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「マスター…えーと、なんだ、その…」
「うん、ごめんもうちょっと凹ませて…」
ガイから得た情報はかなり有益だった。少なくとも何も分からず逃げ回るより遙かに良い。それに、里一番の狩人相手に、絡め手であっても勝てたという収穫もある。
それでも、ユリウスは凹んでいた。
「なんか、もっと良い言い方とか…。
キリ…大丈夫かな…」
ガイとの戦いの後、彼らは里へと戻っていった。少し休んで行った方が、とも思ったが「敗者に情けをかけても一層惨めになるだけだぜ?」と笑われてしまった。
そう、ユリウスは勝者であり、ガイは敗者だ。
そして、二人はそれぞれに相応しい結果を得ることになる。
ユリウスは、アバトを殺されたくなかっただけに尽きる。その一心で無我夢中で頑張っただけなのだ。けれど、現実は残酷で、それにともなった結果が身に降りかかる。
ユリウスは里一番の狩人を敗北に追い込んだ勝者として、自由を得た。けれどこれは新たな厄介ごとのタネになる可能性はある。例えば、里一番の狩人が負けたならば、追っ手の人数を増やされる、だとか。
ガイは里一番であったはずなのに無様に負けた者として里に帰る。アバトを倒すという任務を達成できなかったのだ。その結果、里内での評価は下がることもあるだろう。人柄に問題があるわけではないので、皆が受け入れてくれることを願うしかない。それでも、口さがない者は色々とやかましいだろうけど。
その事が、心苦しい。
かといって、おいそれと負けてやるわけにもいかなかったのだが。
しかも、その勝ち方は搦め手だ。正々堂々と戦ったわけではない。きっとガイにしてみれば納得のいかない戦いだっただろう。
もっといい方法があったのではないか。それがユリウスの頭をぐるぐると回る。
「…あのさぁ」
そんな堂々巡りをするユリウスに、アバトの声がかかる。
目線をあげれば、必死な表情が見えた。
「俺アイツのこと大っ嫌いだけどさ…。
多分、あいつ負ける気だったんじゃねぇかな、と思う」
「へ?」
「アイツなりの反旗の翻し方っつーかさ…。
多分だけど、今までもマスターにだけじゃなく他の連中にも似たようなことしてたんじゃねぇかな」
「卵を壊す役目、か?」
言われてみればそうかもしれない。
里一番の狩人にやられたのであれば、報復という選択肢はとりづらい。事実、ユリウスも一度諦めた。
「俺はマジでアイツ大嫌いだし、許せねぇ。けど、アイツさぁ、めちゃくちゃ使い魔大事にしてんじゃん。
使い魔に毒ぶっかけようとしたとき、本気で焦ってた」
「そうだな。モーラは戦闘向きじゃないけど、根気よく戦い方を教えてた」
モーラは戦闘向きではない。生まれたての頃は戦闘はせずに、運搬特化としてガイと活動していたという。けれど、今のモーラは戦えばそれなりに強い。それはガイが教え導いた結果だ。もしかしたらその教えは、卵を割られた人間が報復としてモーラに襲いかかることを想定していたからかもしれない。
「そんな大事にしてる奴がさ、人の卵割って、なんも思わないわけない、と思うんだよな」
「ガイおじさんも、里での立場があるから大っぴらに上に抗議はできない。
その上でできる抗議の仕方が俺に負けて帰ることだった、ってとか」
「アイツの気持ちとか知ったこっちゃねぇけどさ。
実際、俺ら実力でアイツらに勝ったし。でも、そうだとしたらマスターそんなに悩まなくてもいいじゃんって…思って」
段々尻すぼみになる声に思わず苦笑が漏れた。本当にアバトは優しい子だ。
「ありがとう、アバト」
「…別に」
そういう考え方もある、と思えるだけで少し気持ちは軽くなった。けれど、やっぱりなんだかんだ考え込んでしまうのはユリウスの癖なのだろう。
「たぶん、俺これからも何か起きたときに色々うじうじ悩んじゃう、と思う。性分なんだろうな。
だから、今みたいにアバトの視点から見えたこと教えてもらえるのは嬉しいよ。
…それでも考え込んでたら、とりあえず一旦放置しといてくれるか?」
「マスターほっとく使い魔ってそれはそれでどうなんだよ」
「確かにそうなんだけど…たぶん、消化するのに時間がかかってるだけ、だと思うんだよな。
だからその間悩んで周囲に気を配れなくなってると思うから、護衛しててほしい、みたいな?」
「悩むなって言っても難しいだろうしな。わかった。そうする。
…マスターいつか悩みすぎてハゲそう」
「それはヤダなぁ…」
笑いが漏れる。少なくとも、先程までのうじうじとした出口のないような気持ちからは脱却できた気がした。
やはり、人に話すというのは大事かもしれない。
一緒に悩んでくれる相棒がいるというのは本当にありがたいことだ。
「なぁアバトついでにもう一つあるモヤモヤ吐き出してもいいか?」
「どんとこい。ハゲないように手伝ってやるよ」
それから。
キリのこと。里のこと。これからのこと。
特に、キリのことは完全にユリウスの気持ちの問題でしかない。大切な幼馴染みではあるが、今から里に引き返すことなんて到底無理なのだから。
それでも、頭の中をぐるぐると巡っていた悩みごとを全部ぶちまけた。これらは全てユリウスにどうにかできるようなものではない。なるようにしかならないものばかりだ。いってみれば、悩んだってどうしようもないこと、である。それはアバトに話したところで変わらない。
実を言うと、それらの悩みごとは全て、本当はアバトに相談したくなかったことばかりだ。そんな小さなことでマスターはうじうじと悩んでいたのかと思われたくなかったから。
そのことも言ってみると。
「そりゃ同じことをいつまでもウジウジされてりゃヤダよ。
でも、それをやっちまうのがマスターなんだからしゃあないじゃん。
だったら『今何に悩んでるのか』って知れる方がマシ。俺視点からの意見で悩みが解消されれば一番いいし、話すことで整理されるかもしんないしさ。
とりあえず悩む前に言え。
…俺も、まぁ言えるよう努力するからさ」
とのことだった。
全く頼もしい使い魔である。
結局、その日は一日色々なことを夜遅くまで話し込んだせいで、出立が一日のびてしまった、というオチがついた。
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