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突然だが、うちの使い魔のアバトはとても良い子だ。
どっかの里のジジババが酷い濡れ衣をおっかぶせたせいでちょっぴり人間嫌いではあるものの、大変良い子だ。賢くて強い上にとっても美人な蛇さんである。滑らかな白銀の鱗は光の具合で様々な色合いに変化する。そんな神秘的な美しさがあるのに、ご機嫌が尻尾や首に出やすくてとても可愛い。あ、人型のときも多分かなりのイケメンだ。このあたりはユリウスが美醜に疎いせいでなんともいえないけれど。
こんな風に褒め始めると、褒めるべき部分がたくさんありすぎて日が暮れてしまうので今回はこれで割愛するとして。
その、とっても良い子なアバトがこういった方面にも強かったのかという話をしたい。
きっかけは、今日のシカ駆除のあとだった。
「お金の使い方きちんと知っておきたい」
退治したシカを解体し、村に持って行って買い取ってくれそうな部位を運んでいる途中だ。翼の生えた彼は長時間でなければ空を飛んでモノを運搬することが可能になった。五つある頭を人間の手のように器用に使う。俺は羽の動きを邪魔しないように首の一つに抱きついてぶら下がっていた。
空中から見る景色は格別だった。が、落ちたら絶対に痛いではすまない。何よりアバトが気にするのでがっちりしがみついた。あとで馬の鞍のようなものを検討したほうがイイかもしれない。
「お金かぁ。俺もあんまりわからないもんな」
里は基本的に自給自足でユリウス自身もお金を使ったことは数度だけ。しかもおつかいだ。これからは自分たちで交渉しないといけないとなるとその辺りもきちんと学ばなければ。主人としてしっかりしなければ、という一方で「自然の中に行けば自給自足できるしなぁ」という気持ちがユリウスにあったことは確かだ。
だから、アバトがまずは一人で交渉してみたい、と言い出したときはちょっと驚いた。
「何事も経験ってやつじゃん?
マスターはしたことあるんだろ?」
「うーん、おつかいだけなんだよな」
「まぁ今回は元手タダだしさ、駄目そうなら手ぇだしてくれてもいいけど、いけそうなら手出しなしで見ててくれよ」
「そういうことなら。
あ、売るのはそっちの塊で、こっちのシカ肉はサラさんたちに渡すから」
「了解」
借りている納屋付近に一旦下りて、荷物を仕分けする。勿論アバトは今は人型になっている。どちらのアバトも可愛いが、人型のアバトは目が合わせやすく、意思疎通がよりしやすいような気がする。よくそっぽむくけれど。
村の外れの方にある納屋だが、多分村の人達は空飛ぶ白銀の蛇を見ただろう。もっとも初日に大騒動を起こしたので、今日も騒ぐような人達はいない。
二人で仕分けをしていると、気を利かせてくれたらしいサラの旦那さんが現れた。
「二人ともおかえりなさい。
なんだか荷物が多いように見えたんだけど、何か手伝おうか?」
「あ、いいところに。
これ、お土産です。良かったら食べて下さい」
人間嫌いのアバトに対応させることはない、とアバトに作業を任せてシカ肉を持って行く。子鹿だったので、多分肉もまだ軟らかいだろう。
「わぁ、いいのかい?
なんというか毎日すまないね」
「いえ。いっつも美味しいご飯わけてもらってますし」
「ふふ、なら今日も張り切って造らないとね。
そうそう、もし台車が必要だったらうちのを使って構わないよ、って言おうと思ってたんだ」
「いいんですか!
助かります」
「それとね。今村に行商人さんが到着したんだ。
もし売るなら直接売った方がお金になるんじゃないかな?」
と、台車と有益な情報を貰えた。
アバトも行商人に売ることは賛成なようで、張り切って台車を押してくれた。
「お? あんたらがあの里出身の人たちかい?」
「あれ? もう噂になっちゃってるんです?」
「そりゃまああの里は目立つからなぁ。
なんてったって伝説の最終地点だからな…っとそれより、その荷物。売ってくれるのかい?」
伝説の最終地点、という気になる言葉が出たが、今はまずお金を得ることを優先。といっても、交渉はアバトがやってみるということなので、ユリウスはまず見守ることにした。
スラスラと売りたいものと、その状態を告げるアバト。
行商人を見る目はちょっぴり人嫌いが見え隠れしているようにも見える。笑顔は笑顔なんだけど、ユリウスにはそれがわかってしまいちょっぴり苦笑する他ない。
「ふんふん、ならこんなもんか?」
提示された金額はユリウス的には妥当なものだ。チラリ、とアバトの方を見る。上がった口角と細められた目、何処からどう見ても笑顔なのだが、それに敵意が乗っていた。どうしたのだろう、と心配してユリウスが口を開くより早く、アバトが言葉を発した。
「ちょっと聞いてイイか?」
「な、なんだい?」
「アンタが提示してくれた金額、それって町に行けば何泊できるんだ?」
「そ、それは…」
「だと思ったぜ。
あのさー、俺らが里出身で金に馴染み無いからって流石にやりすぎだろ」
この会話でやっとユリウスも察する。この行商人はこちらに渡すお金をかなり値切っていたようだ。
こういう人間相手に、人間を嫌わないで欲しいというのもアバトには酷だろう。第一、人を騙そうとする人間はユリウスだって嫌いだ。
どうしたものか、と考えていると行商人の後ろからもう一人姿を現した。
「はっはっは。やらかしたな、グリー。こりゃ相手がわりぃ」
「アンタもそっち側の人間?」
突然現れた人間に、アバトは警戒心も露だ。だが、それをモノともせず、相手は笑い飛ばす。
「おう、コイツの行商人仲間のギーアってもんだ。
仲間が失礼して悪かったな。詫びとして言い値で買い取ってやろうじゃねぇの。
あ、勿論限度はあるがな。コイツの財布だって無限に入ってるわけじゃねぇから」
悪びれない態度に面食らってしまう。が、アバトはというと冷静だった。
「相場で買い取ってくれよ。
んで、ついでにモノの相場も教えてくれ。俺らイマイチそういうのわかんねーから」
「…ほぉ?
オマエらどっちが主人なんだ? 商売の見所あるぜ。
あの里出身にしちゃ珍しい」
「俺が使い魔。こっちが主人。いいから、ちゃんと教えろよ。
それで騙そうとしたのチャラにしてやるから」
「はっはっは。図太いな。いいぜ、値段分きっちり教えてやる」
ギーアとかいう行商人はすっかりアバトが気に入ったようで、色々と相場を教えてくれた。これから旅をするには最低限知っていたほうが良いものばかりでとてもタメになった。
最後にもう一つだけ、内緒話をするようにとっておきのテクニックとやらも教えてくれた。
「いいことを教えてやるよ。交渉事は相手にも花持たせてやんな。
それだけで敵に回らなくなるもんさ」
「へぇー…なるほどね。覚えておくよ」
ニヤリと悪巧みをするように笑う自分の使い魔の新しい一面を知ったユリウスだった。
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