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結局、二人の冒険者登録はギルドの長が出てきてすったもんだの末登録された。というのも、テイムされた魔物が人間に変身できるというのは全く知らない情報だったらしい。
アバトはテイムされた魔物ではなくユリウスが卵から育ててきた使い魔である。そう主張したのだが、明確に違いはと問われて答えることが出来なかった。
「俺は…マスター失格だ…」
「いやぁ…まぁ、よくね? めんどくせーもん、ちゃんと説明するの。
それに但し書き付きだけど俺も冒険者と認められたしさ」
アバトの冒険者カードには「ただし、ユリウスと共にいる場合のみ」と書かれている。
これはいくらテイムしている、と言ったとしても蛇型のアバトを普通の人が見たら怯えてしまうためだ。普通のテイムされた魔物はもっと小型らしい。だからテイムではないと言っているのだが、その辺りの融通は利かなかったようだ。
「今後を考えれば一歩前進ではあるんだけどな…」
これでユリウスもアバトも身分証が手に入った。お陰で、身分証が必要な大きな町にも入ることができる。勿論、当面の目的地である本の都にもだ。
「査定だかにかかる時間に宿もとってもらえたし、今からぶらっと買い物しにいくのはできるじゃん?」
「あぁ、確かに。
アバトの武器やマジックリング見に行こうか」
時刻はもうすぐ人々が夕餉を食べる時間帯。早いところは既に店じまいをしているだろう。なので、今日のところは下見だけにする予定だ。よっぽど破格なものが無い限り。
二人でウロウロと市場を見て歩く。
予想通り市場はところどころ店じまいをしていた。今焦って買うのは得策ではない。だが、二人にとっては初めての大きな市場。見て歩くだけでとても楽しかった。
「食べ物が売ってる…美味しそうだ」
「へーーー見たことねーのたくさんあるな」
辺境の地ではやはり手に入る食料が偏ってしまう。二人は見たこともない食べ物に興味津々だった。
市場もある程度同種のお店が固まっているようだった。歩を進めるごとに変わっていく売り物にワクワクしながら見ていると、ふと路地の向こう側が目に入った。
「あっちも何かあるのかな」
「行ってみるか?」
興味のまま、そちらに足を向ける。
そこは店を持たない露店の人達が物を売る場所だった。話を聞くと、商業ギルドの許可さえとればここで誰でも物を売り買い出来るらしい。お店を持つよりもずっと安いそうだ。たまに冒険者がお古の武器防具を売ることもあるらしい。
「マスターの手作り武器売ったら結構儲けられそう…」
「どうかなぁ…」
マスター贔屓の激しい使い魔の台詞に苦笑する。確かに、里周辺で狩った魔物から作る武器であれば売れるかもしれない。武具屋で売られている金属製のものより、里の武器の方が強そうに見えた。しかし、それはあくまでも里周辺の魔物を素材としているからだと思う。この辺りの魔物を狩って作ったとしてもあまり強いとは思えなかった。ホーンラビットの槍もアバトの腕力に耐えられなかったわけだし。それを言うと彼は気にしてしまうだろうから、ユリウスは言葉を濁す。
「ん、あれ?」
キョロキョロと物珍しそうに露店を見て回る。確かに店の物より品質が悪そうな物から使い方がわからない道具まで様々だ。
その中で、アバトが足を止める。
「なぁ、おっちゃん。これなんだ?」
「ん? あぁ、マジックリングだ」
「え? 高価なんじゃねぇの!?」
言っては悪いがこんな露店で売っているなんて思えない。しかし、アバトが反応したのだ。何かを感じ取ったのかもしれない。
「高いのは水や火が出るタイプだな。
残念なことにこれは土と風…こんなのは二束三文でも売れねぇガラクタなんだ」
愚痴混じりの話を聞くと、どうやらこのおじさんは騙されてこれを買ってしまったようだ。水や火であれば生活でも役立つ場面が出てくるが、指輪から土や風がでても役に立たない。それどころか家の中で試運転をしたら、家を土埃まみれにしてしまい掃除が大変だったとか。
「そりゃあご愁傷様…。
なぁ、これセットでもっちょい安くならねぇ?」
「オマエなぁ…この悲しい話を聞いて更に値切るとか悪魔か!?
まぁいい。こんなの見たくもねぇから3割引にしてやる。持ってってくれ」
「さんきゅー!」
交渉は成立して、かなりの安さでマジックリングを手に入れた。だが、アバトは何故わざわざ役に立たない物を買ったのだろう。
色々な交渉はアバトに任せた方がいい、と学んだユリウスは途中で口を挟まなかったがそこがとても気になった。
ただ、売主の前で話すことでもないかと思い、また市場を見て回る。アバトに合いそうな武器は見当たらなかったため、宿に帰ることにした。
「なぁ、なんでそのマジックリング買ったんだ?」
今日お金を使ったのは夕食と土と風のマジックリングだけだ。地図やアバトの武器は明日見て回って決めることにしている。
ギルドにとってもらった宿のベッドにゴロリと寝転がってやっと気になっていた疑問を口に出した。ベッドはフカフカで逆にちょっと落ち着かないくらいだった。
「これ? マスターが作りかえられねーかなーと思って」
「は? 作りかえる?」
思いもしなかった言葉に素っ頓狂な声が出てしまった。
「そもそもマジックリングって魔法を使ってなんか中にごちゃごちゃっとなんか書いてるものみたいなんだよな。このごちゃごちゃに魔力を通すと思った物が出てくるって仕組み…なんだと思う。多分」
「よくそこまでわかるな」
「すげーだろ。褒めてもいいんだぜ。
でさ、二つとも買ってじっくり見てわかったんだけど、このごちゃごちゃって二つとも大半が一緒なんだよな。違うのは一部分だけ。
で、思ったんだけど、そこが違うから土になったり、風になったりするんじゃねぇかな?
だから、そこを水に書き換えたら水になるって思って」
「あぁ、なるほど。
…って待ってくれ。簡単に言うけど、そもそもそれどうやって書いたり消したりするんだ?」
「気合いとカン。
だって前マスタータダの石魔力でコーティングしたりしてたじゃん?
やってみようぜー」
あっけらかんとアバトは言うが、そんな簡単にできるようには思えなかった。不幸中の幸いは今回購入したマジックリングは捨て値を更に3割引で買ったのということだろう。おかげで懐はほとんど痛まなかった。
マスターならなんでも出来ると考えていそうな使い魔の信頼にちょっぴり頭が痛くなったユリウスだった。
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