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「どーだ?」


「うん、これなら作れると思う。

 ちょっとアバトは暇になっちゃうと思うけど…」


 村から離れたちょっと小高い丘の上で、ユリウスとアバトはアバトの毒についての研究をしていた。毒は戦闘においてなかなか有用な手段の一つと言える。ただし、デメリットもそれなりにある。魔物を倒したあと得られるはずの素材がダメになるというのもあるし、何よりその毒がユリウスにも効いてしまう可能性があった。そのリスクを回避するために、前もって解毒剤を作っておこう、というのが本日の目的である。

 村の中で蛇型になるのは躊躇われたので、今日は村近くの小高い丘に来た、というわけだ。ここなら見張らしもいいので、なにかが接近してきたとしてもすぐにわかる。まばらに生えた木の影で、今ユリウスは解毒剤の調合中だ。


「いーって。暇潰しにコレ借りていいんだろ?」


「アバトにとっては不愉快なこと書いてるかもしれないから、無理しなくてもいいんだぞ?」


「書いてたらあとで愚痴るからヘーキ」


 コレというのは里出身の薬師、カークスの手記だ。

 なんだかんだと忙しく、結局目を通すことができなかったシロモノ。今回解毒剤を作るついでに簡単な止血剤なども挑戦してみる、ということでアバトはそこそこの時間ヒマになってしまう。そこで、暇潰しがてら何が書いてあるのか確認しよう、というわけだ。

 人間嫌いで里嫌いのアバトが読むには何か辛い内容があるんじゃないか、という心配もあるが、アバトを信用することにした。本当に愚痴りたくなるような何かがあれば存分に聞いてやろうと思う。

 そんなこんなで数時間。

 懸命に作業をするユリウスの横で、アバトは真剣に手記を読んでいた。


(物語に差異、ねぇ。

 そういや行商人も伝説がどうとか言ってなかったか?

 その辺り確認してもいいかもしんねぇ。

 ってか、そもそも使い魔ってあんまりメジャーじゃねぇの?)


 使い魔と主人が二人三脚で進む里出身のアバトからすると、外の世界は違和感が一杯だった。まず、人間が驚くほどよわっちい。

 それは戦闘面というだけでなく、魔力の強さに関しても、だ。

 使い魔たちは主人の魔力をたっぷり吸収してから生まれてくる。卵の中にいる間のことは朧気だが、それでも与えてもらった魔力のお陰で主人を間違うなんてことは絶対にない。ちょっと遠く離れたとしても、アバトはユリウスを見つける自信があった。それはきっとそういう生まれだからだ、と思っていたがどうやら少し違う。

 この村の人間の魔力が驚くほど希薄なのだ。

 目の前にきてやっと「あ、魔力あったんだ?」と思える程度。

 ユリウスが特別なのかと思い尋ねたこともあるが、ユリウスは里では極々普通の魔力量だったそうだ。

 外の世界がおかしいのか、それとも里が特殊すぎるのか。

 正直後者だとは思うけれども。


(里から離れるための旅よりは、なんか色々見て回る旅の方が楽しいよなぁ。

 その物語の差異ってのとっかかりにならねぇかな?)


 メモ書きの後半は薬のレシピなようで、アバトには読んでもよくわからない。

 なので何度も薬師の手記を読む。


(こいつの使い魔、幸せだったのかな?)


 手記を見るに、薬師のカークスは使い魔を一応丁寧に扱おうとはしているようだった。それでも、言葉の端々にどうしても嫌悪感を抱いてしまい苦しんでる様子が見られる。使い魔は産まれる前から主人の魔力を貰ってきたせいか、例外なく主人を好きになる。アバトだってユリウスほど素直になれないだけで、何かあれば盾になってでも守る決意はしているのだ。

 そんな相手に、粗雑に扱われたら…。

 考えるだけで胸が苦しくなる。

 多頭に産まれただけでなく、災厄の子とかいうわけのわからないことを言われたアバトを庇ってくれたユリウス。注がれた魔力から、なんとなく人となりは分かっていた。ユリウスは争いをあまり好まず、平穏で静かな生活が好きなのだ。そんな彼を、全く落ち着かない逃避行に巻き込んだのは今でも申し訳ない気持ちになる。言わないけれど。

 ユリウスが嫉妬や主人としての負い目を感じているとすれば、アバトだってこんな生活を強いる原因となってしまった負い目があるのだ。これもいつか、笑い話として言えればいいと思っている。流石に今言うのは負担でしかないだろうから、まだ言わないが。


(っつか、使い魔ってそもそも何だよって話なんだけど…)


 卵から産まれるのは共通しているのに、産まれてくるものは全然違う。最初から多頭がうまれる余地がなければ、自分やカークスの使い魔のようなやつも出なかっただろうに。

 漠然と、与えられた魔力によって違う進化を遂げるのかと思ったがどうもしっくりこなかった。

 外の世界の常識を身につける傍ら、自分たち使い魔がなんなのかを調べるのも良い気がする。都会にいけば、もしかしたら自分と同じように使い魔を連れ歩いている人間もいるのかもしれないし。


(調べ物するっていったら本かな?

 本の多いところって何処なんだろ? そういう話も聞きたいから行商人ひっつかまえようそうしよう。

 人を騙そうとしたヤツもいるし、脅せばなんとかなるだろ)


 実際、アバトは何故かギーアに気に入られたらしい。ちょっと差し入れでも持って行けば口は軽くなるだろう。


「うっし、こんなもんかな」


 ぼんやりと様々なことに思いを馳せていると、いつのまにか色々仕込み終わったらしいユリウスが後片付けをしていた。慌てて、手伝う。


「何か面白いこと書いてたか?」


「うんにゃ、あんまり。あ、でもマスターは読めるかも。後半は全部薬のレシピだったから」


「そうなのか。

 上手くすれば旅の薬売りってことで路銀稼げるかもしれないなあ」


「あ、それいいな。

 売るのは俺がやってやるし!」


「はは、頼りにしてるよ。

 まずは解毒剤の実験だなぁ。いきなりぶっつけ本番はちょっと怖いから…」


「当然だろ!

 待ってろ、今適当にウサギでも鳥でも捕まえてくるから!

 ぜってぇ自分で実験とかすんなよ!?」


 恐ろしいことを言い出すユリウスにアバトが叫ぶ。

 ユリウスは笑いながら送り出してくれた。急いで適当な獲物を生け捕りにするために走る。

 アバトの毒が実戦に使えるようになるまで、あと少し。

閲覧ありがとうございます。


明日も12時頃更新予定です。


よろしくお願いします。

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