を叩く。
アバトは成功を確信しているのか早く早くと待ちきれない様子だ。それを見て、ユリウスはフッと笑って肩の力を抜く。一回で成功しなくてもいいしな、と思い直したのだ。
腕にはめたバングルに魔力を通す。
「お? おお!」
「あ、すごい。出来てる」
どのくらいの魔力量までなら耐えられるのかわからなかったため、最初はごく少量を流した。だが、それだけでも、ユリウスがかざした手のひらのちょっと先から霧雨のように水が出てきている。
「なぁなぁ、マスター!
色々やってみてくれよ」
アバトはこの土の家を作る際に色々試したらしい。
結果、魔力量とイメージによって出てくる土が変化したとのことだ。砂をイメージすれば風が吹けば舞うような砂が、粘土のような泥をイメージするとそれが出てきたとのこと。確かに周囲をよく見ると、この場所にはあまり無さそうな土の塊が落ちている。
「でも水のイメージって…?」
「今出てきたのってなんか細かい雨みたいだったじゃん?
ならもっとどしゃ降りとか、あとはもっと細かくして霧っぽく出来たりしねぇ?」
「あぁ、なるほど」
ユリウスは飲み水の確保のためとしか考えていなかった。だが、アバトが言うように水にも色々な形がある。
うまくすればこれからの戦闘にも応用できるかもしれない。
二人で色々な意見を出しつつ、試してみる。
夢中になってやっていたせいで、いつのまにか空が茜色にそまっていた。
「魔力の消費も少ないし、これすごいイイかもしれないな」
「最悪これ量産したら金になりそうな気もするし」
「…それは入手経路不審に思われないかな」
「あ、そうか。でもさ、これで金がなくなっても野宿で不便はなくなるじゃん?
火のマジックリングも作れたらよかったんだけどな」
「仕方ないよ。さすがに見本がなければ構造もわからないだろ?」
今回水のマジックバングルを作れたのは、実物の構造をアバトが見れたからだ。だが、残念なことに火のマジックリングは売り切れだそうだ。
なんでも、近頃魔物の動きが活発で物騒なため、護身のために買う人が続出したらしい。そのため、今の段階では火のバングルは作れないのだ。
「ま、おいおい作ればいいか」
「作れただけで儲けもんだしな」
閲覧ありがとうございます。
そろそろ終わりが見えてきました。
もう少しだけお付き合いしていただければ幸いです。




