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「っらぁ!!」


 アバトの気合いの入った声が聞こえる。その直後、ズシンと重そうな何かが倒れる音がした。それが、最後の一匹だ。


「っしゃー!

 おわりー!!」


「お疲れ様、アバトえらいぞー!」


 転がるシカ型魔物をひょいひょいっと避けて、アバトを褒めにいった。返り血とかで物凄いことになっているが、それよりも頑張ったアバトを褒めなければ。

 そんな使命感にかられて、ユリウスはアバトに近寄り、それぞれの首をぎゅーっと抱きしめた。返り血その他でちょっと汚れたが、あとで川ででも洗い流せばいいだろう。

 手のひらサイズだった彼は、今やこんなにも大きくなっている。ちょっと背伸びしないといけないくらいだ。滑らかな鱗にスリスリと頬ずりしていると、焦った声が頭上から聞こえる。


「わっ、ばかやめろって!

 汚れるだろ!」


 口ではそういうものの、本気で振りほどこうとはしない。

 というか、この状況で本気出されたらユリウスはスッ転ぶどころではなく骨の一本くらいイカれてしまう気がする。だからこそ、本気を出してないのもあるだろう。だが、これはそれだけではない。照れ隠しだ。照れ隠しなのだ。ユリウスにはその確信がある。根拠? そんなものはアバトの主であるからというだけで十分である。


「かーわいいなー。

 しかも強いしかっこよかった。

 俺が3体倒してる間に5体倒しちゃうんだもんなー」


「そ、れはほら、なんかちっこいのもいただろ!

 幼獣! あれなんかモノの数に含まれねーって!

 撫でるのやめろー!」


 五つの首に代わる代わる抱きついたり撫でたりしていたが、とうとう振り払われてしまった。仕方が無いのでこのあたりでやめておく。


「幼獣を守る母シカっぽいのもアバトが倒してくれただろう?

 子を守る親はやっぱり必死になるから凄く強いんだ。

 ちゃんと誇っていい」


「…そーかよ」


「そうだよ。さて、しかし大量だな…。

 このままにしておくと大変だから持ち帰れそうなのだけとって燃やすか」


 魔物の死体とはいえ可食部が多いタイプだ。このまま放置すると別の魔物を呼ぶこともある。必要なければ死体は燃やすべきだ。


「んーなぁ…マスター。

 これ、村に持ち帰ったら売れるかな?」


「売れるとは思うぞ」


 人間が食べても美味しい部位を持ち帰れば肉屋が買い取ってくれそうだし、そうでなくても少しはサラたちに持って行きたい。食べるなら幼獣が美味しいと思う。

 それと角や蹄は加工すればなにがしかの道具になるはずだ。今すぐ使わなくても腐る部位ではないので、きちんと保存していれば村が行商人に売ることも可能だ。


「んーじゃあさぁ。

 これ売ってみたい」


「いいけど、なんでまた」


「人間と、ちゃんとコミュニケーションとってみようかなって。

 あと、今後他の村とか町とかに行くなら金って必要なんだろ?」


 目線を合わせずモソモソとそんなことをいう。

 きっとアバトなりの歩みよりなのだろう。

 ちょっと感動してじっと見つめていると、五つの首が落ち着かない感じで揺れた。


「何見てんだよ! 人間を上手に利用してやるからなって話だよ!

 ニヤニヤすんな!!」


「わかったよ。わかったけど、ちょっとまって。

 ニヤニヤ抑えるのちょと大変そうだ」


「素直に自己申告してんじゃねーよ、ばーーーーーか!」


 ベッシンベッシンと尻尾が大暴れしているが、もう可愛くて仕方がない。もし今の声や表情を永遠に記録できそうなモノがあればいくら借金してでも買いたいくらいだ。

 残念ながらそんなものはないし、借金しようとしたら止められそうなのでしないけれど。


「もー!!

 解体すんぞおら!」


「わかったわかった。

 そう急かすなって。

 …そうそう、戦い方なんだけど二人で多数の相手を挟み撃ち出来る場合はこれでいいとして…」


 もう少しこの喜びの余韻に浸っていたかったが、あまりしつこいと嫌われてしまうかもしれないと思いぐっと堪える。

 ついでに話題も変えて頭を切り替えようと、先程の戦闘についても聞いてみた。

 アバトもその意図に気付きつつ、真剣に討論することが出来たのでこれはかなりの収穫だ。

 もとより、それぞれがそれなりに実力を持っていた。あとはそれをどう組み合わせて真価を発揮するか、という段階なのだ。


「そういえば、他に出来そうなこと増えたか?」


「んー…なんとなく、だけど。

 俺あんまりパワーファイターっぽいのじゃないじゃん?」


「そこは俺に似たのかなぁ。魔力注いでたの俺だし」


「だー! 別にそれはいいんだって!

 お互いスピード重視型なら相性悪くはねぇだろ。

 そこじゃなくって! 俺どっちかっていうと足止めのが得意かもしんねぇなって」


「ほお?」


 解体の手は止めずに先を促す。


「雷も、それで心臓止めるってよりはちょっとでも触れたら動けなくしてやるぜって感じだし。

 あと、使う気はねぇけど、多分毒も出るんじゃないかな」


「えっソレ聞いてない」


 思わず手を止めて振り返れば、淡々と作業をするアバトの姿が見えた。

 それぞれの口で器用に持ち帰るモノを先程得た蛇皮の上に並べている。

 よく考えれば、里でも毒を持つ蛇には結構苦戦させられたものだ。何があっても絶対に攻撃を受けるわけにはいかないのだから。

 薬師の残していった解毒剤もあったし、なんなら解毒剤だけは作り方を皆覚えていたため毒蛇のせいで死に至る人はほぼいなかったけれど。それでも、毒を食らえば一大事ということはユリウスにも十分わかっている。


「今初めて言ったもん。

 …毒は、ちゃんと調べてからじゃねぇと使いたくない。

 うっかりしてアンタに害があったらヤじゃん」


「なるほどなぁ。

 じゃあ今度アバトの身体調べてみてもいいか? 多分血清もあると思う。解毒剤の作り方は覚えてるし、やり方が通用しなくても薬師としての知識でどうにか出来るかもしれないし…」


「それはいいよ。

 でも、ちゃんと安全ってなるまでそれはぜってーつかわねぇからな」


「わかってるって。不慮の事故ならまだしも、大事な使い魔を傷つけた上に置いて逝くとか俺も絶対やだし」


「わかってんならいい」


 声音から、かなり悩んだ結果告げた言葉だということが伝わる。そして、きちんと伝わったようでほっとしている、ということも。

 やはりうちの使い魔は可愛い、と確信するユリウスだった。

閲覧ありがとうございます。


明日も12時頃更新予定です。


よろしくお願いします。

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