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「ユリウス! ユリウス!」
「どした? アバト~」
突然だが、うちの可愛い使い魔を紹介したいと思う。なめらかな鱗と五つの頭を持つ、可愛い蛇型の使い魔だ。名前をアバトと言う。
「呼ンダ、ダケ!」
まだまだ発音は怪しいが、それでも意思疎通は可能となった。アバトもそれが嬉しいらしく、気分良さそうに尻尾をユラユラとゆらしている。
彼が意思疎通出来るようになったのは、今日の夕食のお陰だった。
「ん? おまえも食べたいのか?」
サラの家にお呼ばれして、今日倒した魔物の肉をふんだんに使った猪肉のシチューをごちそうになる。
サラの家庭は、家の中のことを旦那さんが、外のことをサラがやるらしい。この料理も旦那さんのお手製だ。もともと食べる予定だったいつものメニューを変更して腕を振るってくれたのだという。
そんな美味しそうな料理を、使い魔がじーっと見つめていたのだ。
「おや? 食べられそうかい?」
穏やかそうに笑う旦那さんが、気を遣ってそう声をかけてくれた。
だが、ユリウスとしては先程腹一杯アントを食べたところを見ているので、お腹を壊さないかちょっと心配だ。
まさかこの小ささでモーラ並の大食漢なのでは、という心配もあったりする。
「どう…なんでしょう?
あ、大丈夫です。俺のを一口わけるんで」
ほら、と皿を向けてやる。もしかしたら何か好物がわかるかもしれない、という期待もあった。
「ギィ~」
上機嫌な鳴き声を出して啄んだのは、柔らかく煮込まれた魔猪の肉だ。
そこまでお腹が空いていないのか、それとも味が気に入ったのか、ゆっくりと味わって食べている。
「気に入ってくれたみたいだねぇ。美味しそうに食べてる」
使い魔との関わりが薄いであろうサラや旦那さんから見ても、美味しそうに食べているように見えるらしい。ユラユラと尻尾がリズミカルに揺れている。
ユリウスが目を見開いたのはその直後だ。
「ユリウス、コレ、オイシ! オイシ!」
幼いような、でも何処かざらついたような声音。発音は滑らかではなく、どこか引っかかっているような感じ。
それでも確かに聞こえてきたそれは、まさしく自分の使い魔のものだった。
「!?
おまっ…いま、しゃべっ…!?」
突然の事に行儀も忘れて立ち上がる。ガタンと椅子を鳴かせてしまったが、それどころではない。手のひらサイズの使い魔を持ち上げて問いかける。
「???」
突然の抱きかかえられた使い魔はキョトンとユリウスを見返している。本人も何が起きたかわからなかったようだ。
「えーと、今、おまえ喋った、よな?」
もしかして、使い魔可愛いの感情が高ぶりすぎて幻聴でも聞いたのだろうかと不安になってしまう。恐る恐る問いかけると、五つの頭がウネウネ動いた。
「ユリウス、ユリウス!」
「うんそう、俺はユリウスだよ。
じゃあ、お前の名前は?」
少し緊張しながら問いかけた。この興奮をなんといえばいいのだろう。
興奮とか、緊張とか、喜びとか、期待とか。
色んな感情が混ざり合って、少し声が震えた気がする。
「アバト! オレ、アバト」
昨日までは「あぁと」としか発音出来ていなかった。だから、名前を呼ぶに呼べず、少し寂しい思いをしていたのは事実である。
アバト。
口の中で、やっと聞けた名前を転がす。少し喉がつっかえそうになった。込み上げそうになった嗚咽をなんとか飲み込んで、出来るだけ優しい声音を意識して声をかける。
「アバト」
「ユリウス、オレ、アバト!」
「うん。うん。
やっと名前が呼べるな」
それから。
アバトに強請られるまま食事をわけあたえ、サラからは「祝いだ!」と酒を飲まされそうになったりと色々あった。
たまたま通りすがって助けただけだけれど、アバトの存在や名前を呼べたただそれだけのことを一緒に喜んでくれたサラ夫婦には足を向けて寝られない。それくらい感謝している。
故郷でアバトの存在が許されなかったから、なおさらだ。
そんな調子で夕飯をご馳走になり、今に至る。
ちなみに、アバトはそこまで大食漢ではないかもしれないというのが現在の印象だ。というのも「強請ると主人であるユリウスが分け与えてくれる」という状況が嬉しいようなのだ。その証拠にサラの旦那さんが新しくよそってこようか、と気を遣ってくれたのだがそれには元気よく「イラナイ!」と答えていた。要するに、甘えたい時期だったのだろう。
人間で言えばまだまだ幼児。知能は高くても甘えたい年頃だと思えば愛しさも倍増だ。
「それにしても…なんで急に喋られるようになったんだろうな」
薄暗い納屋の中はもう何かをするには不向きだ。干し草のベッドにゴロリと寝転び、闇の中に視線を向ける。そよそよと風が草を撫でる音がした。
「ゴハン、オイシ、カラ?」
「そういえば喋られる直前に食べたのは魔物の肉だったか…。
色んな魔物を食べたら成長促進、か。ありえないとも言い切れないな」
アバトは成熟する前に殻を割られ、無理やり外に出されてしまった。生命を維持するために色々な力を使い果たしてしまったというのは十分に考えられる。
そして、その使い果たした力を補充するために、魔物の肉が適しているというのはあり得る話だ。
「明日から少し周辺の魔物退治をしてみようか。あんまりたくさん狩るつもりはないけど…」
魔物だからといって根絶やしにしなければいけないわけではない。
どうもこの村の人たちは魔物に対する備えがない分、魔物のことを驚異に感じているようだけど。
使い魔という存在がいるせいか、里では魔物も世界の一部と捉えていた。彼らが存在するお陰でなんらかの益が生まれている、と。その益は普通の人間には感じられないだけだ。
里には色々言いたいことはあるが、この教えはそこまで間違ったものではないとユリウスは考えている。
「オイシ、タクサン?」
「んー…美味しいかはわからないけど、いたら狩るつもり。
そういえば…」
言葉にしかけて、それを飲み込んだ。
使い魔であれば大概戦闘手段を持っている。だから「戦えるか?」と聞こうとしたのだ。
けれど、もしまだ戦えなかったら聡いアバトは気に病むかもしれない。人間の都合で無理に外に出されたアバトは、まだ戦えなくても仕方ないのに、だ。
そんな思いをさせるくらいなら、アバト自身が戦うと言い出すまで待ってもいいだろう。
「ソーイエバ?」
「一緒に寝るつもりか?って思ったんだよ。
潰しちゃいそうだなぁと。久々にぐっすり寝て、下敷きにしたらやだなぁって」
「ムゥ…ヘーキ! イッショ!」
干し草はシーツをしいてもチクチクしたけれど、アバトとの会話は楽しくて。
いつの間にか睡魔に負けて寝入っていた。
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