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「んじゃ、この納屋を使っておくれ。

 前使ったやつのモノとか落ちてるかもしれないけど、最低限寝られるはずだから」


「ありがとうございます、助かります」


 アリの魔物ソルジャーアントというらしいを倒してから、サラたちに連れられて村の人間に挨拶にいった。村人たちはかなり友好的だった。それもそのはずで、この村では戦闘ができるような人はあまり多くないらしい。ただ、この村の特産である砂糖が都に限らず全国どこでも需要があるため、定期的に商人がくるのだとか。その商人に護衛としてついてくる人物がついでに周辺の魔物を倒してくれるためそこまで困ったことがないのだという。

 そんな背景もあって、戦力となるユリウスはそこそこ歓迎されているようだ。


「前に使った人というと…」


「ああ、アンタと同郷と思われる男性だよ。

 線が細い男の子と一緒にいたね。その子が多分使い魔だったんだろうけど」


「あの、どんな使い魔だったか覚えてますか?」


「うーん…その男の人、カークスって名乗ってたんだけどさ。彼が魔物の姿にすることを極端に嫌がってたみたいだからわからないんだよ」


「あーそれなら俺直接使い魔本人に聞いたぞ」


「ロイドさん、それホントですか?」


「おう。なんでも魔物の姿になると頭が二つの鳥になるんだとさ。片方から氷を、片方から炎を吐けるからそっちになったほうが狩りでも役立てるんだけど~って残念そうにしてたぜ」


「双頭…なるほど」


 里では多頭は何故か忌み嫌われる。

 だからこそ、薬師の彼も里の外に出たのだろう。


「多頭で生まれてきただけで、何も悪くないのにな…」


 思わず自分の使い魔の頭を撫でる。

 まだ名前もわからないけれど、たかが頭の個数がちょっと多いくらいでそんな風な扱いを受けるのはやはり理不尽だと思う。


「なんでそんなに多頭を憎むんだかねぇ。

 双頭の鷲を神様にしてるところだってあるらしいじゃないさ」


「えっそうなんですか?」


「そうそう。つっても俺らも又聞きの又聞きぐらいだから信憑性は保証しないけどな」


「いえ…情報があるだけでも凄く嬉しいです。

 自分は外の世界のことって、ほとんど知らないので」


 多頭でも許されるばかりか、神様として祀られているところがあるだなんて思いもしなかった。目から鱗が落ちるとはまさにこのことだ。


「里では許されなくても、外の世界に行けば平穏に生きていける…みたいな。

 そんな感じがして嬉しいです。な?」


「ギィ~」


 きちんと言語が理解出来ている使い魔は嬉しそうに鳴いた。


「アンタとその子は仲良しなんだね、いいことだ。

 っと…肝心なことを聞くのを忘れてたよ。

 その子はその…魔物って食べるのかい?」


「あ、いえ…まだ食べれなさそうなんですが…ん?」


「ギッギッギ~!」


「もしかして、食べれそう?」


 村までの道中ずっと、使い魔はユリウスの魔力を摂取してきた。言わば乳飲み子みたいなものだ。


「…肉より虫の方が消化がいい、とか?

 んなわけないか。でもなんか食べたそうなんで一体分貰ってもいいですか?」


「一体どころか貰ってくれるなら全部食い尽くしてくれるとありがてぇな。

 獣系の魔物ならともかくアリなんて食えやしねぇし」


「確かに…。でも、皮膚の部分はかなり固そうでしたから防具には適してるんじゃないかな?

 それに動きを見てると顎部分は相当固そうだから、上手く使えば農具にも転用できたりとか…」


 あとで詳しく見てみないとわからないけれど、色々活用出来そうな魔物ではあった。表面が固いというだけでも色々アレンジ出来そうである。

 里にいた頃から、器用な手先をいかして色々な道具も作ってきた。


「農具か…いいね。もし作れたら見せてくれないかい?

 出来によっては買い取らせて貰うよ」


「…あ、そうか。村ってことはお金がいるんでしたっけ!?」


 里で暮らしているとどうにもそういった通貨という概念が分かりづらかった。計算は人並に出来ているつもりではあるけれど、お金を貰う、払うといった行為を忘れそうになる。


「あそこの里は基本物々交換なんだっけ?

 まぁここで慣れておいた方がいいよ。ここから先は通貨使わないなんてとこはほぼないんだからさ」


 サラとロイドにアドバイスをもらい、暫くはアリで道具作りや村の近くの魔物を駆除してお金を貰う生活となった。

 その間ずっと使い魔は胸ポケットの中で良い子にしていた。

 が、二人がいなくなってすぐ、ユリウスをつついてくる。


「あはは、そんなにお腹すいてたのか?

 話が終わるまで我慢できてえらいぞー」


 本当はこれから暫く寝る場所になる納屋の中を見ておきたかったのだが仕方が無い。普段良い子にしている使い魔が急かすのだから相当お腹が空いているのかもしれない。


「お前もしかしてモーラくらい食べるのかな?

 そうだとしたら頑張らないと」


 村の人が気を利かせて(もしかしたら、魔物の死体の処理に困って持ってきただけかもしれないけれど)持ってきてくれたのだ。


「んー…この固いとこってかじれる?

 剥いてやったほうがいいかな?」


 魔物の必要な部分を捌く技術は習得している。確かにアリの魔物は初めて見たけれど、大体は今まで見たことある昆虫と似ているだろう。特徴があるのはこの固い皮膚の部分だろうか。


「ギッギィ~」


 素材となる部分があるか点検しながら、使い魔を地面に下ろしてやる。使い魔はご機嫌でアリの傍によっていき…。

 ゴキリ、という固いモノをかみ砕く音。

 それから…グシュとかグチャとかいう音が聞こえてきた。


「あ~……」


(使い魔のお食事風景ってそういえば結構アレだったっけ)


 初めて見たときは恐怖のあまりに泣いてしまったっけ。里周辺の魔物は大型の獣が多く、倒したばかりの獲物から飛び散る血液が顔面にかかったのだ。

 大きな使い魔になれば丸呑みにしてくれるのだが、ユリウスの使い魔は小さい。

 そして頭は五つ。

 それがアリの固い皮膚もなんのそのとかみ砕き、身の部分を咀嚼している。

 見せられないよ。


「でもお前顎丈夫なんだな。そういうの知れただけでもまぁいいか…っと、待ってくれ。素材になりそうな部分まで食べないでくれよ!?」


 結局、かなりのグロなお食事風景に全部付き合いながら素材を選別していくことになってしまった。

 これはもう慣れるしかない。

 ふぅ、と一息ついたところで小さな声がかかった。


「ゆぃぅす」


「…ん?」


閲覧ありがとうございます。


おかげさまで10話目となりました。


良ければブクマや評価をしていただけると作者のモチベーションに繋がります。


もう暫くは昼と夜の一日ニ回更新をがんばりますのでよろしくお願いいたします。

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