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「さて、忘れ物はないな?」


 納屋の扉を開けて、中を再確認する。

 外は良く晴れていて、爽やかな風が吹いている。絶好の旅立ち日和だ。

 青い空を見て機嫌良くアバトを振り返れば、苦笑を返された。


「ま、旅に必須なものなんて命くらいだろ」


「そりゃそうだけど…。

 行商人たちの話聞いてると、水の入手が一番難点みたいだよな」


 本来の出立予定は昨日のはずだった。

 けれど、ガイとのごたごたがあり、結局出立を一日ずらした。ガイという追っ手を撃退した今、そこまで急がなくても良いのが幸いした。

 十分に休養をとり、また、胸の内に溜めてたモヤモヤもある程度は解消できた。これは色んなとりとめのない話を聞いてくれたアバトのお陰だ。正直情けない主人だ、と思わなくも無いけれど「きちんと言える方がすごい」とか「そういう部分を補ってこその使い魔だから」とかたくさんの言葉を貰えた。ちょっと感極まってしまった、というのはナイショの話である。

 本当に、アバトが自分の使いまで良かった、と心から思った。それと同時に、彼に相応しい主人であれるように努力したい、とも。

 色んな話をしたついでに、今後の明確な指針も出来た。戦闘は疲れたし、精神的にしんどい部分もあったけれど、その分悪い休養ではなかったと思う。

 次にユリウス達が目指すのは、この国の中央付近にある図書の都だ。


「それにしても本…なぁ。

 知識としてはあるけど、情報源として優秀なのはわかるんだけど…なんか脆そうでこわい」


「それはわかる」


 ユリウスたちが触れたことがある書き付けは、木の皮を利用したものが主流だ。カークスの残した手記も木の皮を利用したもので、持ち運びにはあまり適していない。もし、今後里の誰かが逃げ出したときのために、と置いていくことにした。薬品のレシピは少々勿体なかったがやはり本は荷物になってしまう。

 木の皮よりももっと薄い紙の本は、ちょっと力をいれると千切れそう、というのが二人の印象だ。


「誰かから教えてもらえりゃ早いんだけどなぁ。

 おとぎ話の真相とかさ」


「都会に行くとたくさん人がいるだろうし、物語を調べる変わり者とかがいてくれればいいんだけど…どうだろうな?」


 実際、研究者と呼ばれる人間も存在する。ただ、辺境で生まれ育ち、狩りを生業として生活してきたユリウスと先日生まれたばかりのアバトにはピンとこないだけで。


「まぁまずは無事に隣町に到着できるように頑張ろうか」


 隣町はそれなりに遠い。馬車を所有し、旅慣れた行商人達で丸二日はかかるらしい。徒歩でのんびり行けば五日くらいだろうか。

 慣れた里周辺のサバイバルであれば何日でも生きられる自信はあるが、ここから先は知らない場所だ。行商人達の話を聞く限り街道沿いを通れば強い魔物はさほど現れない上に、水場も一応あるようだ。ただ、魔物がいないのであれば食べ物に困りそうな気がするけれど。


「町に着いたらマジックリングってやつ買えばいいって言ってたな」


「そうそう、水のやつな。

 魔力がある人がそれに魔力を通すと水が出るってやつ」


 この世界には魔力を有効活用する魔法使いと呼ばれる存在がいるらしい。彼らは自分の膨大な魔力を炎や氷、風などに変える方法を知っている。それを人々は魔法と呼んだ。確か里に伝わるおとぎ話の中にも天候を操る仲間がいたように思う。多分アレは魔法を誇張して伝えたものだったのだろう。

 その魔法という仕組みをうまく扱えなくても、簡易的に誰でも使えるようにしたのがマジックリングという代物だ。指にはめると、使いたい魔法が使えるように導いてくれるらしい。

 ただし、魔力がなければガラクタも同然なので、あまり流通はしていないのだとか。少なくとも辺境の里では見たことも聞いたこともない。そもそも、魔法自体がおとぎ話だと思っていたくらいだし。魔力にそんな活用方法があるだなんて思ってもいなかったのだ。


「あればいいんだけどなぁ。

 次の目的地はそこそこ大きな町らしいけど、それでもあるかどうかはわからないらしいし」


「マスターが作れればいいのにな。

 …っつか、俺が水出せればいいんだけど今のところできる気はしないんだよなぁ」


 アバトの五つある首にはそれぞれなんらかの役割があるのではないか、というのが現時点での二人の予想だ。

 アバト本人はかっこよく火を噴きたいという願望があるらしい。確かに火を噴き空を飛ぶ姿はとてもカッコイイと思う。実現したら是非見せてもらいたいものだ。


「毒と雷が使えるだけで十分ものすごい戦力だよ。

 水ならちょっと掘れば出てくるところもあるし、見せてもらった地図には何ヵ所か川も確認出来たから大丈夫。

 それにしても…作る、か。

 …作れるかな?」


 ユリウスはそこそこ器用な方だと自負している。里での生活に必要なものはほぼ手作りだった。マジックリングとなると魔力が必要なのだろうか、とも思うがアバト曰く一般人よりはかなりあるとのこと。その辺りは問題なさそうだ。

 あとは作り方と仕組みがわかるかどうかだ。


「なんもないところから作るのは流石に無理だろうけど、見本があればいけるんじゃね?」


 安易なアバトの発言だが、今のところ否定する要素はない。

 無理なら無理できちんと作られたものを買えばいいだけだし。


「確かに。とりあえず現物を見てから、作れそうだったら作るのを目標にしてみようかな」


 話しているうちにやってみたいことも増える。

 ウジウジと考え込むよりは、やれることやりたいことを考える方がよっぽど建設的だ。


「いんじゃね?

 なんなら回り道したっていいんだしさ。

 俺もあちこち見れるのちょっと楽しみ。砂だらけのとことか岩だらけのとことかあるんだろ?

 あと、今じゃなくていいけど海ってのも見てみたいんだよな」


「一面が水なんだっけ?

 俺もそれは見てみたいなぁ…何処にあるのかわかんないけど。

 じゃあまずは地図か」


「だな。町に行ったら地図と、マジックリングを探してみよう」


 外の世界は広い。

 興味は尽きないし、行ってみたいとこだらけだ。

 特に、アバトがこんなにも楽しそうにしているのは、見ているこちらとしても嬉しいことだ。


「楽しみだな、マスター」


 色々しんどいこともあったし、里のことはまだ頭にこびりついている。

 けれど、アバトのこの笑顔を守れたことはとても誇らしかった。


閲覧ありがとうございます。


物語としては一区切りです。まだまだ続きます。


明日も12時頃更新予定です。


本作を読んで応援したいとと思っていただけた方は、ぜひ画面下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただければ嬉しいです。


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