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「では、改めましてご案内しますね。
冒険者ギルドへようこそ」
目の前には「絶対に逃がすもんか」という気迫を感じさせる冒険者ギルドの女性。名前をガーベラというらしい。気迫はものすごいが、こちらに害意があるわけではなさそうなのでなんとも言い難い。情けないが、ここはアバトに交渉を任せたいと思う。
まぁ交渉と言っても、こちらに不利益がないように話を聞くだけで十分だろうけど。
すっかり気圧されたユリウスとは対照的に、アバトはにこやかに対応してくれている。
「んーまぁメリットが結構デカイのはわかった。
でもさ、デメリットもあるんだろ?」
聞いている限りメリットは非常に大きい。
特に、それなりの規模の町に入るためには身分証が必要で、ギルドから発行される冒険者カードはそれに対応するというのはでかい。今目的としている図書の都にも必要だとか。正直入れるものなら入った方が得だろう。
「デメリット…ですか?
そうですね。緊急時は、階級に応じて召集命令がかかること、くらいでしょうか。どうしても無理な理由があれば断ることもできますし。違約金がかかったり、ギルドの階級が下がったりということおありますからあまりおすすめしませんけど」
「緊急時、ねぇ。それって例えばどんな?」
「そうですねぇ。この辺りですと強力な魔物の出現時、でしょうか。
魔の領域から凶悪な魔物が出現する場合もありますので。
あ、でも、ほとんど起きていませんよ!
勇者の里が魔の領域に目を光らせてくれていますので」
「勇者の里?」
魔の領域はわかる。里の樹海のさらに奥。ちょっと一人では入りたくないおどろおどろしい場所だ。
「あら? ご存じありません?
魔王を倒した勇者様のお話です。魔の領域近くの辺境の里は勇者の末裔が住んでるんですって。日夜魔物退治をしては、魔の領域から人の生活を守ってくださってるんですよ。
だから滅多にギルドからの緊急依頼はでないんですよね」
楽しそうに話すガーベラの声を聞きつつ、ユリウスは緩く頭が痛むような感覚を覚えた。勇者の里だとかなんとか。あの自給自足の辺鄙な里が?
だが、今彼女に聞いても今話してくれた以上の情報はでないだろう。むしろ、それを調べるために図書の都に行こうとしているのだから。伝聞でなく、当時何があったのかというのを知りたい。
「まぁ確かにデメリットっていうのはほとんどなさそうかな」
「そうですよ。それにあのクマを倒せる実力があるならば、召集されても活躍できるはずです!」
ぐっと握りこぶしを作ってガーベラが熱弁する。
「でもさぁ、それ人間の話だよな。使い魔ってどうなの?」
「へ? 使い魔、ですか?
テイムされた魔物のことでしょうか」
「テイム?」
聞きなれない単語を聞き返す。
外の世界はやはり知らないことがたくさんあるなぁ、と見当違いな感想をもった。
「えーと、魔物使いという特殊な職業の方が魔力を用いて魔物と契約するんです。
結構レアな職業ですので私は見たことないんですけど…あれ?もしかしてお二人は魔物使いなんですか?」
さて、ここはどうするべきだろうか。
アバトも本性はあの蛇の姿だ。そして事情を知らない人が見れば、蛇型のアバトはどう見ても巨大な魔物にしか見えないだろう。
それを正直に言うべきかとても悩ましい。
「うんにゃ。魔物使いはこっちだけ。俺は魔物の方」
ユリウスが悩んでいる間にアバトが事実をぶちまける。
思わずアバトの顔とガーベラの顔を交互に見てしまった。なに言ってるんだこいつ、みたいな顔のガーベラと、だってぶちまけたほうが早くね、と言いたげなアバト。
確かに、その方が早いのは事実だ。
「アバト…せめて相談して」
「いやだって…任せてくれたしさぁ」
「まぁ…言っちゃったものは仕方ないか。
厳密には色々違うかもしれないけど、アバトは俺の使い魔です」
「へ? 冗談でしょう?」
なんのおふざけかと思っている雰囲気のガーベラだったが、ユリウスが渋々認めたことにより顔色が変わっていく。
それもそうだ。目の前の人間にしか見えない人が、実は魔物でした、なんて驚くだろう。
「冗談ではないんだよな。
証明手段はアバトに元に戻ってもらうのが手っ取り早いけど…人目があるところだと混乱させてしまうしなぁ」
「…すみません、そのお話が本当だとすると、私一人の手にはあまりますので…。
ちょっとお時間いただけますか?」
もちろん、とユリウスがいいかけたところを、アバトが制す。
「そっちの都合で俺らの時間が奪われるんだから、あのクマ高値で売りさばいといてくれ。っつか、今その代金寄越してくれよ。俺ら宿探したり武器探したり忙しいからさ」
「えっ…と…」
「つか、俺らがギルド入らなかった場合あのクマギルドに奪われたってことになるよな? 俺ら了承してなかったのに話進めちゃったしさ。
そっちとしてもギルドが冒険者でもないやつから素材を強奪する~なんて噂立ったら困るじゃん?
だから、今回は今この場で金くれればいいからさ」
そこそこ可愛い女性ににっこり微笑みながら何事かを話すイケメン。話している内容は物騒でも、なんか和やかに見えるからずるいなぁと思う。ていうか、完全にカツアゲなのだが、アバトの言うことも最もな上に、当座のお金はある方が便利なのは確かだ。
命を脅かしたり暴力を用いたりしていないので、ユリウス基準ではセーフである。
「え、えと、はい、そうですね。
クマの代金は今ご用意します。で、あの、できれば早急に確認を行いたいので少々ギルド内にとどまってもらいたいのですが…」
「え? その間に宿うまったら俺ら野宿になるんだけど?
武器を見るのはあとでいいとしてもさぁ」
「そこはあの、代理で私が予約しておきますので…」
「代金そっちもち? ならいいぜ。
どこで待機してればいい? なんなら暇潰しにギルドのことがわかる本でも持ってきてくれたら嬉しいな」
キャパオーバー気味になっているガーベラに対し、さらに要求を突きつけていくアバト。
なんというか、物語であればこちらが悪役なのではなかろうか。
とはいえ、彼女はアバトの要求を全て飲んでくれた。
ガーベラにとって最初は金一封に見えていたであろう俺らだが、実は相当な厄介案件だったようだ。
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