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ユリウスの生まれた里は大陸の端。世界の果て、と呼ばれる樹海の奥だった。
ここから先は人が住めない魔の領域と呼ばれ、魑魅魍魎が跋扈している、と言われているらしい。
らしい、というのはユリウスはそのことを行商人から伝え聞いただけだからだ。
真偽の程は定かではない。何故なら普通の魔物なら、里の周辺でウロウロしているのだ。魑魅魍魎と呼ばれるモノがどんな恐ろしいモノなのか、ユリウスにはサッパリ見当がつかない。
ちなみに、そんな辺境のド田舎で育ったということすら後からわかったことだ。
辺境のド田舎では、都会生まれの人間から見ると変わった風習があるらしい。
その最たるものが使い魔と呼ばれる存在だろう。
この里に生まれた者は、出生してまもなく卵を与えられる。使い魔の卵だ。
その卵に魔力を注ぎながら共に成長し、きちんと孵化できた者から一人前と見なされる。大体は15,6歳で孵化するが、6歳くらいで孵化した早熟な者、逆にいくつになっても孵化しない者も勿論いる。
昔はあまりに早すぎても遅すぎても里八分になっていたらしい。使い魔を死なせてしまった者も同様だ。
けれど、今では大分おおらかになった、と里の老人は言っている。どれもこれも、伝え聞いた話ばかりで実感がわかないけれど。
「とはいえ、やっぱり平均的な使い魔が一番だよな。
種類も、産まれる時期もさ」
平穏な日々を好むユリウスにとって、目下の悩みは使い魔のことだった。
ユリウスはまだ成人していない。身体的にはちょっと筋肉がつきにくいものの、成人男子と言われても違和感がない程度には成長したと思う。しかし、この里では本人の成長具合は関係ないのだ。
ユリウスの卵は順調に成長しているものの、今すぐに孵化をするといった感じではないようだ。そのことに不安とも不満ともつかない感情を持っている。
勿論、生まれてからずっと一緒にいて、毎日毎日魔力を注いで可愛がってきたのだから、生まれてきてくれること、それ自体はとても楽しみだ。
けれど、楽しみだと浮かれてばかりもいられないのが現実だった。
あまりにも人と違いすぎる使い魔が生まれた場合、周囲の目が変わってしまうからである。
「んー…キリは元気に生まれてくれればそれでいいなぁ」
ポツリと誰にともなく呟いた言葉に返事をしてくれたのは幼馴染みのキリだ。
卵を抱えている彼女に微笑みかける。彼女はユリウスと共に孤児の家で育った。孤児の家は、不慮の事故などで親を亡くした子供たちを、里のみんなが援助してくれる場所だ。
昔は孤児の家にもたくさんのこどもがいたらしい。現在では、キリとユリウスの二人がいるだけだ。年齢が近い人間は里にも何人かいるけれど、将来的にはキリをお嫁さんにもらうんじゃないかな、とユリウスは漠然と考えていた。
そうは言ってもキリはユリウスよりも5つ下だ。彼女はまだまだ幼い。背丈だってユリウスの胸の辺り。淡い水色の髪にくりくりとした赤茶の目がとても愛らしく、守ってやりたいと常々思っている。だが、今はまだ保護者のような気分だ。そんな未来がくるとしても、きっとそれは当分先のことになるはずである。それまで心穏やかに過ごせればそれに越したことはない。
ただ、彼女の卵はユリウスのものと遜色ないほどに大きかった。
ユリウスの卵は薄いクリーム色に濃い藍色の模様が稲妻のように走っている。対するキリのはユリウスの卵と同じか、下手をすれば大きい。模様も淡い水色と白がキレイな螺旋を描いていた。
大きければいいというわけでも、キレイであれば立派というわけでもないけれど、ちょっと焦ってしまう部分はある。もしかしたら、年齢など関係なく彼女が先に一人前と見なされるかもしれない。兄貴分として、そこはちょっとだけもどかしかった。
「俺もキリくらいの頃はそう思ってたなぁ…」
年齢を重ねるにつれ、周りが見えてきてしまう。
孵化した使い魔の優秀さで、里の老人は露骨に贔屓や差別をする。
ある程度の年代になると贔屓や差別の目は柔らかくなるが、それでもふとした拍子にイヤミややっかみが出てくるのだ。しかも無意識にしているからタチが悪いと思う。
おそらくではあるが、ユリウスやキリの親、過去に孤児の家にきた子供たちの親はそういう里に慣れることができず出ていったのだろう。もしくは、追い出されたか…。里の老人たちに睨まれるのは避けたいので調べたことはないけれど、ユリウスはそう確信している。
里の権力者である老人たちがそういう雰囲気であれば、使い魔に恵まれなかった人たちはさぞ居心地が悪いだろう。実際、ユリウスとキリが並んでいると露骨なほどにキリの卵を誉める。そういった言葉は悪気やユリウスをけなすような心からではなく、本心から発しているのだ。
そういったものを目にするにつれて、平均的な、目立たない使い魔が産まれてほしい、と願ってしまうのは当然のことと言える。
「おにいちゃん?」
「ん? あぁ、ちょっとな。
そろそろ狩りに行ってくるよ。
使い魔に餌をあげられないのは恥ずかしいもんな」
この里は基本的に自給自足だ。男でも女でも狩りに行くし、料理もする。たまに現れる行商人から、外の情報や里では手に入らない薬なんかを買って、この辺にしかいない魔物の皮と交換する程度。
魔物は里の人間にとっても、そして使い魔にとっても大事な栄養源になる。
ユリウスはまだ卵が孵化していないため半人前扱いではあるが、そこそこ器用だったのが幸いして、ある程度の狩りは出来るようになっていた。
「そっかぁ。いってらっしゃーい。
キリも計算の練習がんばるね」
あまり外に開かれていない里ではあるけれど、一応交流がないわけではない。
里のこどもたちは最低限の読み書き計算だけは教えられていた。キリは読み書きはできるようになったが、まだまだ数字の方は苦手らしい。それでも頑張って練習しているのだから偉いと思う。里の大人の中にはあまりにも適性がなく匙を投げた人間も少なくないからだ。
ちなみに、ユリウスもキリに教えられる程度には読み書き計算を習得している。
「あとで答え合わせしような、頑張れ」
地面いっぱいに文字を書くキリに手を振って、ユリウスは一度家の中へ戻った。
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