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 思い出すのは、里周辺にいたとある魔物だ。

 モグラ型のそいつらはあまり大きい方ではなく、小型で群れる傾向があった。そのため一匹見かけたら10匹は周りに潜んでいると思え、とよく言われたものだ。

 実際その言葉は嘘ではなく、一匹見かけてソイツを倒そうとすると、周りにいた数匹がわらわらと現れて逆に袋だたきにしようとしてくるのだ。ちなみに、何故かその魔物はモグラ型のくせに、シャベルやらスコップやらツルハシやらの道具を持っている。そのせいで、一撃は意外と重いので注意しなければならない。

 ユエル村周辺にあの魔物がいるかどうかはわからないが、少なくとも群れる習性を持つ魔物というのはどこにでもいるだろう。むしろ、今まで出会わなかったのが幸運だったと言っても良い。

 だからこそ、ユリウスは心配なのだ。


「んー…でもさぁ。

 群れてたら俺多分匂いで分かる、と思うんだよな」


「それは…そうかも?」


 確かにアバトの索敵能力は高い。

 ユリウスが気付かない距離から魔物を正確に探知していた。


「……うーん」


 アバトの成長のチャンスだとは思う。けれど、心配だ。

 振り子のように揺れる心。だが、悩むユリウスが答えを出すのをじっと待っているアバトを見て、返事を決める。


「一時間だ」


「え?」


「索敵に一時間。戦闘後獲物を持って帰ってくるのに脚が遅くなることを考慮して、それ以上の単独行動は認められない」


「じゃあ、いっていい、のか?」


「他にも注意したことをちゃんと守れるなら…」


 正直、行かせたくはない。

 けれど、それでは過保護すぎるのではないかとも思う。何より、誰にも守られず一人で魔物退治が出来たら、それはきっとアバトの自信に繋がるはずだ。

 正直不安で仕方が無いけれど、可愛い子には旅をさせろっていうし…。


「格下の、単独行動してるヤツしか狙わねぇ。ちゃんと約束する」


「ん、よし。

 あと何も成果がなくてもいいから無事に帰ってきてくれ。帰る時間が遅くなるだけで俺の

寿命が縮む…」


「自分の命を盾に使うなよな!?」


「いやでもほんと、そんな感じなんだって…。

 今でもやっぱナシって言いたいの我慢してるんだぞ、俺は」


 血の涙が流せるのであればきっと今流しているに違いない。それほどまでに、ユリウスにとっては苦渋の決断だ。

 これも、もう少し後になれば笑って思い出話として語れるのだろうか。


「もー…過保護で心配性なマスターを持つと大変だよな。

 じゃあパパッと行ってすぐ帰ってくるぜ。

 マスターはたまの休みってことでのんびりしててくれよな」


 目の前の少年はニカッと笑うと元気に手を振って出て行った。

 村人の目が無くなったところで蛇型に変化するのだろう。


「ああ、やっぱ追いかけた方が良かったかな…」


 アバトの姿が見えなくなるまで、断腸の思いで見送っていたユリウスだが、姿が見えなくなると途端に不安がこみ上げてきた。

 数分うろうろと納屋を出たり入ったりしていたが、最終的にボフッと干し草ベッドに倒れ込んだ。


「…だめだ。何か身体を動かさないと…時間の進みが遅すぎる。

 そうだ、村の人にかけあって雑用でもこなそう。

 そういえばアバトがまた成長して帰ってきたらベッドが小さいかもしれないな。手伝いをして干し草を分けて貰うか…あ、あの羽毛をどうにか布団代わりにできないかな」


 今できる雑用を必死に考えるユリウス。

 少なくとも無心で手を動かしていればなんとかなるだろうという魂胆だ。

 だが、残念ながらこのたったの一時間の間に、ユリウスの頭からアバトのことが離れることはなかった。



●○●○●



「うーん。大物倒しでビックリさせよう作戦はナシかぁ」


 いたずらが阻止された子供のような顔をする。ただし、今のアバトは蛇型なので、その表情を読み取るのは主人であるユリウスでも困難…かもしれない。いや、ユリウスならやりかねない気もするが。


「でもまぁ、日頃のお礼? はできるよな

 狩るぞー!」


 アバトの鼻は既に複数の魔物の匂いを捕らえている。

 昨日、一日に二種類もの魔物を食べることが出来たというのが急成長に繋がったのだろう。もしかしたら、人間に邪魔されなければ産まれたときからあれくらい役に立てたかもしれない、と思うととても腹立たしい。


 アバトは、人間が正直に言えば嫌いだった。


 というよりも、どうして好きになれるだろうか。

 無理矢理この世に引っ張り出され、産まれたときに聞いたのは自分の主人となる人間の慟哭。好きになれる要素なんて一つも無い。

 ただ、そんなことを言うと、きっと優しい主人は悲しい顔をする。

 だから、言わないだけで。

 本当であれば人間に愛想笑いをするなんて言語道断、くらいの気持ちだ。けれど、自分が愛想を振りまくことで主人が得をするのならばそれくらいお安いご用である。

 ただし、それも里以外の人間だけど。

 もし、今目の前に里の人間が現れたら自分はどうなるかわからない。

 自分が殺されかけたこと、何より、主人の、ユリウスのあの悲痛な叫びを思い出すだけではらわたが煮えくりかえる。


「っと、やべ。

 臭い複数あるじゃん」


 怒りにまかせて疾走していたが、問題発生だ。

 ユリウスとの約束は、絶対に守らなければ。一番最初、アバトが使い魔失格と言っても過言ではない無断で傍を離れたことも、彼は叱る程度で治めてくれた。

 その信頼を裏切ることはできないのだ。


「固まってるから巣でも作ってるか?

 ケモノじゃないっぽいな。これは後で報告しよう」


 複数でいる魔物に興味は無い。今日のところは。

 新たな獲物を探してヒクヒクと鼻を動かす。

 アバトの五つの首のうち、そういった偵察に炊けているのは右から二番目だ。他の首もそれぞれ何か得意なことがある、気がする。

 ただ、まだまだ魔力が足りなくて真価を発揮できない。

 はやく、強くならなければ。

 一人前になって、やっと恩に報いる準備が整う。そんな気がする。

 この気持ちや知識が何処からやってくるのかはわからない。けれど、それはとても些細なことだ。

 ユリウスがよければそれでいい。


「…あっち、水があるのか?

 水場の魔物って食ったことねぇな」


 約束の一時間まではあと少し時間がある。

 アバトは急いで水の臭いがする方へと向かった。


閲覧ありがとうございます。


明日からは毎日1回12時の投稿ペースにしたいと思います。


今後とも是非よろしくお願いいたします。

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