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 孤児の家は現在、ユリウスとキリの二人暮らしだ。二人だけなので一応それぞれの部屋のようなものはある。元々は男部屋と女部屋という風に別れていた場所だ。ただ、キリが寂しがるのと、部屋を使いすぎると掃除が面倒になってきてしまうので、基本的に中心にある大部屋で生活している。

 その中の一角に卵専用のスペースがあった。成人前は基本的に卵を肌身離さず魔力を注ぎ続けているものだが、それでも例外はある。寝るときなどに抱えたままで潰してしまえば目もあてられないからだ。

 その卵専用スペースに卵を置いて、愛用している双刀を装備する。少し前に戦った大きな虎型の魔物の牙から加工したものだ。ちょうど良い重さと切れ味で重宝している。卵を一撫でして「いってくる」と声をかけ、里の外にある樹海へと向かう。

 鬱蒼とした樹海だが、ユリウスにとっては慣れたものだ。狩りに慣れ始めた頃に迷子になって三日ほどさまよった経験もある。子供がそれだけの期間さまよっても飢え死にしない程度に恵みがある場所だ。

 ただし、魔物を倒す腕がある場合に限るけれど。


「捌きやすい魔物がいいな…」


 里周辺の魔物であれば、大体は一人で倒せるようになった。行動パターンも全て頭に入っている。ただ、その中でも捌きやすいものとそうでないものがいる。あと、食べて美味しいやつと、そうでないものも。

 そんなことを考えながら、枝をはらいつつ樹海を進む。

 と、前方から草木をバリバリと音を立てて破壊しながら進んでくる何かの気配を察知した。


「手負いかな? 誰かの獲物っぽいけど」


 普通獣はわざわざ音を立てて歩いたりはしない。そんなことをしたら自分の所在地を周囲に知らしめながら歩いているようなものだ。よっぽどのツワモノでない限りそれは自殺行為だ。

 特にこの樹海に住む魔物たちは、自分たちが一番強いわけではないというのをイヤというほど知っている。里の人間がたまに現れては同族を狩っていくからだ。逆に里の者が返り討ちにあうこともないわけではないけれど、里の人間は狩りに行くような年齢になるとまず魔物の怖さを叩き込まれる。自分の実力を思い知らされ、楽に狩れるような相手以外はすぐさま逃げるよう教えられるのだ。

 しかも、魔物にとって人間は食べる部分が少ない、言わばオイシくない獲物だ。味はどうだか知らないけれど、わざわざ食べるために襲ってくることは少ない。

 話が脱線したが、ともかく、わざわざ音を立てて樹海を進むなど「狩ってくれ」といっているようなものだ。それでも、なぜあえて音を立てているか、と考えたときに真っ先に思い付くのが誰かにやられたから、である。音を気にする余裕がなく、ただ必死に逃げ回っているというのが考えられた。

 手負いの魔物は死に物狂いで信じられない力を出すこともある。不意打ちでやられないように警戒しながら、気配がする方へと向かった。

 そうして音のする方へ近づいていくと、音のヌシが現れた。ユリウスが視界にとらえたのは三つの頭を持つ狼だった。ユリウスが見上げる程度の大きさだ。ただ、やはり手負いなようで、左右の頭の目が潰されている。


「こういう狩り方するのって誰だろう?」


 里の人間の顔を思い出す。

 ユリウスでも時間をかければ倒せる相手だ。ユリウスよりも狩りが上手い者であれば一撃で仕留めてこんな傷はつけない。逆に下手な者であれば傷をつける前に退散しているだろう。

 不思議に思って首を傾げていると、魔物の向こう側から声がかかった。


「ユリウスかー? しとめていいぞ!」


「了解!」


 のんびりとした低く響く声には聞き覚えがあった。

 よく孤児の家に差し入れに来てくれるガイおじさんだ。

 彼は里一番の狩りの達人でもある。大斧の使い手で、筋骨隆々としたパワーファイタータイプ。ちなみにその斧で、里に必要な薪もとってきてくれる人だ。

 許可の声を聞いて、ユリウスは双刀を構えた。幸いなことに魔物は視力をほぼ失っており、こちらのことも嗅覚でおぼろげにしかわかっていないようだ。


「せいっ!」


 一人であれば少し苦戦するサイズではあるが、相手は手負い。しかも、万が一のことがあってもきっとガイおじさんが助けてくれる。そういう安心感があったため、気負わず一撃を食らわせることができた。

 狙い通り、ユリウスの斬撃は左側の頭を落とす。


「おー。成長したなひよっこ」


 やけにのんびりした声と、魔物の悲鳴をBGMにユリウスはテキパキと残りの頭も落としにかかる。時間にして約数分程度かかった。

 一人でやっていれば倍くらいの時間はかかるのでユリウスとしては得をしたと言える。


「及第点ってところか」


「減点理由は?」


「そりゃお前、もともと手負いなんだから満点やるわけにはいかんだろ」


「確かに」


 もっともな理由にうなずく。

 すると、ガイおじさんの後ろから穏やかな女性の声が聞こえてきた。


「マスター。これは食べてもいいですか?」


「モーラ…待て。

 コイツにきちんと取り分渡してからだ」


 のっそりとガイおじさんの後ろから大きな牛型の使い魔が現れる。ガイおじさんの使い魔のモーラだ。


「…全部食べてはダメなのですか?」


 モーラの声は大変不満そうだが、ガイおじさんは容赦がない。


「お前がちゃんと仕留められてれば、これ全部お前のだったんだぞ?」


 ガイおじさんにしては怪我の具合が小さいと思っていたが、なるほど、と納得した。この魔物はモーラの狩りの練習用だったようだ。

 ガイおじさんであれば一刀両断しているような魔物だ。だが、彼女の練習用であればあの傷のつき具合にも納得する。


「モーラくらい大きな子になると、餌の量も大変そうですね」


 モーラはあまり戦闘力がない分、運搬に適した使い魔だ。里一番の狩人であるガイおじさんとも相性がいい。どんなに大きな魔物でもその怪力で里まで運んでくれる。

 ただし、燃費があまりよくないらしく、かなりの大食漢だ。

 人型になるとそれなりに食欲は抑えられるらしいけれど、それでも成人男性三人分くらいなら軽く吸い込まれてしまう。人型の彼女は赤髪の美人なだけに、その食べっぷりのギャップはちょっと面白かった。

 それと同時に、そんな食欲旺盛な彼女の取り分をたくさん減らすのは少し申し訳ない気持ちになる。


「で、どんぐらい持ってく?」


閲覧ありがとうございます。


暫くは一日二回更新を頑張ります。


更新の励みになるのでブクマや評価よろしくお願いいたします。

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