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白龍の子   作者: Auto.
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第1話 1-1白龍の子スウィン

奇妙な夢から目覚めたスウィンは自殺を考えていた。長年連れ添った彼の妻が死んだのだ。彼の体は老いなかった。彼の体は食料も水も摂らずに維持できていた。故に彼は死にたがっていた、彼はこれからも愛する者が先立つのが何よりも恐ろしかったのだ。


プロローグを呼んだ後にお読みください。


私は空間にいた。宇宙と名付けたその空間に私はいた。

私は何も出来なかった。


「それ」の「力」はあまりに強大過ぎた。


私には「それ」が何をしようとしているのかが理解出来た。何故理解出来たのかが私には理解出来た。


私だけ何故生き残れたのかが私には理解出来た。「それ」が持つ「力」に私がこの星で一番近かったからだ。


「それ」はこの星を「破壊」するつもりなどなかったのだ。むしろ逆だ。赤子をあやすように、成長した我が子を抱きしめるようにそんなほんの少しの、優しいほんの少しの力を行使しただけなのだ。


「それ」はただ「私達」と話しをしたかっただけなのだ。だがあまりにも強大過ぎた。強大で絶大で孤独過ぎた。


「私」は私の手の中でもう動かなくなってしまった親友を見る。私の背中に乗って空を飛ぶのが好きだと言ってくれた、私の最も大切な耳の長い親友を見る。


私は翼を広げそして顔を上げて見る。破壊され、粉々になりこの宇宙に漂う私達の星を。安寧で平和で誰もが幸せだった星を。


──「それ」が私に何をさせようとしているのかが私には理解出来た。










───「俺」は目をゆっくりと開く。いつもと変わらない天井だ…。いつもと変わらない…。

いや変わらなくは無いか…妙な夢を見てしまった。自分がドラゴンになって変な真っ黒い空間にいる夢だったか…?

本当に変な夢だった…今までも偶にドラゴンになる夢は見ているのだけどな…今回は格別に変な夢だった。言っている事も何もかもよく分からなかったなぁ……まあいいかそんな事は……何せもうすぐ俺は


…「死ぬ」のだから…。


 日付を確認する、今日で三週間目だ…俺は何とか死ぬ為に三週間飲まず食わずで過ごしていた、だが死ねなかった…この体は本当に厄介だ後は首でも切るしかないか…後処理が大変だろうから餓死をしたかったのだが…。俺はゆっくりと頭を回し寝床の隣を見る。隣には俺の妻リンが安らかな優しい顔横たわっている。俺はリンの顔を撫でる、顔に刻まれた皺の一つ一つを撫でる。本当に死んでいるとは思えない…今年七十二になったばかりだった。リンは三週間前に死んだ。老衰で死んだのだ…。


 俺はリンに掛けていた防腐の魔法を解く。そしてリンを丁寧に細心の注意を払い持ち上げる。とても軽い。

目から涙が溢れ出てくる。スウィンお前は分かっていただろう?いつかこの時が来る事を…

そうだ俺は分かっていた。いつか来る時が来たのだ。考えないようにしていただけだ…俺とリンの時間の流れは違う…。


 ぼやけた視界を進みながら家の外に出て積み上げておいた薪の上にリンをそっと寝かせ用意しておいた大量の油を撒く。

リンの顔を見る、視界がぼやける中リンと過ごした様々な思い出が蘇ってくる…。リンは最後は俺の事を分からなくなっていた…服も自分で着られず、自分が誰なのかさえ分からなくなっていた…でも俺は幸せだった…どんな姿になっても…リンさえ…リンさえ生きていれば俺はそれでよかった…それだけで何万年でも生きていられた…。……最後まで一緒にいられて本当に幸せだった…。

 

 俺は着火魔法を使う、積んでいた薪に火が付き小さな光がやがて大きな炎の輝きになる。


 リンの体にあっという間に炎が纏わりつき体はみるみる焼け焦げていった。嫌な臭いがするが今はその匂いでさえ愛おしい…。焦げたリンの体がだんだんと縮まっていく。パキパキと薪が弾ける音がする。俺はその光景を音を、匂いを、全て終わるまで眺めていた。「死ぬ」まで忘れないために…。何故人は死ぬのだろう…何故俺は普通に死ねないのだろう…。

俺はただ普通に生きたかった。普通に生きてリンと共に普通に年を重ね…共に歩みたかった…。


何故だ…何故俺なんだ…何故…。思えばあの時からだ…今ドルドガに会いたい…凄く会いたい…あの伝説の偉大な白龍なら教えてくれるだろうか…。



夕焼けになり始めた頃。火は消えた。俺は小さくなったリンの骨を大切に小さな箱に入れた。箱の中からはカラカラと寂しい音が響く。その時家の方から微かに音がした。


「誰だ?」

家の影から小さな顔が覗く。

「スウィン…リン…死んじゃったの…?」


「ケルか…?何やってるんだこんな所で…」

 麓の村のウィル家の長女のケル・ウィルだ。ええと今年で八歳だったかな…。こんな辺鄙な所にどうしたんだ…。


「スウィンが村に最近全然村に来てくれなかったから気になって…そうしたらね、スウィンの家の方から煙が上がってるのが見えて…それで何かあったのかなって…」


麓の村まで大人の足で二時間は掛かるぞ。ここら一帯の子供達は危なっかしいが逞しいな…。逞しいのはいいが怖いものを知らないのは良くないな…。


「それで一人で来たのか?危ないだろ…」


「大丈夫だよ!スウィンがいるからここの危ない生き物は皆近づかないよ。」

 

 うーむそういうのが危なっかしいだよなあ…。もう完全に日が暮れるし八歳の子を連れて麓まで行くにはちょっとな…。万が一って事もある。

仕方が無い。今日は家に泊まらせるか。「死ぬ」事は別に明日でもいい…。俺は「死ぬ」予定を明日に延ばすことに決めた。それよりも先ずはこの小さな訪問者を無事に送り届けなければ…。

「ケル。今日泊まってくか?」

 ケルは目を輝かせて言った。

「いいの?やった!」

ケルが思いっきり突っ込んでくる。すんでのところで横に避けて俺はケルを持ち上げて家の中に入る。ケルは家の中に入るとふくれつらで降ろして欲しがっていたので降ろしてあげた。俺は部屋の中のランタンに灯りを灯す。

暗くなった部屋に柔らかな光が灯る。


「スウィン…?リン死んじゃったんだよね?」

さっきまでリンが寝ていたところにケルが座りながら聞いてきた。


「…ん…ああ」

 俺は何か飲み物を探しながら答える。この黒山羊の乳は防腐魔法掛けてたよな?…毒見するか…俺は木の器に乳を注ぎ、恐る恐る口に含む…ん…大丈夫そうだ…。

ケルは寝床の上で足をバタバタさせていた。

「じゃあさ…じゃあさ…」

「将来私と結婚出来る…?」


「ブハッ!!ゴホッゴフッ!ヒュー……それは…無理…!!」


 何て事言うんだ!この子は!むせて死にそうになったぞ…


「ケルは…今年八歳だろ…!ゲホッ…俺は今年七十のジジイだ!九倍の年齢差だし俺はもう結婚する気…はない。」


そう俺は今年で七十だ…本当何て事を言うんだ…


「えー…スウィン、お父さんより若く見えるよ…」


ケルは寝床の上にあった鏡を俺に向ける。そこには俺が映っていた。


そこには黒い髪を纏めてだらしなく無精髭を生やし疲れた目をした三十代くらいの男が立っていた…とても七十二には見えない。俺は目を背けた、老いないこの体を見せられ自分が化け物である気がした。


「それにスウィンって私のお父さんのお師匠さんで、ドラゴンもやっつけた事があるんでしょう?名案だと思ったんだけどなあ…」

そうだケルの父トル・ウィルは俺に剣を習っていた、数十年の付き合いで剣の腕前も中々だ、もう俺には頼らず村を一人で守れるくらいにはなっていた。トルの歳は四十代で俺の息子と同い年くらいだ。この村で俺を怖がらずに接してくれるのは

もうトルとケルくらいになってしまっていた。…ただトルは少々話を盛る癖がある。


「いやドラゴンは斃した事ないよ。追っ払っただけだ。からかってるなケル……」


俺はケルの方を観てギョッとした。目に涙が溜まってる。

「どうした…ケル…!?怪我してたのか…?どこか痛い所はあるか…?」


「違う…からかってない…私…リンの事嫌いだった…スウィンの事いつもいじめてるもん」


「いじめてる…?」


「スウィンの事いつも知らない人だと思って…蹴ったり…ひどい事言ったり…スウィンはリンのお世話してる時凄く悲しそうな顔してた…」

そうか…ケルにはリンの世話をしていた俺がそう見えていたのか…


「スウィンの奥さんの癖にスウィンの顔忘れちゃって…スウィンが悲しそうな顔してるの、私凄く嫌…本当に凄く嫌だったの…」


「それなのに…ヒック…スウィンは頑張ってたのに…リンが死んじゃって…スウィンが泣いてるの見ちゃって……スウィンが可哀想……」

ケルは啜り泣いてしまった。そこまで考えていてくれたのか…この子には本当に驚かされる。俺の子供の時よりもずっと大人だ。何て優しくて強い子なのだろう…。


「…違うぞケル。俺は可哀想なんかじゃない。本当に幸せだったんだ…」


「嘘…」


俺はすすり泣くケルの隣に座る。


「…嘘じゃない。リンと一緒に居られて幸せだった」


「ケルはまだこれから色々な事を経験する。その時になったら分かるさ…それにドルドガが言うには「死」は終わりではないよ…いや…この話はケルには早かったか…」


この話はやめとこう白龍ガ・ドルドガの受け売りだった。ケルは眉をひそめて首を傾げながら聞いている、ケルはもう泣き止んでいた。


「スウィンが難しい話をする時はいっつもドルドガの名前が出てくるよねー」

ウ…バレてる。


「でも私、名前だけ知ってるだけで、全然ドルドガの事知らないんだよね…」

そういうとケルは俺の胸にかけてあった首飾りを手に取って俺の顔を見た。


「これもドルドガに貰ったの?」


「そうだよ、これはドルドガが自分の骨を削って作ってくれたんだ、何かの魔法が掛けられているらしいけど、つけていると気持ちが落ち着くんだ…つけてみるかい?」


ケルは頷く。俺はケルの首に首飾りを回してかけてあげた。ケルは嬉しそうにクルクルと回っている。


「…本当だ。あったかい…それにほんのり光ってる」


ケルは首飾りを掌で包んで目をキラキラさせて眺めている。


「私ドルドガの事知りたい…スウィンを育ててくれたんでしょう…?それで今はどこかに旅をしに行っているんだよね…?私も会ってみたいなあ…?」


俺は胸がギュッと締め付けられたような気がした。

クルクルと回っていたケルは俺の膝に乗ってきた。俺の膝の上から上目遣いで見てくる。

俺はドルドガの事をあまり話したくない…だが誰かに話さなければ誰もあの白龍の事を思い出してくれないかもしれない。

ケルにはどこまで話してあげればいいだろうか…?

ケルは身を乗り出して、思案する俺の顔を覗き込んでくる。ウ…期待に満ちた顔だ…。

俺はケルには話してもいいかなと思い始めていた。

「じゃあケルには特別に話してあげようかな…誰にも言っちゃ駄目だぞ…」


偉大な白龍に育てられた人間の子どもの話を…この俺スウィン・リュートの話を…



1-1(完)

1-2(白龍ガ・ドルドガへ続く)


1-2白龍ガ・ドルドガは近日公開予定です。

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